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映画オリジナルラストの評価は? 黒島結菜の初登場シーンを見直したくなるワケ。映画『夏目アラタの結婚』考察&評価レビュー

  • 2024.9.10
©乃木坂太郎/小学館 ©2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会
『夏目アラタの結婚』
©乃木坂太郎/小学館 ©2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

【写真】柳楽優弥と黒島結菜の凄まじい演技合戦が見れる劇中カット。映画『夏目アラタの結婚』劇中カット一覧

3人の男性を惨殺し、遺体を切り刻んだ猟奇殺人鬼・通称“品川ピエロ”こと品川真珠(黒島結菜)。一審で死刑判決を受けた彼女は、いまだに遺体の一部を遺棄した場所について沈黙を貫いていた。

元ヤンで現在は児童相談所の職員をしている夏目アラタ(柳楽優弥)は、被害者男性の内の1人の息子が自分の名前を騙って真珠と文通を繰り返していたことを知ると、自分が直接、拘置所で面会して秘密を聞き出すと手を挙げる。

アラタは真珠との関係を特別なものにするためにプロポーズ、いわゆる獄中結婚をする。毎日のように拘置所で面会を繰り返し真珠と駆け引きをするアラタ。そんなアラタに対して真珠は突然「ボク、誰も殺してないんだ」と言い出す。

そして、真珠はアラタとの会話の中の端々でこれまで明かされてこなかった事柄を話し出すようになっていく。

漫画『医龍-Team Medical Dragon-』(小学館)などで知られる乃木坂太郎の同題コミックを、『TRICK』(2002~)、『イニシエーション・ラブ』(2015)、『十二人の死にたい子どもたち』(2019)の鬼才・堤幸彦監督が映画化。

近年はドラマや舞台作品が多く、映画を手掛けてもインディーズ体制であったり中小規模の作品であったりすることが続いていた堤監督だが、久しぶりにメジャー大作体制下での新作となった。

『夏目アラタの結婚』
©乃木坂太郎/小学館 ©2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

こういった突飛な設定の作品をいまだに堤幸彦か三池崇史に任せざるを得ないという、日本映画のクリエイター問題が若干気にはなるが、本作の出来の良さを見てしまうと、やはり抜群の巧さを実感し、まだしばらくの間はこの堤幸彦という鬼才を頼りにしないといけないのだと思わされる。

タイトルロールの夏目アラタを演じるのは柳楽優弥、そして謎多き死刑囚・品川真珠には黒島結菜がキャスティングされている。柳楽優弥と堤監督は『包帯クラブ』(2007)で、黒島結菜とは『十二人の死にたい子どもたち』で組んでいる。共演には中川大志、丸山礼、立川志らく、佐藤二朗、市村正親などが名前を連ねているが、やはり見どころは柳楽優弥と黒島結菜2人による演技合戦だ。

映画の大半は拘置所の面会室という限定された空間での会話劇となるため、一歩間違えれば平坦で起伏にかけた映画になりかねないところを演技力に定評のある2人がぐいぐいと映画を牽引して飽きさせない作りになっている。もちろん、堤監督の演出が一役も二役も買っているのは言うまでもない。

『20世紀少年』3部作(2008~)や『劇場版SPEC』(2013)シリーズといった大作も手掛けているので忘れがちだが、堤監督のキャリアをよくよく思い出してみればクリエイターとして注目を浴びるようになったドラマの『金田一少年の事件簿』(1995)や『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』(1999)、そして映画『十二人の死にたい子供たち』に至るまで、限定された空間での会話劇が得意な人であった。

『夏目アラタの結婚』
©乃木坂太郎/小学館 ©2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

柳楽優弥は、本作でタイトルロールを演じる柳楽優弥は、今年で映画デビュー20周年となる。

20年前のデビュー作は、いきなりカンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞した、是枝裕和監督作品『誰も知らない』(2004)だ。一躍世界が注目する日本映画界のホープに躍り出た柳楽優弥だったが、この重すぎる偉業に本人も周囲の人間も、後々苦しめられることになる。

実際柳楽本人も、当時を振り返り「自分の実力がついていけてないって感覚が常にあった」と語っている。

そんな柳楽優弥の状況が大きく変わったのは2010年代に入ってからだろう。仕事をセーブしていた時期から、意味があれば作品の大小にこだわらなくなり、助演に回ることもいとわなくなった。

特に2013年の『許されざる者』では渡辺謙、柄本明、佐藤浩市といった大ベテランに囲まれ、厳しい演技指導で知られる李相日監督のもと緊張感のある撮影現場を経験。柳楽本人は後にこの時のことを「しごかれて幸せだった」と語っている。この辺りから明らかに役者として一皮むけた感がある。

2016年の主演作『ディズトラクション・ベイビーズ』で高い評価を受ける一方で『銀魂』(2017~)、『響-HIBIKI-』(2018)、『今日から俺は!! 劇場版』(2020)など、脇に回って非常に印象深い演技を見せてくれている。

テレビドラマもこの頃から出演本数が増え、NHKの朝ドラや大河ドラマにも出演した。映画化もされた宮藤官九郎脚本の『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系、2016)は、代表作の1本と言えるだろう。

こういった脇役で地力を鍛えなおしたことから2020年代になると再び主演作品が増えてくる。『HOKUSAI』(2020)、『太陽の子』(2021)、『浅草キッド』(2021)などクセのある作品でも、力強く主演俳優として作品を牽引している。そしてカンヌ受賞から20年が経った今年『夏目アラタの結婚』というこれまた癖のある作品で主演を務めている。

『夏目アラタの結婚』
©乃木坂太郎/小学館 ©2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

冒頭に記した通り『夏目アラタの結婚』はかなり突飛な設定の物語になっている。ただ、それだけでは1本の映画にはならない。もう少し譲歩したとしても、少なくとも多くの人を惹きつける物語にはならないだろう。

『夏目アラタの結婚』は、散りばめられた謎、意外な真相などが、次々と明らかになる秀逸なミステリーになっている。そのため、映画を観た観客は画面から目を放すことができず、どんどん引き込まれていく。

そして多くの謎が解き明かされた時、本作は、ミステリーから究極のラブストーリーに大転換する。本作のエンディングは、原作が完結する前に創り上げられた、映画オリジナル。原作ファンにとっても新鮮なものとして受け入れられるだろう。

最後に、品川真珠を演じた黒島結菜のことにも触れておかなければいけないだろう。

元々演技力に定評があった彼女だが、今回も難役を見事に演じ切っている。実年齢より幼い設定の役どころだが、序盤の徹底したミステリアスなキャラクターが夏目アラタとの出会いと獄中結婚を経て、少しずつ変わっていく様を見事に演じ分けた。

関わる人間を狂わせていくように見えて、実はとてもピュアな部分を隠し持っていることが明らかになっていくと、最初の登場シーンが全く違ったものに見えてくる。

死刑囚との獄中結婚に端を発する心理ゲームを描く『夏目アラタの結婚』は、芸達者2人の演技と鬼才の演出というピースが見事にはまり、純粋に楽しめる逸品に仕上がっている。

(文:村松健太郎)

【作品概要】
監督:堤 幸彦
出演:楽優弥 黒島結菜 中川大志 丸山 礼 立川志らく 福士誠治 今野浩喜 平岡祐太 藤間爽子 / 佐藤二朗 / 市村正親
原作:乃木坂太郎「夏目アラタの結婚」(小学館ビッグコミックスペリオール刊)
脚本:永友一
音楽:Gabriele Roberto A-bee ノグチリョウ
主題歌:「ヴァンパイア」オリヴィア・ロドリゴ(Universal International)
映画オリジナル日本語歌詞訳監修 乃木坂太郎
配給:ワーナー・ブラザース映画
©乃木坂太郎/小学館 ©2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会
#夏目アラタの結婚

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