1. トップ
  2. 恋愛
  3. 幸せな100歳を迎えるには? 不自由さにも前向きな「フニャフニャスルリ」の生き方/100歳は世界をどう見ているのか④

幸せな100歳を迎えるには? 不自由さにも前向きな「フニャフニャスルリ」の生き方/100歳は世界をどう見ているのか④

  • 2024.9.7

『100歳は世界をどう見ているのか データで読み解く「老年的超越」の謎』(権藤恭之/ポプラ社)第4回【全4回】 2050年には50万人以上が100歳を超えるといわれる日本。敬老精神が高く長寿をめでる日本だが、介護や認知症のイメージにより、自分ごととしての「長生き」はネガティブにとらえられがちだ。本書は500人以上の百寿者と実際に会い、調査を続けてきた著者が加齢をめぐるさまざまなデータ、研究結果を紹介。高齢期に高まるとされる「老年的超越」の謎に迫る。多くを失いつつも幸せを感じられる老いとは何か。『100歳は世界をどう見ているのか データで読み解く「老年的超越」の謎』は、100歳を超える超高齢者の心と体を理解し、確実に訪れる人生への向き合い方を考える1冊です。

ダ・ヴィンチWeb
『100歳は世界をどう見ているのか データで読み解く「老年的超越」の謎』(権藤恭之/ポプラ社)

飲酒と喫煙の影響

お酒に関しては、よい効果があるとする研究と悪い効果があるとする研究に分かれるなど諸説ありますが、東京百寿者研究(2000〜2003年調査)の結果は興味深いものでした。細かい年齢までは確かめれられませんが、この研究では参加者に「過去の飲酒」「喫煙習慣の有無」を尋ねています。

比較対象として、1976年に東京都老人総合研究所が小金井市で同世代を対象に実施した調査の飲酒喫煙率と比べたところ、飲酒に関しては、男女とも小金井市の結果とほぼ同じ割合でしたが、喫煙に関しては割合には違いが見られました。1976年には男性約8割、女性の約3割に喫煙経験がありましたが、百寿者は男性約4割、女性訳1割といずれも喫煙者の割合が半分以下だったのです。

さらに、百寿者の過去の飲酒と喫煙経験と自立の関係を分析すると、喫煙経験がある人はない人に比べて自立度が低かったのです。つまり、たばこを吸っていても長生きはできるかもしれませんが、健康に長生きできない可能性が高くなるのです。

この結果を見て、お酒はいいのかと思い、私はお酒肯定派になりました。ただ、少量のお酒肯定派でいればよかったのですが、大肯定派になってしまい反省しています。この原稿を書いている今、私は必死で減酒とダイエットに取り組んでいます。10年前に1年断酒したことがありますが、その時の体調はすこぶるよかったです。今となると、自分自身で分析したこの結果を少しばかり恨んでいます。それぐらいわかるだろうといわれるかもしれませんが、自己修練は難しいものです。

ピンピン生活とフニャフニャスルリ

また、別の女性で101歳の参加者は、調査終了後に記念写真の撮影をお願いすると、LINEアドレスの交換を求められました。その人とは現在もLINEでやりとりをしています。

彼女は高齢者施設で生活していますが、面白いエピソードを紹介しましょう。彼女は夜中に起きていることが多く、よく私が寝ている真夜中にLINEが届きます。時々真夜中に「カップヌードルを食べた」「そうめんを食べた」というメッセージが届きます。このようなシーンは私はまったく想像したことがなく、びっくりしました。LINEで私が担当している老年学の教室の写真を送ると、「最近の学生さんは服装が自由でいいですね。私の兄は詰襟をきて大学に通っていました」とご返事がありました。まさにタイムマシンです。

彼女はひとりで買い物に行ったり病院に行ったりした時の写真や、春には満開の桜の写真を送ってくれます。本当にお元気な様子がうかがえます。この人とのやりとりは私自身、本当に勉強になります。

ある日お寿司屋さんに行った時の様子を伝えてくれました。本当に美味しそうな、お寿司が並んだ写真を送ってくれました。その中に板前さんから手渡しでお寿司を受け取っている写真がありました。一連の写真の最後には、「お寿司はスプーンでいただいています」とメッセージが添えられていました。私がどうしてかと聞くと、95歳の時に中学生にぶつかられて転倒し、背中を打ちつけてから手がしびれてうまく箸が持てなくなったそうです。それからスプーンとフォークが必需品になったとのことでした。「うどんはお箸で食べたい!」という気持ちもあるそうです。でもそうせずに、食事の時はうまく状況に対応しているのです。

私は、彼女が元気で活動的であることばかり注目していました。しかし、実際はいろいろと不自由が増えていく中で、不快な感情とうまく向き合っているのです。

もうひとつ彼女とのエピソードを紹介しましょう。この原稿を書いている時に、彼女のことを本に紹介する許可をもらおうと連絡しました。彼女からの回答は「人の役に立つのであれば、なんでも使ってください」というものでした。そして、「おもらしのことも使ってください」と加えられていました。

この件は紹介するつもりはなかったのですが、これまでのやりとりの中で、おもらしについて話されることがありました。気がつかずに出ていることがあるので、現在おしめをつけて生活している、とのことでした。箸のこともそうですが、ピンピンコロリに見えるようで、実は予想していなかった100歳生活の問題に上手に向き合っているのです。問題に正面から対決するのではなく、スルリとすり抜けているようです。

105歳になって訪問したら寝たきりだった、という人もそうでした。ベッド上での生活でしたが、落ち込んでいる様子はありませんでした。ふとベッドを見ると真ん中のあたりに太めのひもが張ってあり、不思議に思って「それは何ですか」と尋ねると、「ここにひもを張っていたら、体を起こす時に腕で引っ張って起きやすくなるから」と答えました。寝たきりの状態でも前向きな態度でいることに驚きましたが、そのような人もいるのです。

これらのことから私は、「ピンピンコロリ」ではなく「フニャフニャスルリ」を目指すことが長寿社会の目標になるのではないかと考えました。若い時はピンピンコロリを目指して頑張る、それが難しくなったらフニャフニャスルリと乗り越える。このようなふたつの目標を同時に持つことが大事なのではないでしょうか。

世界の長寿地域「ブルーゾーン」の光と闇

フニャフニャスルリを目指す生き方の参考になるのが、ブル―ゾーンです。ブルーゾーンは長寿者が多く存在する地域を指しますが、私はブルーゾーンをピンピンコロリではなくフニャフニャスルリの地域だと考えています。

ちなみに、この言葉を広めたのは『ナショナル・ジオグラフィック』の取材で世界の長寿地域を回ったダン・ビュイトナーさんですが、言葉をつくったのはベルギーの人口学研究者のミッシェル・プラン博士です。サルデーニャ島での調査時、島の中の長寿者が多い地域をペンで囲んだそうですが、その時に彼が使ったペンの色が青だったのでブルーゾーンと名づけたとのこと。プランさんはお会いするたびに、このエピソードを繰り返し話します。

そもそもプラン博士の研究は、現地の医師ジャンニ・ペスが1999年の国際会議でイタリア・サルデーニャ島に百寿者が異常に多い地域があると発表したことに端を発します。多くの学者は懐疑的でしたが、人口学者であったプラン博士が関心を示し、現地で戸籍やインタビューなどの調査を行い、このことが事実であることを確認したのです。ちょうどその頃ダン・ビュイトナーという作家・探検家は、世界各地の長寿地域を調べて雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』に連載、後に『ブルーゾーン―世界の100歳人に学ぶ健康と長寿9つのルール』(翻訳・監修=荒川雅志、翻訳=仙名紀、祥伝社、2022年)としてまとめました。最近は、NETFIXでそのドキュメンタリーが公開され、再び世界的に注目されています。

ブルーゾーン現象に関しては、研究者は冷静な目で見ています。ビュイトナーさんは、イタリア・サルデーニャ島をはじめ、日本・沖縄、アメリカ・ロマリンダ(カリフォルニア州のセブンスデー・アドベンチストの町)、コスタリカ・ニコジャ半島、ギリシャ・イカリア島の5カ所を「ブルーゾーン」としています。しかし、プラン博士はロマリンダは人工的に造られた地域だからブルーゾーンではないとし、最近、カリブ海に浮かぶフランス領のマルティニークをリストに加えました。

また、長寿の要因に関しても両者は若干異なった見解を持っています。表にふたりの提案をまとめました。

プラン博士は研究者からの視線で観察の結果を記述したもの、ビュイトナーさんの提案はそれらを応用し、現代社会に生活する人に向けた行動の指針といえます。ビュイトナーさんのメッセージは少し即物的に見えるでしょう。研究者たちは、そこが問題だと考えています。

たとえば、サルデーニャ島の中のブルーゾーンは、山の上に位置します。イタリアの中でもアフリカ大陸に近く、侵略の被害を受けにくい高地に住むようになったと聞きました。また気温が高いところなので、マラリアなどの熱帯性の感染症を避ける意味でも高地が有利だったようです。その結果、畑も日本でいう段々畑のようになっていて、かなり移動しなければなりませんし、ヤギを育てるのに山岳地帯を巡回しなければなりません。その結果、プラン博士がいうような「自然に動く」環境になっています。これを都会暮らしの人に置き換えたら、ビュイトナーさんのいう「適度な運動を続ける」になります。

ブルーゾーンは、そこに住んでいる人たちが意識しないような長寿によい環境が備わっている地域といえます。今回と違う章で「誠実性」について言及しましたが、ブルーゾーンは、性格傾向がどうであれ、健康や長寿に影響する行動をとらざる得ない環境が揃っている地域といえるでしょう。

ブルーゾーンには闇の側面もあります。「Blue Zone」が商標登録されて、一部で商売の道具になっているそうです。コンセプトは重要ですが、お金儲けに利用するとなると行き過ぎではないかと思います。たとえば、食と長寿は昔から注目され、テレビで健康によいという食べ物が紹介されるとスーパーで即売り切れになることが話題になりました。最近の研究では、何か特定の食材を食べればよいという考えから、多様な食品を食べることの重要性が知られるようになりました。今後、Blue Zone 印の商品が販売されるようになるかもしれませんが、私たちは賢く食べようではありませんか。

ブルーゾーンの科学的な研究はまだ始まったばかりだといえます。私がブルーゾーンから見習わなければならないのは、ピンピンコロリではなく、フニャフニャスルリに関する側面だと思っています。

<続きは本書でお楽しみください>

元記事で読む
の記事をもっとみる