1. トップ
  2. レシピ
  3. 【キノコが機械を制御する!?】菌糸体で電気制御するバイオハイブリッドロボット

【キノコが機械を制御する!?】菌糸体で電気制御するバイオハイブリッドロボット

  • 2024.9.12
菌糸を電子部品の代わりにしたバイオハイブリットロボット
菌糸を電子部品の代わりにしたバイオハイブリットロボット / Credit:Cornell University

機械に生物の一部を組み込んだバイオハイブリッドロボットは、従来のロボット技術では実現不可能な技術を開拓できるかもしれません。

金属部品の代わりに生物を用いることで、より柔軟で高性能なロボットが生み出せるかもしれないのです。

そして最近、この分野で新たな一歩が踏み出されました。

アメリカのコーネル大学(Cornell University)に所属するロバート・F・シェパード氏ら研究チームが、カビやキノコなどの真菌類が持つ糸状の構造「菌糸」を組み込んだバイオハイブリッドロボットを開発したのです。

開発された多脚ロボットは、菌糸から送られる電気信号を感知して駆動します。

つまり、キノコが操作するロボットなのです。

研究の詳細は、2024年8月28日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。

目次

  • 「生物と機械の融合」がロボットの可能性を広げるかも
  • キノコ(菌糸体)が動かすバイオハイブリッドロボット

「生物と機械の融合」がロボットの可能性を広げるかも

生物の皮膚や組織、筋肉は、柔軟かつ軽量で、環境に優しく、高いエネルギー効率を誇ります。

また、触覚や光、熱などの環境の様々な信号に反応することもできます。

しかし、科学者たちが、生物レベルに高性能なロボットや部品を生み出すのは、まだまだ先のことです。

機械に生物の一部を組み込むバイオハイブリッドロボット。イメージ。 / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

そうであれば、そのような部品が開発されるのをずっと待つよりも、既に存在している生物の一部をロボットと組み合わせる方が良いかもしれません。

近年、そのようなバイオハイブリッドロボットの研究が進められています。

例えば、培養したネズミの筋肉細胞を利用して動作するロボットや、ヒトの心筋細胞で泳ぐ魚ロボットが開発されてきました。

もちろん現段階では、これらの技術は実用的ではありません。

生体組織は、「寿命の制限」「環境要因の影響を受けやすいこと」また「培養の難しさ」ゆえ、実際にロボットに組み込んで持続させるには、膨大な労力がかかるからです。

それでも将来、このようなバイオハイブリッドロボットは、従来のロボット技術の限界を超える可能性を秘めています。

土の中に広がる菌糸 / Credit:Canva

今回、シェパード氏らは、より使いやすく、堅牢な生体部品として、カビやキノコなどの真菌類が持つ糸状の構造「菌糸」に着目しました

そもそもキノコは菌糸が集まってできたものであり、地下では根のように広がる菌糸によって栄養を吸収しています。

また菌糸は、厳しい環境でも生育でき、化学的および生物学的信号を感知し、それらに反応する能力も備えています。

まさに堅牢な生体部品としてはピッタリな存在なのです。

そこでシェパード氏らは、菌糸を利用したバイオハイブリッドロボットを開発することにしました。

キノコ(菌糸体)が動かすバイオハイブリッドロボット

生物の細胞は電気を帯びた状態を保っており、細胞外からの種々の刺激によって、その電位を変化させています。

電気生理学では、電極をそれら組織表面や細胞内に固定することで、電圧や電流の制御や測定を行うことが可能です。

菌糸体の電気生理学的な活動を記録・変換し、ロボットへ信号として送る。 / Credit:Robert F. Shepherd(Cornell University)et al., Science Robotics(2024)

今回、シェパード氏ら研究チームは、ペトリ皿の中で菌糸体(菌糸の集合体)を培養し、その菌糸体と電子機器を電極で繋ぎました。

これにより、菌糸体の電気生理学的な活動が正確に記録され、さらにその信号は、ロボットが理解できるデジタル信号へと変換されました。

その後、この部品は多脚ロボットへと組み込まれ、菌糸体から送られる信号で駆動するよう調整されました。

菌糸体の電気生理学的活動に対応して歩くロボット / Credit:Robert F. Shepherd(Cornell University)et al., Science Robotics(2024)

このように設計されたバイオハイブリッドロボットは、菌糸体の中で生じる自然な信号(電位変化)を感知し、その信号に応じてて歩くことができます。

この状態では、菌糸体から得られる情報をただ読み取ってロボットの歩行に反映させただけですが、研究では、菌糸体が受ける外部刺激によって歩行を変化させることにも成功しました。

ペトリ皿の菌糸体に紫外線を照射することで、電気生理学的活動が変化。ロボットの動きや軌道も変えることができたのです。

このことは、菌糸体を用いたバイオハイブリッドロボットが、環境の変化を読み取って対応できることを示しています。

また別の実験では、ロボットを手動で操作することを想定し、菌糸体からの信号を完全に無効にするテストも実施。見事成功しています。

紫外線に反応して進路を変える車輪付きロボット / Credit:Robert F. Shepherd(Cornell University)et al., Science Robotics(2024)

さらに、ペトリ皿を装備した車輪付きロボットも開発され、いわば「キノコが運転する車」が動くことも示されました。

ちなみに今回の研究で利用された刺激は紫外線だけでしたが、研究チームによると、将来的には、複数の刺激による入力を組み込むことが可能だという。

この推測は、「生体システムは、光・熱・圧力などの複数の刺激に反応するのが得意である」という事実から来ています。

従来のロボットは、複数の刺激に対応するために、複数のセンサーを装備しなければいけませんが、バイオハイブリッドロボットであれば、1つの生体部品だけで様々な刺激に対応できる可能性があるのです。

研究チームによると、将来のバイオハイブリッドロボットは、まるで生物のように土壌に関する複数の情報を感知し、肥料を追加する時期を決定することなどが可能かもしれません。

まだまだ発展途上な分野ですが、今回の菌糸体ロボットは、将来の道筋をいくらか示してくれました。

参考文献

Biohybrid robots controlled by electrical impulses — in mushrooms
https://news.cornell.edu/stories/2024/08/biohybrid-robots-controlled-electrical-impulses-mushrooms

Fungus learns to drive in “biohybrid” robots
https://newatlas.com/robotics/fungus-drive-biohybrid-robots/

元論文

Sensorimotor control of robots mediated by electrophysiological measurements of fungal mycelia
https://doi.org/10.1126/scirobotics.adk8019

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる