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ヘビと人間の間に愛は生まれるのか? 恐怖と親愛の間でゆれうごく歪な夫婦関係の向かう先『大蛇に嫁いだ娘』

  • 2024.9.11

この記事には刺激的な画像が含まれます。ご了承の上、お読みください。

異種族間の恋愛を描いている作品はいくつも存在する。しかし片方は人間だが、相手はまったく人型をとっていない爬虫類……それも十数メートルにおよぶ大蛇となれば、そもそも恋愛どころの騒ぎではなくなってしまうのが普通だろう。

そんな普通の概念をぶちやぶる夫婦生活を描いているのが本作『大蛇に嫁いだ娘』(フシアシクモ/KADOKAWA)だ。

主人公となる村の娘ミヨは、無病息災と豊作のため、供物として「山の神」に嫁ぐことになる。神様など形式だけで実在しない場合も多いものだが、この地域は違う。全長十数メートルにおよぶ白い大蛇が実在し、捧げられた娘と実際に婚姻するのだ。 人の言葉を話すことはできるが、脱皮も冬眠もするし、キツネなどをひと飲みにする大蛇。そんな異形の存在と、夫婦として、ふたりきりの生活がはじまっていくのだった。

みずからの何倍もある大蛇とともに生活していくと聞けば恐怖を感じる人がほとんどだろう。主人公ミヨも、もちろん最初は恐怖にとらわれた。しかしそのまま「怖い」だけで終わらないのが本作の興味深いところ。ミヨは大蛇と同じ時間をすごすことによって、次第に相手に親しみを覚えていくのだ。

たしかに大蛇の態度はいかなるときも紳士的だ。襲いくるクマから守ってくれたり、寒い夜に温めようとしてくれたり、たまたま捧げられた嫁には不相応なほど愛情をそそいでくれる。そんな状況に親愛の感情を持つようになるのも不思議ではない。しかしそれは相手が人間であれば、の話だ。

実際にはその頼れる「夫」は、手も足もなく、表情から感情を読みとることもできず、白く光沢のあるウロコにおおわれた異形の存在に他ならない。

丁寧にあつかってもらえる相手を信頼し、次第に愛情をいだいていくミヨの気持ちは理解できる。同時に、どこまで行ってもやはり相手はヘビであるという恐さからも逃れることができない。そんな安心と不安をつねに行き来する読み口が、まとわりつくようにクセになる。

たんに怖いだけでも温かいだけでもない。明らかに異質な夫婦関係を描いた本作は、今までに感じたことのない読後感をもたらしてくれるはずだ。

文=ネゴト / たけのこ

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