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「1対多」のコミュニケーションが苦手…“役割”や“キャラ設定”がないと「会話できない」私

  • 2024.9.10
自分の「役割」や「キャラ設定」がないと、コミュニケーションに入っていくことができない人がいる。若者に多い悩みと思われがちだが、どうやら年齢は関係ないようだ。
自分の「役割」や「キャラ設定」がないと、コミュニケーションに入っていくことができない人がいる。若者に多い悩みと思われがちだが、どうやら年齢は関係ないようだ。

友人と1対1なら話が弾むものの、それほど親しくない人たち数人がいる場合、「自分の立ち位置を決められずに迷ってしまう」という人がいる。

自分はどういうキャラを設定すればいいのかがわからない。若い人に多い現象だと思われがちだが、どうやら年齢は関係ないようだ。

友人グループで「必要そうなキャラを演じる」

「私は昔から、自分がこの場でどういうキャラを作ったら全体としてバランスがとれるんだろうと考えてしまうところがあるんです。陽気で快活な人、天然の人、聞き役が上手な人がいるなら、私は少しブラックな言葉を吐いたほうがいいなと思って、そういう役割を担ったり。だから高校時代と大学時代では、私の評価が全然違っていたりする」

リカコさん(41歳)は少し困ったような表情でそう言った。社会人になってから、それを先輩に見抜かれ、「あなたはあなたらしさを貫いたほうがいいよ。いつかつらくなるよ」と言われたこともあった。

「会社に入って3年間は、その先輩にアドバイスされたこともあって深く考えるのはやめました。自分らしさが何かはわからなかったけど、とりあえず自由に伸び伸びやろうと決めたんです。そうしたら、おもしろいねと言われることもあってうれしかった。

でもその後に異動した部署では、別の先輩に『なんだか、あなたって私とキャラがかぶるのよね』と嫌味っぽく言われて……。またもや、自分がどうふるまうべきかにものすごく神経を遣うようになってしまいました」

職場で「キャラがかぶる」と指摘されてキャラ変更

おもしろいキャラは封印した。以前は部署の飲み会などでカラオケに行って替え歌を歌うのが好きだったのだが、それもやめた。新入社員当時、あなたらしくいなさいと言ってくれた先輩は転職していった。

「相談する人もいなくなり、迷い続けた20代でした。でも30歳のときに結婚、それを機に退職、子どももでき、パートで働くようになりました。家庭と育児を中心にしていたので職場の人間関係もそれほど悩むことはなくなったんです」

ところがひとり娘が小学校に入った昨年から、今度はママ友との間で悩みが生じた。学校で会うだけではなく、近所でママ友が数人、立ち話をしていると、自分も立ち止まったらいいのか悩む。話の輪に入っても、あまり親しくしていない人がいると、自分がどういう役回りをしたらいいのかがわからない。

「夫に相談したこともあるんですが、夫は『オレ、そんなこと考えたこともない。どうしたって自分は自分でしょ』と怪訝な顔をしていました。そうか、人はそんなことでは悩まないのかと不思議な感じでした」

どうしてそれほど考えてしまうのか、自分でもよくわからなかったという。

幼いころから「どうふるまうか」考えていた

昨年夏、リツコさんをかわいがってくれていた叔母が亡くなり、久しぶりに夫と娘をともなって実家に帰った。近所に住んでいた叔母の葬儀に参列、両親との時間を過ごしたのだが、帰宅してから夫に「リツコ、ずっと緊張しているように見えた」と言われた。

「そうだ、私は実家にいるときから、自分が今どうふるまったらいいかを考え続けていたと気づいたんです。うちは父方の祖父母が同居していて、母はいつも祖母の顔色をうかがっていた。そして私は母のストレスのはけ口になり、仲の悪かった両親の仲裁役にもなり、祖母に甘えることで母への当たりを弱くしなければならないと思っていたんです」

3歳違いの弟は、存在するだけで愛されていた。だが、リツコさんにはいろいろな役目が、誰も何も言わないのに課せられていた。少なくとも彼女自身はそう感じていた。子どものころから周りの大人の顔色を読みながら暮らしてきたのだから、「自分らしさ」などわかるはずもなかったのだと彼女は気づいた。

大人の顔色を読んで生きてきて、苦しかったんだ

「夫にその話をしたら、『そうだったんだ……大変だったね』と言われたんです。その言葉で私、号泣してしまった。夫は軽く言っただけだったようで、私があまりに泣くのでどうしたらいいかわからなかったみたい。

でも私自身は、それで少しすっきりしたんですよ。原因もわかったし、少なくとも大変だったねと言ってくれる人が今はいる。過去はもう忘れようと思えた」

今でも数人いるシチュエーションで、どうしたらいいかわからなくなる。だが、わからなければ黙っていてもいいと思えるようになった。話をふられたら答えればいい。無理しておもしろい人だと思われなくてもいいし、誰かとキャラがかぶるのではないかという心配もする必要もないのだ。

「実際にはそこまで開き直れていませんが、心の中ではそう思えるようになった。娘には、こんな心配をする大人になってほしくないので、なるべく鷹揚におおらかに接することにしています」

これから少しずつでもいい。自分を解放していこうと思っている。リツコさんはそう言って明るい表情を見せた。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

文:亀山 早苗(フリーライター)

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