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ユェチ・チ、“鉄鋼”を着想源にクチュールとスポーティのMIXスタイルを提案。アグとのコラボブーツも話題に。【2025年春夏 東京コレクション】

  • 2024.9.9

2019年に自身の名を冠したブランドを設立し、2020年春夏シーズンの上海ファッションウィークにてコレクションデビューしたユェチ・チYueqi Qi)。2023-24年秋冬コレクションには、東京・新宿の西武珈琲店にて昭和レトロな空間でランウェイショーを開催し、翌年2024年春夏コレクションでは、東京の音楽シーンを元にミュージックイベント形式で発表。毎コレクションのテーマにおいて、デザイナー自身が感じた抽象的概念を着想源としているのが印象的だ。今シーズンのテーマは“GILDED SPEED”と題し、鍛造鉄と鉄格子の関係性について着目した。力強く打ち込まれ精巧で表現豊かな装飾品として仕上げられる鍛造鉄と、大量生産され街中に溢れている機能性に優れた鉄格子の対比を、クチュールとスポーティに置き換え新たなMIXスタイルを体現した。

ショー会場は国立競技場内駐車場にある一線に伸びるトラックスペースで、真っ赤に染まるライティングから明るい光へと色を変え、躍動感ある音楽と共にショーはスタートした。ファーストルックはシースルーのユニフォームをメインに、レースやリボン、ブランドが得意とするチェーンデザインを用いたヘアアクセサリーに彩られ、シースルーなどの素材感で軽やかさを感じさせながらも、刺繍や複雑なレイヤードで幻想的なムードを表現する。よく見るとハート型のレースの中には、漢字で「愛」と象られており、細かなデザインからユェチ・チが大切にしている手工芸の技術力が垣間見える。

その他にもアイコニックなハートロゴのデザインが各所に見受けられた。中でも胸もとにポイントを置いたデザインが多く、ヴィスチェやブラアイテム、Tシャツプリントにあらゆる技法でハートデザインを盛り込み、さまざまな愛の形を表現しているようにも見える。

さらにコレクションの中で一際目立っていたのは、アグ(UGG)とのコラボレーションシューズだ。2024年春夏に引き続き、第二弾として今回新作が登場した。分厚いプラットフォームのデザインが特徴の「Classic Mini Dripper」にハートロゴとモジュラーシステムを取り入れ装飾豊かに。またカウボーイブーツをイメージして、フラワー柄にレザーカットされたレッグウォーマーも登場。ブーツにスナップボタンが付いており、付け外し可能で自身でカスタムできる仕様になっている。

スポーティなムードを勢いづけたのは、アディダス(ADIDAS)とのコラボレーションルックの存在が大きい。トレフォイルロゴとアディダスを象徴するスリーストライプのデザインが用いられ、機能性に優れた素材感にチュールやモジュールシステムを取り入れ、コレクションテーマの通りクチュールとアスレジャーのミックス感を体現した。またローウエストのパンツの上からミニスカートとして取り入れており、スポーティを機能的役割だけでなく、視覚的手法で楽しむ提案をしている部分も興味深い。

最後は全モデルが登場し一気にランウェイを歩いて幕を閉じた。ユェチ・チは「衣服は、肌にとっての音楽となるのです」とコメントしている。ランウェイを闊歩した時に装飾が奏でる音、レースや三つ編みで構築的なフォルムを作り出していたヘアメイク、身に纏った時に感じる服の重みが、力強い音楽とともに弾け、心の高揚感につながっているようだった。

昨年インタビューで話していた「私のモチベーションを高めているのは、身近な環境からの『逃避』が大きいかもしれません。偏った理想主義とも言えるかもしれませんが、この逃避が時に未来を明るくしてくれると思っています」という彼女の言葉を思い出した。

Photos: Courtesy of Yueqi Qi Text:Saki Shibata

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