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ピリングス、小説家・古井由吉の世界に魅せられて。ニットで紡ぐ、ある日常の物語【2025年春夏 東京コレクション】

  • 2024.9.10

9月5日(木)、東京・科学技術館でピリングス(PILLINGS)が、楽天ファッション・ウィーク東京で2025年春夏コレクションを発表した。今シーズンは小説家、古井由吉による「杳子」がインスピレーション源。同作品は神経を病む女子大生の杳子と、そんな彼女を見守る彼の孤独でいびつな愛の物語だ。デザイナーの村上亮太は「杳子」のアンニュイな世界感に共鳴し、自身のアトリエのレースカーテン越しから見える、毎日変わり映えのない風景を“外と内の揺らぎ”として衣服に落とし込んだ。

ショー会場には淡いカーテンが敷かれ、窓の隙間から優しい木漏れ日がさし込んでいた。メトロノームのリズムにあわせながら、レースカーテンを思わせる優しい色合いのニットがレイヤリングによってエアリーな質感を生み出す。どこか懐かしくも儚いあの日の記憶と現在の境を行き来す るかのように、幻想的な世界へと誘っていく。

カラーパレットは、ニュートラルなベージュや淡いピンクを中心に、シャープなブラックが差し込まれた。古い学校や公共施設のようなショー会場の雰囲気はレトロなグリーンのニットともリンクする。いずれもアシンメトリーにレイヤリングし、袖と襟をずらすようなスタイリングで身体を オブラートのように包み込み、シルエットに緩急を生み出している。

ピリングスならではの遊び心にも注目したい。レースカーテンをモチーフにしたニットドレスは樹 脂でハンドコーティングし、パニエのような愛らしいボリュームに仕立てた。同素材はトップス にも多様され、構築的で流れるようなラインを表現。

ボトムは縫製の構造が見えるよう、透ける素材を使用しポケットをやや深めに設定。あえてシワを寄せることでスタイリングに軽やかなリズムを表現した。デザイナーの村上は「日常で着るよ うなアイテムをデコラティブなもので表現するのではなく、カーテンのような素材に微妙なシワ やタックを入れて女性の身体と布に自然な空間のようなものをつくりたかった」とコメント。

デコルテを強調するVネックニットはアシンメトリーにギャザーを寄せ、蟻のモチーフを散ちばめた。蟻は以前から用いられてきたモチーフで、“一匹一匹の個性や社会性”をイメージしている。 レースカーテンを彷彿させる薄手のカーディガンやニットは機械編みを多く採用し、片袖だけを通 したりケープ風に巻いてみたり、自由なアレンジで個性を楽しむことができる。ニットの豊かな表情を繊細なテクニックとレイヤリングで上質な日常着へと進化させた。

Photos: Courtesy of Pillings Text: Megumi Otake

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