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クルーズ客船を真っ二つ!9週間で巨大船を造るダイナミックな「船体延長工事」

  • 2024.9.11
クルーズ客船を真っ二つにして延長する工事 / Credit:Windstar Cruises(Youtube)_How to Stretch a Ship(2019)

宿泊設備やレストラン、プールなどを備えたクルーズ客船では、豪華な船内で最高のひと時を楽しむことができます。

近年ではより巨大で豪華なクルーズ客船が求められており、最近では2024年1月に、世界最大の客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」がデビューを果たしました。

この船は、全長365m、最大収容人数9950人と巨大であり、船上には遊園地さえも備わっています。

しかし、巨大なクルーズ客船の建造にはかなりの年月と膨大な費用がかかります。

そこで注目されているのは、「既存のクルーズ客船を半分に切断し、新たに客室を追加する」という船体延長工事です。

大胆な工事に衝撃を受ける人も少なくありませんが、実はこの方法なら巨大クルーズ客船を安価に手に入れることができます。

ここでは、クルーズ客船を半分に切断する工事の方法やメリットをご紹介します。

目次

  • クルーズ客船を真っ二つにする工事は経済的
  • たったの9週間で工事完了!?船体延長工事の映像

クルーズ客船を真っ二つにする工事は経済的

巨大クルーズ客船の需要は増加していますが、新しい船を建造することは簡単ではありません。

例えば、世界最大のクルーズ客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」は、建造開始から進水(建造した船を水上に浮かべること)まで約2年半もかかりました。

しかもその建造には約20億ドル(約2900億円)かかったとも言われています。

では、もっと安価で素早く、巨大なクルーズ客船を建造する方法はあるでしょうか。

船体延長工事のイメージ。まず既存のクルーズ客船を半分に切断する / Credit:Windstar Cruises(Youtube)_How to Stretch a Ship(2019)

実は、「ジャンボ化」とも言われる「船体延長工事」を行えば、安く、そして早く、巨大クルーズ客船を建造できます。

これは巨大なクルーズ客船を一から建造するのではなく、「既存のクルーズ客船を延長する」という方法です。

既存のクルーズ客船を半分に切断し、その間にぴったりと合うような追加の船体を差し込むという大胆な手法です。

そしてこの船体延長工事を採用するなら、あるケースでは、平均8000万ドル(約116億円)の費用と2カ月の休止期間だけで、クルーズ客船を巨大化させられます。

もちろん、費用はクルーズ客船の規模によって様々ですが、新しく巨大クルーズ客船を造るよりもはるかに安くなります。

しかも、運航をすぐに再開できるため、数年以内にすべての運営費を回収できます。

切断したクルーズ客船の間に、新たに建造した船体を追加。延長する / Credit:Windstar Cruises(Youtube)_How to Stretch a Ship(2019)

またこの工事を行う際に既存部分の整備も行うことで、全体としてクルーズ客船の寿命を20年延ばすことができるという。

しかも既存の乗組員に、僅かなスタッフを加えてトレーニングするだけで、すぐに運航を開始できます。

まさにクルーズ客船業界にとって、現在の需要を満たすピッタリの方法だと言えます。

では、この船体延長工事はどのように行われるのでしょうか。

実際の映像から確認してみましょう。

たったの9週間で工事完了!?船体延長工事の映像

船体延長工事は昔から存在する / Credit:Windstar Cruises(Youtube)_Windstar Cruises Cut The Ship In Half(2019)

既存のクルーズ客船を半分に切断するという「船体延長工事」は、新しいアイデアではなく、クルーズ客船特有の工事でもありません。

第二次世界大戦直後には既に船体延長工事は行われており、造船業者たちは軍艦を巨大化していたようです。

現在ではよく知られた手法になっており、クルーズ客船を数十メートル延長させることを専門とする造船所も存在します。

では、実際の様子を見てみましょう。

まず、エンジニアは元になるクルーズ客船の設計図を確認したり、実物に乗って何百もの測定を繰り返し行います。

これらが終わると、延長部分として追加される「新しい胴体」を設計します。

既存のクルーズ客船を切断。切断面に合うよう新しい船体を設計する。 / Credit:Windstar Cruises(Youtube)_Windstar Cruises Cut The Ship In Half(2019)

既存のクルーズ客船が半分に切断されるということは、それらを繋いでいた何千ものパイプやワイヤー、ケーブルも切断されることになります。

当然、新しい胴体が挿入された時には、それら切断されたパイプやワイヤーを繋がなければいけません。

新しい胴体の設計図は、すべての切断面がズレないよう正確に設計されていなければいけないのです。

また、新しい胴体(客室)のシステムが既存のシステムに負荷をかける場合には、既存の設備をアップグレードする準備もしていなければいけません。

そして実際に新しい胴体が建造されると、まるでアパートをスライドさせるかのように、半分に切断されたクルーズ客船の間に挿入されます。

ちなみにクルーズ船の切断には数百人にも及ぶ作業員が動員され、ミリ単位の精度を保つためにレーザーガイド(レーザー光を使用して切断ラインを明示する補助器具)を用います。

しかも、切断の順番によっては特定の部位に膨大な力が加わってしまうため、どの部分をどの順番で切断するかが慎重に計画されています。

船体延長工事の実際の映像。たった9週間で工事が終了することも / Credit:Windstar Cruises(Youtube)_Windstar Cruises Cut The Ship In Half(2019)

新たな胴体が挿入され後は、すべての面を溶接していきます。

まずは船体やデッキなどの外側を結合し、その後、何千ものケーブルやダクト、ワイヤーを再接続していきます。

その間、別のチームは船の外で、船全体の塗装を行っています。

最後には電気・機械・油圧などのすべてのシステムを徹底的にテストし、長い船旅に耐えられるか強度が確かめられます。

ある工事では、新しい船体の設計を含め、プロジェクト全体で9カ月ほどかかりますが、クルーズ客船の工事自体はわずか9週間で完了します。

わずか2カ月の休止期間で巨大なクルーズ客船へと生まれ変わるのだから、以前のクルーズ客船を知っている人からすると驚きです。

もしかしたら今後、船体延長工事によって巨大化したクルーズ客船に乗ることもあるかもしれません。

その時には、その船が過去に真っ二つにされたことをイメージしてみてください。

参考文献

Watch: Cruise ships chopped in half are a license to print money
https://newatlas.com/marine/how-to-stretch-cruise-ship/

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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