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「スカイキャッスル」狂気のセレブ妻は過去の自分…高学歴エリートが娘を「洗脳し、追い詰めた」結果

  • 2024.9.11
松下奈緒主演のドラマ『スカイキャッスル』が話題だ。超富裕層を生きる登場人物たちは、子どもの難関校合格をめざしてあらゆる手段を講じる。「かつての自分を見ているようだ」と、40代女性は苦しい記憶を語った。画像出典:『スカイキャッスル』(TVer)
松下奈緒主演のドラマ『スカイキャッスル』が話題だ。超富裕層を生きる登場人物たちは、子どもの難関校合格をめざしてあらゆる手段を講じる。「かつての自分を見ているようだ」と、40代女性は苦しい記憶を語った。画像出典:『スカイキャッスル』(TVer)

狂気のセレブ妻を演じる松下奈緒がハマり役と評判のドラマ『スカイキャッスル』(テレビ朝日系)が話題になっている。超富裕層ファミリーが住む地域に起こるママ友たち、難関校合格のためにあの手この手で子どもに勉強させる親たち……。

超富裕層の人間関係が過剰ともいえるトーンで描かれており、毎回、視聴者を驚きの渦に巻き込んでいるようだ。

ある親は、難関校に合格させる神様のように崇められている受験塾講師を自分の娘につけるためにあらゆる手を使う。ある親は、窓があると気が散るからと子どもの勉強部屋から窓を取り除く。それもこれも、「子どものため」だ。そして子どもは追いつめられていく。

多かれ少なかれ、他者から見ると、子どものためと言いながら子どもを追いつめているという実態があるのかもしれない。

「スカイキャッスル」に5年前の自分が重なる

「なんとなく気になってドラマを観たんですが、かつての自分を見るようで途中でやめてしまいました」

そういうのはカヨさん(48歳)だ。彼女は5年前、ひとり娘を中学受験させるために必死だった。

「娘が産まれたときから中学受験を意識していました。小学校2年生から具体的に準備を始め、4年生からは塾へ。塾のない日は家庭教師をつけた。家庭教師も3回くらい変えましたよ。娘により高い意識を植えつけてくれる人でないとダメだと思っていたので」

ある意味、娘を「洗脳」する必要があったとカヨさんは言う。だがもちろん、それはすべて
「娘のため」だった。いい学校へ行き、高い能力をもった専門職につき、地位も名誉も手に入れられる「選ばれた人」になってほしいという思いからだ。

「今、苦労しておけば大人になってから苦労しなくて済む。幸い、夫には資力もありました。私もそれなりに学歴がある。ただ、私には今ひとつ能力が足りなかった。大手企業に就職したんですが、出世街道でトップになれなかったんです。

トップになれないくらいなら、子どもに託そう。そう思ってお見合いで夫を選んだ。ふたりで力を合わせれば、娘に夢を託せる。そしてそれがなにより娘の幸せだと思い込んでいました」

受験勉強を投げ出そうとした娘に土下座させた

6年生になったころ、娘が心折れそうになったことがある。受験なんてどうでもいい、友だちと遊びたいと言ったのだ。娘が産まれてからの11年、自分の努力は何だったのだろうとカヨさんは激怒した。

「それならもう、この家には帰ってこなくていいと娘を放り出しました。その日、娘は塾をサボったようですが、実際には友だちとうまく遊べなかった。それまで遊んでいなかったから、仲間に入れてもらっても遊び方がわからなかったみたいです。結局、土下座して謝らせ、翌日からはさらに受験勉強をさせました」

支配したかったわけではないとカヨさんは言う。娘のためなんだ、と。そのとき娘がどう感じていたかには気持ちが追いついていない。

有名私立中に合格「幸せが手に入った」と思った

そのかいあって、娘は有名私立中学に合格した。近所でも親戚の間でも話題になり、カヨさんは幸せの半分が手に入ったと感じた。あとの半分は、これから徐々に手に入れていくのだ、と。

「ところが娘は中学になじめなかった。成績も惨憺(さんたん)たるもので、これじゃ高校への内部進学も難しいと言われてしまいました。努力が足りないと、私は娘を責めました」

それを機に、娘は学校へ行かなくなった。叩いて起こし、無理矢理学校へと送り出したが、どこかでサボっているらしい。どうしたらいいかわからなかった。カヨさんがパニックになりかけているとき、娘が自室で手首を切った。

「夫が見つけたんです。夫は学校へ行かないことも容認していて、それで毎日、私たちは怒鳴り合いの状態だった。夫は夫婦げんかが娘に悪影響を及ぼすのではないか、娘とちゃんと話してみようと夜中に娘の部屋へ行って、倒れているのを見つけたんです」

娘の一大事でも「近所にバレないか」が心配だった

夫が救急車を呼んでいるときでさえ、彼女は「近所の人に知られたくないという思いでいっぱいだった」と言う。今思えば、娘のことなど何も考えていなかった、と。

娘のケガはたいしたことはなかったが、「消えたい」思いは本物だった。

「病院で娘が目覚めたとき、小さな声で『ママ、ごめんね』と言ったんです。それを聞いて、自分がどこまで娘を追いつめていたのか、初めてわかりました。生きていてよかった、とも思った。それ以上のことは望まないと。

この子が産まれたときから、私は間違った方向に歩いてきたんだと。自分の夢を託すのは間違っていたとはっきりわかりました」

娘は私立中学を退学、地元の公立中学に転校した。周りとなじめるか心配していたのだが、すぐに友だちもでき、クラブ活動も始めた。小さいときからバスケットボールをやってみたかったのだという。

「運動なんて危ないからとあまりやらせなかったんです。娘がバスケットが好きだなんて知らなかった。私は運動神経がまったくないタイプなんですが、娘はめきめきとバスケが上手になった。夫はオレに似たんだって喜んでいました。夫もバスケをしていたそうです。それも知らなかった」

夫と娘はバスケットを通じて、深く心を通わせていった。

「私は娘を追いつめた負い目があって……。娘は今、高校3年生です。目指すところがあるようで、それなりに受験勉強をしていますが、今でもふと、いい大学を目指せるのではないかと思ってしまう自分がいます。

10数年をかけて託してきた夢から、私自身が離れられない。娘のためと言いながら、やっぱり自分のためでしかなかったのは、認めざるを得ませんが」

「きみの幸せが娘の幸せ、なのではなく、娘の幸せが自分の幸せなんだよ」

夫にそう言われたことを忘れないようにします、とカヨさんは少しだけ不服そうな顔になった。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

文:亀山 早苗(フリーライター)

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