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元女優の腹違いの妹、怪しい宗教団体…いなくなった少年少女の謎を追う!ミステリー短編集『漂白の街角』

  • 2024.9.11
ダ・ヴィンチWeb
『漂泊の街角〈新装版〉 失踪人調査人・佐久間公:3』(大沢在昌/双葉文庫)

「新宿鮫シリーズ」や「狩人シリーズ」などの人気作を世に送り出してきた大沢在昌氏による初期の名作「佐久間公シリーズ」。デビュー前から書いていたという、ハードボイルド作家・大沢在昌氏の原点ともいえる作品だ。

デビュー作を含む『感傷の街角』に続く短編集がこのたび、新装版『漂泊の街角〈新装版〉 失踪人調査人・佐久間公:3』(双葉社)として文庫で復刻。7月発売の『標的走路』から始まった「佐久間公シリーズ」4ヵ月連続刊行の第3弾だ。

主人公は、10代から20代の若者の失踪人探しが専門の探偵・佐久間公。2作目の短編集である『感傷の街角』では、その若さから見くびられることがあった公も30代手前という年齢を迎えている。公は若者たちと距離を感じ、公の悪友で「西の大物の御落胤」と噂されるモテ男・沢辺も、年齢を理由に車をやんちゃなバラクーダからメルセデス500SELに乗り換えた。

同作には、弱小草野球チームの助っ人として愛された謎の青年を探す「ランナー」、一世を風靡した元女優から腹違いの妹を探してほしいと依頼される「スターダスト」、17歳の美少年タレントを探す公が予想外の事態に巻き込まれる「悪い夢」、宗教団体から少女を連れ戻したものの新たな事件が起こる「炎が囁く」など、6本の短編を収録。知力と瞬発力、強い意思を武器にいなくなった少年少女をめぐる謎を追う公が、都会の夜を駆け抜ける。

公が巻き込まれる事件の数々は、前作にも増して濃密だ。人間の愛憎や国内外の勢威が複雑に絡み合った物語は、単に失踪人が見つかって終わりとはいかない。予想がつかない展開や、目を背けたくなるほど厳しい現実を突きつける毎話の結末に、愚かで弱く、しかし誰かに寄りかからなくては生きられない愛すべき人間の本質に直面して、圧倒される。

公がこれまで探偵として生きてきた時間の厚みや、年齢を重ねて増していく彼の人間力を感じられるのも、シリーズを愛読してきたファンには嬉しいところ。お互いを認め合う警視庁捜査一課の優秀な刑事・皆川との関係や、ピンチに公のもとへと駆けつける人物の存在が、誰にも媚びないのに周りに愛されてしまう探偵・佐久間公の魅力を証明している。軽口を叩きつつ、なんだかんだで何よりも友を優先するナイスガイ・沢辺と共にターゲットを追って夜の街を駆け抜ける展開も、本作の胸アツポイントだ。

しかしこの『漂泊の街角』の最大の見どころは、30歳を前に大人の男として成熟しつつある公の心情を感じられることだろう。失踪人を見つけた後も自分の心にひっかかる事件を追い続けるこだわりや、仕事の中で関わる男たちへの憧れ、そして探偵という生業への思い――血気盛んな時期を超えて、自らの人生の意味に向き合い始める姿には切なさすら感じる。新たな色気を手にした人間・佐久間公の、今後の活躍だけでなく生き様も見守りたい、そんな思いに駆られる1冊だ。

文=川辺美希

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