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街じゅうを映画館に変えて。「キノマド」の10年と、夜空に虹をかける上映会。

  • 2024.9.12

Sitakkeで何度か記事を執筆しています、ライターの太野垣といいます。
日ごろは様々な人のインタビューや企業の紹介記事を執筆している僕ですが、今日は少しだけ自分の話をさせてください。

突然ですがみなさん、映画館には足を運びますか?

たぶん、多くの人が「もう何年も…」「たまには行くけど…」と答えるはず。今はサブスクでいつでも好きな映画が観られる世の中になり、頻繁に足を運ぶ人は少ないと思います。

僕はライターとして仕事をしながら、「キノマド」という団体に所属して、映画の自主上映活動に取り組んでいます。

自主上映とは、自分たちで映画を上映する権利を借りて、場所を手配し、宣伝してお客さんを集め…と、文字通り映画上映にかかわる全てを自分たちで行う形式のこと。

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キノマドはこれまでにカフェやビルの屋上、ホテルや書店、お寺の本堂など、街のあらゆる場所で上映活動をしてきました。ちょうど今年で10周年を迎え、上映作品数は90以上、会場は20以上に及びます。

活動の目的は「映画館とも家とも違う楽しみ」という「+α」提供し、映画の面白さを再認識してもらうこと。そして映画館にまた、足を運んでもらうことにあります。

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僕は8年ほど前、札幌に移住してすぐの頃から、キノマドの活動を手伝ってきました。初めての参加は市街地のとあるビル屋上での上映会。当時、スクリーンは木製で組み立てが必要なもので、やっとのことで組み上げた後、ふとした拍子に踏んで「バキィッ」っと破壊してしまい、とっても気まずい空気が流れたのを覚えています。

と、同時に「こんな上映の形があったのか」と感激しました。スクリーンの光を反射して見える観客の横顔の、真剣なまざなし。時々風に乗って聞こえる笑い声や、鼻をすする音(もちろん花粉症じゃなくて泣いていたのだと信じています)。

さらに屋上というロケーションに惹かれて来場してくれた方が多いのか、日ごろは映画館よりビーチが似合いそうなカップルや、さっきまで夜景を背景に自撮りをしていた女の子たちまでもが、皆さん一様に神妙な顔つきをしている訳です。ちょっと不思議な光景でした。

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上映を終えると、代表の田口亮さんが映画の解説をします。これが毎回、思わず「そんな視点があったのか」と言いたくなるお話です。誰しも映画を観た後、どこかで「何だったんだろう」「どうゆう意味?」という「モヤモヤ」を感じたことがあると思いますが(もちろん、見方はそれぞれで「答え」はないのですが)、そこに1つのヒントを与えてくれるのです。

終わった後は、残って上映スタッフに話しかけてくれる人もいれば、外を眺めながら余韻にひたっている方もいます。感慨深い表情を浮かべ、小さな声で「ありがとうございました」と去って行く人々。僕の思い込みかもしれませんが、どこか来た時とは顔の印象が異なって見えたんです。

きっと参加した方々に何か、いい影響を与えられたはず。そう思い夢中で活動して、気付けば8年が経っていました。

僕自身もかつて映画にたくさん救ってもらった経験があるからこそ、多くの人に体感して欲しい。おこがましいようですが、この気持ちが、長らくお手伝いしている大きな理由です。

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さて、そんなキノマドが今週末の9月14日(土)と15日(日)、毎年恒例となっている札幌パルコ屋上での上映会「PARCO TOP CINEMA」を開催します。

テーマは「rainbow in the night(夜空に虹をかけよう)」。同日に開催される「さっぽろレインボープライド」の関連イベントとして、LGBTQにまつわる作品を上映します。

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14日は橋口亮輔監督によるゼロ年代の名作『ハッシュ!』。当時の日本ではまだ語られることが少なかった同性愛カップルを題材にした画期的な作品で、クスッと笑えるユーモアあふれる会話が魅力です。

15日は性別適合手術を決意した少年と家族をめぐる『アバウト・レイ 16歳の決断』。シングルの母、破天荒なレズビアンの祖母とそれぞれ事情を抱えながらも互いを理解し、多様な家族のあり方を示したヒューマンドラマです。

キノマドは10年間さまざまな映画を上映してきましたが、近年はある基準を設けています。それは「世界中のみんなが見たら、きっと世の中が良くなる映画」です。

実は僕自身、幼少時から「生きにくさ」を感じていました。恐ろしく足が遅く運動音痴なおかげで、幼馴染みや同級生の男子には置いてけぼりを食らうばかり。お昼休みは体育館やグラウンドには行かず、教室で女子たちとおしゃべりしていたので、いつも「男のくせに」と言われたものです。おかげで大人になっても「置いてけぼり」という感覚が消えませんでした。

そのたびに救ってくれたのは、映画です。映画は、自分の目では決して見えなかった風景、行けなかった場所、得られなかった考えをフィルム通して見せてくれるもの。Sitakkeの連載タイトルを借りるなら「こう生きたっていい」と教えてくれる存在です。

今回の上映会も誰かに「いいんだよ」と、そっと支えてくれる会になると信じています。誰かの心にあるモヤモヤが晴れて、虹がかかりますように。長身で痩せ型の、そこそこ運動ができる風の男を見かけたら、ぜひ声をお掛けください。

詳細:rainbow in the night

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