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残虐すぎる…実在のテロ事件・テロリストを描いた衝撃の映画(4)犯人と人質が恋仲に… 実話ベースの異色作

  • 2024.9.12
渡辺謙【Getty Images】

明治における伊藤博文暗殺事件、大正における原敬暗殺事件など、節目節目で日本の歴史を大きく変えてきたテロ事件の数々。その多くは、血塗られた黒歴史として疎まれる一方、被害者が権力者であることから「世直し」の名目で正当化されることもある。今回は、実在のテロ事件、テロリストをテーマにした映画を5本紹介する。第4回。(文・編集部)
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●『ベル・カント とらわれのアリア』(2018)

上映時間:101分
監督:ポール・ワイツ
原作:アン・パチェット『ベル・カント』
脚本:ポール・ワイツ、アンソニー・ワイントラーブ
出演:ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮

●【作品内容】

舞台はとある南米の国。副大統領の家でソプラノ歌手、ロクサーヌ・コスのコンサートが開催される。主催者である実業家のホソカワ(渡辺謙)、通訳のゲン(加瀬亮)、各国の大使らが一堂に会する中、突然、テロリストたちがなだれ込み、その場を占拠し始めるのだった。

●【注目ポイント】

「リマ症候群」という言葉をご存知だろうか。

「リマ症候群」とは、誘拐・監禁事件で犯人が人質と生活をともにする中で、攻撃態度が徐々に軟化してくる現象のこと。人質が犯人に共感を抱く「ストックホルム症候群」と対比して用いられる場合が多く、「罹患」した犯人が人質に好意を抱くことすらあるという。

さて、アメリカの作家アン・パチェットが書いた本作の原作小説は、この「リマ症候群」のきっかけとなったとある事件がテーマとなっている。日本からはるか南東へ15,000km進んだところにある南米の国、ペルーで起きた事件だ。

1996年12月17日。この日リオにある日本大使公邸では、青木盛久大使をホストとした天皇誕生日の祝賀レセプションが行われていた。と、そこに、黒い服装に赤い覆面をつけた武装集団が乗り込んでくる。

この集団は、ペルーの左翼ゲリラ組織トゥパク・アマル革命運動(MRTA)のメンバーで、時の首相アルベルト・フジモリの新自由主義的な経済政策を方針転換させること、などを目的としていた。彼らは、たった14人で青木大使をはじめとする622人を人質に取り、127日間もの長期間にわたって公邸を占拠することになる。

一般的に、立てこもり事件といえば犯人が武器をちらつかせて人質たちを屈服させるというイメージが強いだろう。この事件の場合も、テロリストたちははじめ公邸内で爆弾を爆発させたり人質を銃で脅したりと、かなり暴力的な手段を講じていた。

しかし、時間が経つにつれ、テロリストたちは人質と心を通わせ始める。人質側が貧困層出身者の多いテロリストグループに同情を示したからだ。そして、人質とテロリストたちは最終的に日本語とスペイン語の相互レッスンをしたりゲームを楽しんだりするまで仲良くなったという。

こういった人質とテロリストたちとの交流は本作でも描かれており、作中では史実とは異なるものの人質とテロリストが恋仲になったりする。そして、こういった描写がフリになっているからこそ、テロリストたちがたどる結末に胸が苦しくなるのだ。

なお、当時ペルーの日本大使館員だった小倉英敬氏は、自身の著書で次のように述べている。

「ストックホルム症候群だの、リマ症候群だのという言葉が流行語になったが、そんな心理学上の用語以上に、人間的な関係が成立していたことを重視すべきであろう」(小倉英敬『封殺された対話 ペルー日本大使公邸占拠事件再考』より)

テロリストだって同じ人間-。この言葉を合言葉にすれば、私たちも彼らと分かち合うことができるのかもしれない。

(文:編集部)

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