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累計100万部突破の人気コミックス『いとなみいとなめず』完結インタビュー。恋愛経験ゼロからスタートのふたりは「いとなむ」ことができたのか?【水瀬マユ・インタビュー】

  • 2024.9.9

これまで誰とも付き合ったことのない、いわば「経験ゼロ」のふたりが夫婦となり、少しずつ関係を築いていく。そんな斬新な新婚生活をテーマにし、大きな話題を集めていた『いとなみいとなめず』がついに完結した。これまで誰も読んだことのないようなピュアなラブストーリーは、一体どんなラストを迎えたのか――。

ダ・ヴィンチWeb
『いとなみいとなめず 10 完』(水瀬マユ/双葉社)

本作の主人公は、不動産仲介業者の純岡清(すみおか・きよし)と、高校を卒業したばかりの飛鳥馬澄(あすま・すみ)のふたり。清は自分に自信が持てず、恋愛面では常に奥手。ゆえに、これまで誰とも交際したことがない。一方、澄も恋愛経験はなし。しかしながらそんなふたりは、清の一目惚れと勢い、そして澄が抱える事情によって「夫婦」となる。

作中で描かれていくのは、不器用なふたりが少しずつ距離を縮めていくさまだ。最初こそちょっとしたことで相手を意識してしまい、ぎこちなく振る舞うふたりだが、時間が経てば経つほど、夫婦らしくなっていく。そのスピード感は非常にゆっくりで、だからこそ、読んでいて癒やされる。コスパやタイパが重視される現代において、こんなにも愚直で真っ直ぐな人間関係は貴重なものかもしれない。

そんな本作を完結させた作者の水瀬マユさんは、いまなにを思うのか。最終回を記念してインタビューを敢行した。

■清と澄でやりたかったことをすべて描ききりました

――今年8月、『いとなみいとなめず』がついに完結を迎えました。ラストまで無事完走できたことについて、いまのお気持ちはいかがですか?

水瀬マユさん(以下、水瀬):長かったような短かったような気持ちです。元々、『いとなみいとなめず』というタイトルが決まった時点で、どんなラストに向かって物語を走らせていくのかは見えていました。タイトルを回収できれば――つまり、清と澄が「いとなむこと」ができれば、もうそこで終わりと思っていて。だからこそ、そこに至るまでを飽きさせず、面白がってもらえるように描くことに苦心しましたね。

――描きたかったことはすべて描けましたか?

水瀬:女性慣れしていなくてピュアな清が、澄の使った後のトイレやお風呂に入れないという非常に細かなエピソードも、本当は描きたかったんです。でも、そういう部分まで描いてしまうと話がまったく進まなくなってしまう(笑)。なのである程度は省きつつも、それでも清と澄のふたりでやりたかったことはすべて描けました。しっかり結ばれたので満足しています。

――ラストに向かって、清くんの葛藤がクローズアップされていく流れは胸が締め付けられるようでした。

水瀬:「いとなむこと」に対して覚悟を決めた澄に対して、清は怖気づいてしまう。セックスにおいてはどちらか片方だけが盛り上がっている状態ではだめで、ちゃんとタイミングを合わせなくちゃいけないですよね。そこを描きたかったんです。それに加えて清が自身のコンプレックスと向き合う様子もしっかり描写しました。

――あらためてになりますが、本作を描こうと思ったきっかけを教えてください。

水瀬:担当さんから「ただただピュアな恋愛ものを読んでみたい」というオーダーをいただいたんです。それを受けて清や澄というキャラクターが生まれたんですが、そこまで悩みませんでした。

特に清はすんなり出てきて。というのも、当時、ラグビー日本代表が注目されていたタイミングだったんです。彼らを見ていて、ガタイがよくてちょっとぽちゃっとしているシルエットの男子が浮かんできました。

一方で澄は、18歳で結婚を決めてしまうような子なので、一般的な高校生よりもちょっと大人びていて、事情も抱えているというイメージから導き出されたんです。私は地方出身なんですが、地元では早くから結婚・出産する人も珍しくなくて。実際、同級生のなかにも10代で母親になった子がいます。そういう子たちの事情を想像しながら、澄に肉付けをしていきましたね。

――そんなふたりがいきなり結婚を決める、というところから本作はスタートしますね。

水瀬:新婚生活を描こうと思ったのは、当時、私自身が新婚だったからです。でも、本作で描いたようなピュアな日常とは程遠くて(笑)。だから、理想や妄想をかなり盛り込んでみました。それと、晩婚化が進むなか、結婚に対してネガティブなイメージを抱く人たちに、「結婚もそんなに悪いものじゃないよ」と伝えたいとも思っていました。

そんな内情もあって、清にはいきなりプロポーズをさせてみたんですが、そもそも彼は自分に自信がないタイプなので、そこからがもう大変。彼にとっては新婚生活=初めてのお付き合いでもあったので、てんやわんやになりましたね。

――清と澄が試行錯誤しながらも幸せな日常を歩み始める陰で、充や梓月といった「恋のライバル」も登場します。

水瀬:一組のカップルが成立して結婚まですると、その陰には恋に破れてしまった人たちもいると思ったんです。であれば、その人たちの思いを成仏させてあげたい。そう思って、充や梓月が失恋から抜け出し、次に進むさまを描きました。

ただし、「恋のライバル」とはいえ、ふたりを悪者にはしたくなかった。そもそも、私は悪人が描けないこともあって、ふたりは清と澄のことを引っ掻き回すんだけど、読者から見ても絶対にうまくいかないだろうなという塩梅で描いたんです。

――清にずっと思いを寄せていた梓月に対して、澄は「気持ちを伝えてきて」と言うじゃないですか。いくら清を信じていたとしても、なかなかそんなことは言えません。あのエピソードの澄は本当に真っ直ぐで格好良かったです。

水瀬:その前の段階で、澄は充から思いを伝えられていて、密かに自分を思ってくれている人がいたんだ、ということに気付くんですよね。そういう経験があったからこそ、清のことをずっと好きだった梓月のことを、澄はそのままにしておけなかったんです。相手に気持ちを伝えて、ちゃんと終わらせなくちゃいけない。澄はそう思ったんでしょうね。もちろん、清のことを絶対的に信じていたというのも大きいかもしれません。

■外野になにを言われようとも、本人たちの気持ちが大事

――振り返ってみて、印象に残っているエピソードやシーンはありますか?

水瀬:清と澄が熱海に新婚旅行に行くエピソードがあるんですが、そこで海を見た澄が「ぜーんぶ水平線!」と叫ぶんです。その一コマは担当さんからめちゃくちゃ褒められましたし、自分でもよく描けたなと感慨深くて。ぜひ確かめてもらいたいんですが、澄が本当に可愛いんですよ。私が男だったら、こんな女の子とデートしたら楽しいだろうし、すごく可愛いなって思うはず。

――作中でも澄の魅力が爆発する名シーンですよね。では逆に、難しかったところはありますか?

水瀬:うーん……。難しいなと思いながら描いたエピソードやシーンはあまり思いつかなくて。実は毎回、そんなに悩むことがなかったんです。いつも打ち合わせに5時間くらいかけてもらっていたんですが、ノープランで雑談しながらも、そこから描きたいものが見えてくるんです。だから展開に詰まってしまったこともないですし、担当さんと話しながら、「次はこれを描きたい!」とどんどん浮かんでいました。

――交際期間もなく、いきなり結婚してしまう清と澄は、「マイノリティ」的なカップルともいえます。世間で一般的とされる生き方ではない道を進むことについて、本作を描きながら考えることもあったのではないでしょうか。

水瀬:たしかに、一昔前の「結婚」って、気持ちを相手に伝えて、交際期間があって、いろいろなことを積み重ねた先のゴールというのが一般的なイメージでしたよね。でも、それも最近では変わってきています。婚活アプリで最初から結婚相手を探す人もいるし、知り合って3カ月で籍を入れる人もいる。だから、清と澄みたいにいろんなことをすっ飛ばして結婚したって構わないし、そういうのも楽しいんじゃないかなって思うんです。大切なのは本人たちの気持ちであって、外野がどうこう言うことじゃない。自分たちの形を尊重しようという思いを込めたのが、まさに本作ですね。

――幸せそうにしている清と澄を見ていると、まさに「外野の声は気にしなくていいよ」という気持ちになります。

水瀬:そうそう。もしかするとうるさく言ってくる人もいるかもしれないけれど、それは古い考えなんだなぁと流しておけばいいのかなって思います。

――結婚の多様な形を示したともいえる本作は、10巻で100万部を突破しています。この数字はどう受け止めていますか?

水瀬:目標だった10巻で100万部突破なので、すべてがうまくいったという感じですね。これは版元さんが頑張ってくださった結果だとも思います。なかなかここまで数字が出ないので、本当にありがたいです。ただ、巻数を重ねるごとに数字も落ち着いてきていて、私自身はあまり自信も持てなかったんですよ。それでも担当さんが「このまま100万部目指しましょうよ!」と励ましてくれて、そうか、目指してみてもいいんだって思えて。その結果、見事に達成できて本当に嬉しいです。

もちろん、ファンの方々にも感謝しています。最後までふたりのことを見守ってくださって、ありがとうございます。読者の方々が読んでくださっているというのが、私の原動力です。

――次回作を楽しみにしているファンも多いと思います。最後に、メッセージをいただけますか。

水瀬:実は本作の番外編を準備しています。単行本1冊分になるので、それを楽しみにしていてください。本編では描けなかった清や澄の姿をお届けできるかと思います。

そして次回作ですが、正直まだノープランでして……(笑)。ただ、なんとなくではあるんですけど、筋トレ大好き男子とぐうたらおデブ女子の恋愛ものを構想しています。どんな形になるかまだわかりませんが、いずれにしても恋愛は絡めたいと考えているので、またキュンとしていただけたら嬉しいです。

取材・文=イガラシダイ

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