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「大事なのは普通の人として生きること」映画『シサㇺ』主演・寛一郎インタビュー。役者業や父・佐藤浩市について語る

  • 2024.9.13
写真:武馬玲子 ヘア(メイク):AMANO(フリー) スタイリスト:坂上真一(白山事務所)
写真:武馬玲子 ヘア(メイク):AMANO(フリー) スタイリスト:坂上真一(白山事務所)

写真:武馬玲子 ヘア(メイク):AMANO(フリー) スタイリスト:坂上真一(白山事務所)

―――寛一郎さんは、松前藩士の子として生きてきた主人公・孝二郎を演じられています。まず脚本を読んだ時の感想を教えてください。

「アイヌという文化を描きたいということを事前に知った上で脚本を読んだので、人間関係や心情含め、とても素晴らしい塩梅だと思いました。その中で説得力の深さを出すのは、僕たち役者の仕事になるので責任を感じました。

僕は、失われてしまいそうな文化を映画というエンターテイメントとして残せたら素敵だなという思いが常にあって、特に孝二郎の最終的な判断は凄く意味のあることだと思いますし、素晴らしいと思いました」

―――寛一郎さんの覚悟と演じられた孝二郎の覚悟とが重なり、とても力強くこちらに伝わってきました。和人でありながら、アイヌの文化に触れたことで、自分の目で見たものを信じ、己の正義へと向かっていく姿は、寛一郎さんご自身の持つしなやかさと、力強さが合わさり、とても真実味を持って感じられました。演じる上でどんなことを意識されましたか?

「最近は時代劇をやらせていただくことが増えてきたんですけど、そこで学んだことは、その時代に生きていた人の価値観と、今日を生きる人の価値観とをリンクさせることです。

孝二郎が兄の敵を打つために覚悟を持って武士になっていく話でもありますが、アイヌという多様性のある人たちと触れ合うことで変わっていく。なので、僕はいいストーリーテラーになれればいいなと思いました」

―――細さを残しながら程よく筋肉が付いているところが、新米の武士というリアリティを出していると思いました。肉体作りはされましたか?

「1ヶ月くらいホテルに滞在するということで、ロケ地の北海道白糠町(しらぬかちょう)に着いた時にネットで筋トレ用のベンチとダンベルを購入しました。当時の人たちは細かったと思いますが、刀を扱ったりして筋肉質だったと思うので、坂東龍汰くん含めた若い共演者たちでみんなで、僕の部屋で筋トレをしました」

―――アイヌの人たちに助けられる一連のシーンでの孝二郎の居方が、とてもナチュラルにフラットにその場にいるように見えました。孝二郎が新しい文化に触れ合う場面だったと思いますが、どんなことを意識されましたか?

「武士や侍の人たちは、敵に助けてもらうようなことがあれば自死を選ぶと思うんです。でも孝二郎は半人前なところがあって、自分が死ぬかもしれないという窮地のところでは、アイヌに反抗してはいられない。

そこに甘んじるという言葉は適切ではないかもしれないですけど、当初の孝二郎の認識としては、アイヌの人たちは敵に近い存在だったわけで、その人たちに助けられるというのは、複雑な心境であったと思うんです」

写真:武馬玲子 ヘア(メイク):AMANO(フリー) スタイリスト:坂上真一(白山事務所)

写真:武馬玲子 ヘア(メイク):AMANO(フリー) スタイリスト:坂上真一(白山事務所)

―――孝二郎とご自身の共通点はありましたか?

「自分がどうなりたいかも分からず、ただ一人前になりたい、認められたいという感覚は僕にもありましたし、そこから明確ではないにしても、おかしいと思うことや孝二郎なりの正義を見つけた時に、それが偽善や欺瞞であっても、自分の中で正解を見つけたという感覚は共感できる部分が沢山ありました」

―――寛一郎さんは、役者になると決めた瞬間があったと思うのですが、その時の感覚と近いものがあるのでしょうか?

「これは役と共通する部分ではないかもしれないですけど、人間は凄く周りに流されやすい生き物だと思っていて。孝二郎は松前藩の中で生まれ育って、それ以外の文化を知らなかったっていうこともあると思うんですけど、勉強して経験を経ていくことで、視座が広がるということは僕にもありました。

子供の時から役者業をしていたわけではなく、18歳くらいまで本当に好きに生きてきたので、その中で色々学べたこともあります。そこから自分がやりたいことは役者なのかなと。それも1つの経験ですよね。これから一生役者でいられるのかどうかはわからないけど、これからも勉強して、経験を積んで、視野を広げていかなければと思っています」

―――本作を経て、今後の表現に活かせることはありましたか?

「僕はアイヌ語のセリフはほとんど無かったのですが、坂東くんたちは膨大な量のアイヌ語のセリフがあって、何を言っているか分からないんですけど、でもどんなことを伝えようとしているのかは目を見たら分かるんです。

もちろん脚本を読んでいるので内容を知っているということもあるんですけど、やっぱり表現力だと思うんですね。人に何かを伝える時は、言語が一番大事ですが、それ以外にも大事なことがあると再認識できた気がします」

写真:武馬玲子 ヘア(メイク):AMANO(フリー) スタイリスト:坂上真一(白山事務所)

写真:武馬玲子 ヘア(メイク):AMANO(フリー) スタイリスト:坂上真一(白山事務所)

―――現場での居方で意識されていることはありますか?

「基本的には誰に対してもフラットでいたいと思うので、それは心がけています。やっぱり仕事をしていく上で、最低限のコミュニケーションは必要だと思いますし、作品を良くするためにぶつかることもあると思うんですけど、誰も気分を害さずに、楽しく仕事が出来ればいいなと思います」

―――父である佐藤浩市さんの背中を見てきたと思うのですが、父親としての姿と俳優としての姿に、どんな違いがありますか? また俳優としての凄みはどんなところに感じますか?

「父親でいる時と、俳優としている時の背中はあまり変わらない気がしますね。もちろん父のプロフェッショナルな凄さに気付くこともあります。それは技術的なこともそうですし、現場での姿や、コミュニケーションもそうですけど、現場をピシっと締めることもできますし、和ませることもできます。それはまだ僕にはできないことだし、踏襲したいところだと思っています」

―――役者をする上で、普段から心がけていることはありますか?

「ないです(笑)。僕が日頃思っているのは、役者として心がけることを辞める。普通の人として生きる。人としても役者としてもそうでありたいです」

―――最後に本作を観る方にメッセージをお願いします。

「この映画は1つの教材ではないですけど、アイヌのことを知ってもらうために作った映画でもありますし、文化を知るために凄くいいエンターテイメント作品になっていると思います。アイヌに興味がある人はもちろん観ていただきたいですし、興味がない人もアイヌという文化を知る1つの手段として選んでいただければなと思います」

(取材・文:福田桃奈)

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