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映画のような美しさ…河合優実”七実”の愛に満ちたセリフとは? NHKドラマ『かぞかぞ』第8話考察レビュー

  • 2024.9.12
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第8話 ©NHK

河合優実主演のNHKドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が地上波にて放送中。岸田奈美のエッセイを元にした本作は、2023年にNHKBSプレミアム・ NHKBS4Kで放送され大反響を呼んだ。今回は、第8話のレビューをお届け。(文・ 明日菜子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:明日菜子】
視聴ドラマは毎クール25本以上のドラマウォッチャー。文春オンライン、Real Sound、マイナビウーマンなどに寄稿。映画ナタリーの座談会企画にも参加。

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第8話 ©NHK
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第8話 ©NHK

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK総合)のテーマは、“家族”という集合体である。しかしながら、その物語は“岸本家”という単位で彼らを一括りには語らない。

父と娘や母と息子、姉と弟など、家族間における個々の関係性を描くドラマなのだ。母と娘の物語はひとみ(坂井真紀)と七実(河合優実)によって幾度も展開されてきたが、『かぞかぞ』にはもう1つ、芳子(美保純)とひとみによる“母と娘の物語”がある。祖母と母ではなく、あくまでも“母と娘”の物語だ。

今回放送された第8話では、芳子の若かりし姿が描かれる。美保純と臼田あさ美が交互に紡いだ芳子の人生には、さながら短編映画のような美しさがあった。

ひとみの大手術は無事に終わったものの、芳子の認知症はどんどん進んでいった。奇行の原因がまさか認知症だなんて思いもしない七実は、芳子に対して、辛辣な態度をとるようになっていた。

「ひょっとして岸本さんアンタ、おばあさんを嫌ってるね?」と小野寺(林遣都)から言われるくらい、祖母へのフラストレーションがたまっていたのだ。

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第7話 ©NHK
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第7話 ©NHK

ある日、芳子は誰にも告げずに、手ぶらで大阪の家に戻ってしまった。隣に住む住吉(片桐はいり)から連絡を受けた七実は、急いで大阪へ向かう。そこで七実は今まで知らなかった祖母の物語に触れ、芳子がどのような人生を歩んできたのかを知ることになるのだ。

芳子と茂(黒田大輔)が何度も熱烈なラブレターを送るくらい大恋愛だったこと。近所の人からも慕われ、ひとみを“浪花の明菜ちゃん(または吉永小百合)”だと伝え回るくらいに昔から溺愛していたこと。口癖である「負けるより勝ったほうがええんや」のルーツが、競馬好きの茂にあったことーー。

だが、芳子は結婚前に奉公に出された苦労人でもあった。大恋愛の末に結婚したものの、ギャンブル好きで酒癖の悪い茂に乱暴な態度を取られることも少なくなかったのだ。

当たり前だが、生まれた時から「おばあちゃん(祖母)」である人はいない。子どもを産み、その子どもにまた子どもが産まれることで初めて、その人に「おばあちゃん(祖母)」という呼称がつく。つまり、それは家族間の関係性を示す言葉に過ぎず、祖母にも当たり前のように、若い時代があったのだ。

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第5話 ©NHK
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第5話 ©NHK

芳子の若かりし時代と同時に『かぞかぞ』が描くのは、“家族の老い”である。亡くなった耕助(錦戸亮)や大病を患ったひとみとは違い、ゆっくりと迫ってきた芳子の変化。いつか家族のことさえも忘れてしまう日がくるかもしれないという悲しみが押し寄せながらも、第8話に感じたのは、心が満たされるような温かさだ。

例えば、七実が芳子の認知症に気づく場面や、ひとみに「ばあちゃん、認知症やな」と伝える場面には、優しい光がさしていて、誰もが避けて通れない“家族の老い”が決して悲しみだけで終わるものではないと語りかけているようだった。

「お母さんにも人生の喜び、ちゃんとあったかな…」と子どものように泣きじゃくるひとみに対して、「うん、あったよ。今もある」と孫である七実が祖母の人生を肯定する姿も愛に満ちていた。

大切にしていたものがいつか古びてしまうように、人間も必ず年を取る。時の流れには抗えないけれど、それでも変わらずに、受け継がれるものがある。

祖母と孫が同じようにりんごを剥くシーンはその象徴だ。おそらくひとみもりんごを剥く際、同じようにうさぎ型にして七実に与え、自分は余った耳の部分を食べていたのだろう。

芳子の愛情はひとみに、ひとみを通して七実へと受け継がれる。たとえ芳子が忘れてしまったとしても、その愛が絶えることはない。

入院生活を終えたひとみは、ようやく自宅に戻る。久しぶりに言葉を交わす母は、以前よりぼんやりしているものの、家族のために忙しなく働き、会話することさえもままならなかった母とようやく向き合う時間を手にしたひとみは、どこか嬉しそうだった。

『かぞかぞ』におけるもう一つの“母と娘”の物語は、これからも続いてゆく。

(文・明日菜子)

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