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"原爆裁判"異例の4分半の神演出とは? 屈指の名シーンを深掘り解説。NHK朝ドラ『虎に翼』解説&感想レビュー

  • 2024.9.8
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

伊藤沙莉主演のNHK朝ドラ『虎に翼』。本作は、昭和初期の男尊女卑に真っ向から立ち向かい、日本初の女性弁護士、そして判事になった人物の情熱あふれる姿を描く。「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」と題した第23週では、8年にもわたった”原爆裁判”の判決が出る…。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。

連続テレビ小説『虎に翼』第23週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

“原爆裁判”に向き合う寅子(伊藤沙莉)の奮闘を描いた『虎に翼』第23週。「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」と題された1週間を振り返る。

4年にわたる準備手続きが終わり、いざ裁判がはじめられるというとき、雲野(塚地武雅)が急死してしまう。志半ばも半ば。さぞ悔しかったことだろう。轟(戸塚純貴)によって寅子にも報せが入るが、よね(土居志央梨)から「葬儀には来るな」と告げられる。

これからはじまる裁判にとってはもちろん賢明な判断だと頭ではわかっても、やっぱり悲しい。

頭ではわかっていても。これは原爆裁判に裁判官として携わるうえでも、寅子の感じていることだった。被爆者の補償を国がすることは法的に考えて難しい。明らかに被害者であるにもかかわらず、誰からも何からも補償されない。

着々と進んでいく裁判のなかで、寅子は証言台に立った法学者に「今苦しんでいる人は誰に助けを求めればいいのか?」と質問を投げかける。これを見出しに冠した記者の竹中(高橋努)が書いたルポルタージュをきっかけに、裁判への注目が高まっていく。

自分に何ができるのか、と頭を悩ませる寅子に対し、桂場(松山ケンイチ)は司法に何ができるかを考えるよう声をかける。

連続テレビ小説『虎に翼』第23週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

そんな折、原告の吉田(入山法子)が法廷に立つことになった。矢面に立つことを心配する轟と、「どの地獄で何と戦いたいのかは自分で決めるべき」とするよね。しかし、広島から上京してきた吉田の話を聞いたよねは、彼女が法廷に立つべきではないと判断し、轟が手紙を代読することになった。

ここへきて、よねの物事を俯瞰する力、きちんと見極められる力が際立つ。物言いこそぶっきらぼうだけれど、どれもこれも優しい選択だ。弁護士として、信頼できる。

その後、裁判開始から8年目にして、ようやく判決が下される。寅子の逡巡を軸にしてはいたものの、法学者の見解の相違、轟やよねの戦いぶり、そして国側の代理人である反町(川島潤哉)の言葉にせずとも苦しむ様子…も描かれた。

そして、寅子の提案で書き加えられた判決文。「棄却」という言葉だけでは伝えきれない裏側の思いがあるからこその行動だが、これは寅子たち以外にもそういう背景があることを想像させる。川島の背負ったものの重さがどれほどのものだったか。表情すらもほぼ変えなかったが、裁判の最後の彼の背中が雄弁に語っていた。

途中、記者たちが退席しようとする中で、より一層声を大きくしながら汐見(平埜生成)が読み上げた約4分間の判決文は、ほぼ原文のままだと聞く。裁判の裏側をもっとドラマティックに描くこともできただろう。

でも、ここにしっかりと時間を割いた意味は、判決文を聞けばよくわかる。原子爆弾の投下は違法行為であると、公の場で言葉にされたこと、それが残っていること。これだけでも、当時の関係者たちの思いが伝わってくる。もし観ていない方がいたら、せめてここだけでも観てほしい。

連続テレビ小説『虎に翼』第23週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

一方、星家では百合(余貴美子)の認知症が進んでいく。平日はお手伝いさんに来てもらうことで対応するが、夕飯のために準備していたシチューを捨てられてしまったり、これはお手伝いさんにとってかなりの負担になりそう。

優未(毎田暖乃)は積極的に手伝うけれど、のどか(尾碕真花)はあまり手伝わない。そのことに堪忍袋の緒が切れ、優未はのどかを蹴ってしまう。

これをなだめたのは轟の恋人・遠藤(和田正人)だった。口や手を出したりすることは、その人との関係や自分自身が変わってしまうことだとしたうえで、「その責任は優未ちゃんが背負わなきゃいけない」。

耳の痛い人も多かったことだろう。実際、よねにも轟にも、寅子にだって言えない言葉だ。このおかげで、優未はすんなりとのどかに謝ることができた。

百合は、朋彦(平田満)の写真を前に「朋彦さんのところに行きたい」と泣く。快活だった祖母が、物忘れを自覚しはじめ、そのことにイライラしたり落ち込んだりする。改めて語るまでもないが、余貴美子の演技力には舌を巻いた。

梅子(平岩紙)がついに桂場をうならせる団子にたどり着き、道男(和田庵)とともに団子と寿司の店をやることに。「人は年を取る」ゆえに、様々なことが変わっていく。次週は桂場が最高裁長官になるらしい。寅子とどのような形でぶつかるのだろうか。

(文・あまのさき)

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