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同じ線路を走る仲間と離れ、ロールモデルがいなくなって初めて見つかった自分だけの物語

  • 2024.9.8

ピアノを始めた。書道を始めた。英会話を始めた。小学校で始めた習い事たち。やっていた頃の記憶はあるけれど、初めて鍵盤を触った感動や筆で最初に書いた文字、フォニックスを教えてくれた先生の名前は全く思い出せない。それはきっと、姉がやっている「何やら楽しいこと」を真似したかったという理由でそれぞれの教室に通い始めたから。この真似っこしたくなる行動は高校まで続いた。

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姉と同じ中学を受験して同じ部活に入り、高校も同じところで同じ部活。中学のテニス部も高校の軽音部も姉がいたからなんとなく雰囲気を先に知っていて入ることができたし、学校のテストも姉が溜めてくれていた過去問を参考に乗り切ることができた。やっと姉の足跡を頼らずに自分で物事を決めようと思ったのは大学受験の時。文系の姉とは違い、私は理系を選択した。自分のやりたいことが見つかって自分で道を選択できた気がした。

でも真似をする相手がいなくなると苦労が増えた。大学の様子を見るためにオープンキャンパスには行かないといけないし、受験対策も姉の経験は役に立たない。全部自分で調べないといけなかった。情報は自分から取りに行かないといけなかった。

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大学の就活の時期。また姉の真似を始めた。希望の就職先や業種は違えど、姉の就活の経験を聞いて、面接の準備をしたり履歴書を作成したり……。でも、志望動機や将来の目標、その会社でやってみたいことなどは自分で作成してみないといけなかった。当たり前。やっぱり一からの作成は大変で、真似をする存在がいないとやり方が手探りだし不安だし時間がかかった。

就職して一人暮らしを始めると、家族との時間より職場の人と過ごす時間が増えた。自然と私の憧れは姉ではなく直属の先輩になった。先輩は3歳年上で綺麗な女性で優しくて仕事ができた。そんな彼女がどう職場で振る舞っているか、どんな話し方をしているか、上司にどんな気配りをしているのか。見て真似をした。そのおかげもあって、私はどこか先輩の姿を真似て順調に仕事をこなした。

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入社から1年。先輩が異動して私がその空いたポジションにつくことになった。そしたらいきなり将来が不安になった。仕事に慣れと飽きが一緒にやってきて急に目標がなくなった。これからどんな人生設計をしていけばいいのか、急に分からなくなった。いわゆる「人生のロールモデル」を完全に見失う時期がやってきた。そうなると、大学受験の時や就活で志望動機の書き方に悩んだ「姉に頼らない時期」をより大きく膨らませたような苦労が私を襲った。

進むべき道が完全に行方不明。「やりたいことってなんだろう……」自問自答をしていろんなワークショップに参加したり自己分析をやったり本を読んだ。ロールモデル不在時期が2年ほど続き、私はいつのまにか「憧れの存在」「あの人みたいになりたい」を複数人に増やしていた。「ファッションはあの人を目指して」「仕事の姿勢はあの人みたいに」「挨拶の仕方はあの人をお手本に」そんな具合。

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そして人間の記憶は面白いもので、誰の真似もせず自分でやってみたことについてはよく覚えている。幼い頃の習い事を始めた瞬間は全く覚えていないけれど、自分で大学を選んだ時、就職のために履歴書を書いた時、やりたいこと探しを自問自答していた時。すごく覚えていることに気がついた。

大人になると関わる人が増えるし自分で動ける範囲も広まるし24時間の使い方は十人十色。学生の頃みたいに同じ線路を走ることはなくなる。だからこそめんどくさいし苦しいし周りが余計に気になってキョロキョロしてしまう。その代わり、オリジナリティ溢れる自分の人生ができる気がする。自分だけの物語ができていく気がする。

■みなちゃんのプロフィール
管理栄養士 │ 口から産まれた米屋のむすめ │ 食べ物が最後は胃に収まる世界を夢見る │ ラジオ「#聴くキッチン」放送中│ instagram:@mina_jp_37

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