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どうでもいい会話が笑えるワケとは? 『映画 THE3名様Ω これってフツーに事件じゃね?!』のユルい魅力を徹底解説&評価

  • 2024.9.13
『映画 THE3名様Ω これってフツーに事件じゃね?!』

Ⓒ2024「THE3名様Ω」Partners ⒸMakochin Ishihara

【写真】佐藤隆太、岡田義徳、塚本高史の3名様がファミレスで大はしゃぎする劇中カット。『映画 THE3名様Ω これってフツーに事件じゃね?!』劇中カット一覧

『ビッグコミックスピリッツ』誌上にて、2000年に初掲載した『THE 3名様』は、2005年に、佐藤隆太(ジャンボ)、岡田義徳(まっつん)、塚本高史(ミッキー)の3人で実写化している。

物語は『未知との遭遇』(1977)のテーマで始まり、地球に隕石が落ちてくるという壮大なオープニングからスタートする。

場面は一転し、ファミレスBig Boyでは、いつもの3名様がしゃべっている。窓越しに「隕石の落下だと思われる物体」を目撃した彼らは、探し当てればオークションで1億円で売れたという海外のニュースを思い出し、「今から行こう!」となる。ここまでであれば『スタンド・バイ・ミー』(1986)や『グーニーズ』(1985)的な冒険譚のワクワク感を彷彿とさせる。…が、その後の展開は、さすが、『THE 3名様』だ。

窓越しに「隕石の落下物」を目撃した彼らは、隕石がオークションに出品され、1億円で売れたことを報じる海外のニュースを思い出し、「今から行こう!」と盛り上がる。この時点では、『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』のような冒険物語を連想させる展開だが、そこはさすが『THE 3名様』なのだ。

まっつんがスマホで隕石の墜落地点がファミレスから5kmほど離れていると調べると、ミッキーは面倒くさがり、ジャンボだけが「この3人でビッグドリームを掴みたい!」と意気込む。

その間にSNSで隕石の話題がを知り、3人は「これは事件だ!」と店を飛び出す。しかし、この話はそこまで。おそらく、3人とも途中で飽き、隕石のことなど忘れて帰宅したのだろう。「そこから大冒険が始まるんじゃないのか!」とツッコミたくなる肩透かしな展開だが、この3人を見ていると、なぜか安心感が沸いてくるのだ。

しかし、この安心感の正体はなんだろう。実年齢は作中で明らかにされていないが、中年になっても、3人が織りなす会話の内容、テンションは2005年のスタート時から一切変わっていない。

少しイキっているミッキー、冷静でありながらも独特な雰囲気を持つまっつん、そして純粋無垢なリーダー格のジャンボ。彼らの座り位置にも注目してほしい。ミッキーが一人で画面右の座席、まっつんとジャンボが左の座席に並んで座る。

この構図こそ『THE 3名様』の特徴。古参ファンは「やつらが帰ってきた!」という懐かしさで涙腺を刺激されるのではないだろうか。

原作漫画もこれまでの映像化作品も、どこから見ても自然と楽しめて笑える。これは、原作者の石原まこちん先生と俳優陣たちの絶妙な掛け合いによるものであり、これこそが実写版『THE 3名様』の魅力だと言えるだろう。

『映画 THE3名様Ω これってフツーに事件じゃね?!』

Ⓒ2024「THE3名様Ω」Partners ⒸMakochin Ishihara

本作では、それぞれ異なるタイトルが冠されたショートストーリーが展開されていく。

ミッキーが、Big Boy近辺で起きた未解決の行方不明事件について話し始める。ジャンボがスマホで調べたところ、行方不明者は「ヒバリ(仮名)」(平岩紙)という人物。彼女の旦那さんが電話すると、「私、大丈夫です」と一言返すだけで、その後、「かごめかごめ」を歌い出して電話が切れたというのだ。

この話を自分から持ち出しておきながら、ミッキーは突然怖くなり、「今から朝までスマホを禁止しよう!」と提案する。理由は、スマホが暇つぶしの質を下げているからだと。その後、ミッキーは紙ナプキンで千羽鶴を折り始め、ジャンボはフライドポテトを立てることに執着し、まっつんは容器の氷が溶けるのをじっと見つめる。

原作の初期シリーズでの「肩パンチ論争」を思い出させるエピソードであり、オールドファンには懐かしさを感じさせる一幕となっている。かつてはジャンボ(原作でのあだ名はフトシ)に肩パンチを繰り返していたまっつん。それを禁止したはずと痛がるジャンボ。この小さな口論からも、3人の成長が感じられるかもしれない。

『映画 THE3名様Ω これってフツーに事件じゃね?!』

Ⓒ2024「THE3名様Ω」Partners ⒸMakochin Ishihara

 

最後に、本作のクライマックスを形成するエピソードを解説しよう。

ある日、Big Boyに覆面をかぶり、片手をジャケットで隠し、その中に銃器があると思われる男が乱入してくる。男は、この店が大騒ぎになればなるほど、自分の目標は達成されると言い、SNSで自分のことを拡散しろという、謎めいた要求をする。

さらに、店員・岩元(桃月なしこ)を人質に取り、「ビッグ手ごねハンバーグと王様のステーキAセット」を注文。このメニューを食べ終わるまでに騒ぎが起きなければ店は営業終了だと告げる。

そんな中、3名様たちは、「この店が閉まったら、駅の向こうのファミレスに行かなきゃいけない!」という、ゆるい心配をしつつ、犯人を説得しようと、順番に交渉に挑む。

この最終章に関しては、ネタバレは控えておきたい。だが、これまでの「どうでもいい」エピソードのすべてが絶妙に絡み合い「ああ、あの時のあれがこうなんだ!」という驚きが待っているはずだ。

事件が終わった後のミッキーの「それ以上でもそれ以下でもない」締めの一言に、観客は同調しながら爆笑することは間違いないだろう。

さらに、覆面を取った犯人役には、意外にも大物俳優が起用されている。最後の最後まで、何を狙ったのかよくわからないが、それもまたこの作品の面白さである。おそらく、最初から伏線回収を考えていたわけではなく、最終章で「無理くり」に全編をまとめ上げたのだろう。しかし、それがまた『THE 3名様』らしいと言える。

結局、3名様の日常には「どうでもいい」ことが詰まっているが、それこそが我々の共感を呼ぶリアリティである。映画を観た後、無性にファミレスに行きたくなる人も多いのではないだろうか。

(文・ZAKKY)

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