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【和田秀樹】糖尿病でも太っていたほうが長生きする? 高齢者医療の定説を覆す新刊『老いるが勝ち!』〈インタビュー〉

  • 2024.9.7

健康寿命を超えてはつらつと生きるためには、嫌なことを我慢せず好きなことだけするべきと説くベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎新書)など、多くの著書で知られる精神科医の和田秀樹さん。8月に発売された新刊『老いるが勝ち!』(文藝春秋)には、「心筋梗塞も糖尿病も太っていたほうが長生きする」「糖尿病の治療がアルツハイマーを促進する」など驚くべき言葉が並びます。これらはもちろん意表を突くためのものではなく、和田さんが高齢者専門の精神科医として、36年間延べ6000人の患者を診てきた経験やデータ上での事実。では実際、それらの事実はどんな経験やデータによって導かれたものなのか? お話を伺いました。

高齢者に健康常識は当てはまらない

――まずは新刊『老いるが勝ち!』の執筆に至った経緯から教えてください。

和田秀樹さん(以下、和田):きっかけになったのは養老孟司先生ですね。養老先生とは何度か対談させていただいているのですが、先生は「世の中は理屈通りにいかないと信じてるからね」と言いながらタバコを吸うわけです。そんな先生を見ていて最初は“理屈と現実”というテーマで書こうと思ったんですが、結局『老いるが勝ち!』になりました。

――それはなぜですか?

和田:僕が昔勤務していた浴風会という病院で、老人ホームの入居者を対象に10年くらいのフォローアップ調査をしたんです。すると「喫煙者も非喫煙者も10年後の死亡率は変わらない」というデータが出た。その論文の考察を読むと、世の中にはタバコに強い人もいれば、弱い人もいる。タバコをスパスパ吸っていても100歳まで元気な人もいるわけです。おそらく老人ホームに入るときまでタバコを吸って生きてきた人はタバコに強い。だからホームに入る年齢まで生きている人は、タバコを吸う吸わないで死亡率に差がなかったのだろうと書かれていました。それに「なるほど」と思って。年を取ってからは基準値や正常値、健康常識って、だいぶ違ってくるんだろうなと思うようになったんです。高齢者にも「塩分控えなさい」「体重落としなさい」と言いますが、仮にそれが体に悪かったとしても「それで平均寿命まで生きているのに、なぜ文句言われる必要があるのか?」というのが大事なピントとなる考え方だと思ったわけです。

――高齢者の方にはいわゆる医療の定説は通用しない部分もあると。

和田:その年代の人は20代、30代の若造の医者に「タバコ吸ってると長生きできないよ」とか「塩分を控えなさい」とか言われる筋合いないんですよ。これははっきりとしたデータがある話ではないですが、医者の平均寿命は昔から一般の人より短い。激務だからとかストレスが多いからとかよく言われますけど、そうだったとしても長生きしていない人に長生きのことを言う資格があるのかと。そういうことはすごく感じますね。

日本の高齢者医療は調査不足

――お医者さんの言うことを鵜呑みにしてはいけないんですね。

和田:そもそも“理屈と現実”という本をなぜ作りたいと考えたかというと、実は日本の場合、学者たちの調査が圧倒的に足りていなんですよ。例えば血圧の薬を飲んだ群と飲んでいない群で、5年後の脳卒中や心筋梗塞の死亡率にどのぐらい差があるのかを調べた調査結果は日本にはない。一度だけ6000人規模で調べて、絶対にデータが出ると思ったら出なかった。そこで改ざんをしてしまったのが有名なディオバン事件(高血圧治療薬ディオバンに関する臨床研究の論文不正事件)です。このようにちゃんと調べてみたら予想外の結果が出ることって実はまだあると思いますね。特に高齢者においては、もっとそれがいっぱいある。それらを世の中の人に知ってほしい。それに僕はお年寄りをいっぱい診ているから、「明らかに太めの人の方が元気で長生きしている」とか現実に起きていることを知っているわけです。なのに勝手なことを言う医者が多すぎるので、僕はこういう本を作ろうと思い至ったわけです。

――実際の臨床現場で高齢者の方を診た経験が生かされているわけですね。

和田:もちろんそうです。血圧の薬を飲んで元気がなくなったりね。高齢者医療の現場で一番衝撃的だったのが、90年代に高齢者の長期入院医療費を定額制にしたときですね。昔は老人病院というのがあって、一旦入院したら死ぬまで預かってくれるけど、リハビリが必要でもろくにやらないようなところが多かった。僕もアルバイトで行ったことがありますが、20人部屋とかでみんな寝ていて、賄い婦さんという人が時間になったらご飯を食べさせるだけ。ほとんどの人が点滴を打っているみたいな感じでした。それが定額制によって、入院してる人にたくさん薬を出してたくさん点滴を打ったらその分儲かっていたのが、薬をいくら出しても一定の金額しか支払われない制度に変わった。そうすると、多くの老人病院が一気に点滴を止め薬も減らしたわけです。某有名病院の院長とかもいろんな講演会で、「うちの病院は薬を1/3に減らしました」と。でも続けて「薬をそんなに減らすなんて悪徳病院だと思われるでしょう。でも寝たきりの人がみんな次々と歩き出すんですよ」とも言っていて。そういうことって多分いっぱいあるのに、日本の医学者たちって薬の適正量とか、血圧や血糖値はどのぐらいまで下げた方がいいのかとか、調べてないんだよね。

――そこでも調査が足りていないと。

和田:僕が高齢者医療に対して一番あてになると思っている調査が、小金井研究という1991年まで満70歳の高齢者約400名を対象に行われた調査です。この調査は15年間、様々な点から調査する追跡調査だったのですが、やっぱり太めの人とか、コレステロールが高めの人とかが長生きしているという結果が出ました。また僕が勤務していた浴風会のいいところは、老人ホームが併設されているから死ぬまで患者さんを診るんですよ。その時感じたのも、「血糖値はあんまり生存曲線に関係ない」とか、「血圧は180を超えるとさすがにまずい」とかいうことですね。「高齢者に対しての調査をする前から、全世代と同じように血圧を下げろ、血糖値下げろとか言うな」と言いたいわけです。

高齢者医療と長く向き合うことで得た視点

――実際に現場で先生が診られている高齢者の方は意外と元気な印象でしたか? それとも困難が多い印象でしょうか?

和田:ケースバイケースですね。でも僕は認知症の人も診ているのですが、食べたことを忘れてまた食べる人もいれば、本人が好んでダイエットをしている人もいて。食が細いからガリガリに痩せてくる人もいます。そういう人と実際に向き合ってみると、やっぱり人間食べることが一番だと感じるんですよね。ふっくらしている人が一番元気だし、食べられなくなってくると長生きはしづらい。人間にとって栄養状態はやっぱり大事なんだろうなと思いますね。

――栄養が大事というのは本書でも言及されていましたね。

和田:僕はタンパク質が足りてないと思うから積極的に摂るようにしています。例えば僕の場合体重が65キロだから、一般的には65g、健康状態とか筋肉を保つためには65歳を過ぎたらその1.2倍、78gのタンパク質が必要なわけです。タンパク質を78g摂ろうとしたら、肉だと390gですよ。そう考えると日本人のほとんどはタンパク質不足ではないですかね。

――今までお伺いしたお話もそうですが、本書にはこの本を読まないと知ることができなかった内容がたくさん書かれていますよね。どんな方に読んでいただきたいですか?

和田:もちろん高齢者の方に読んでいただきたいですし、その家族の方にも読んでいただきたいですね。今まで私が間違っていると指摘した医者たちも、悪気があって「血圧を下げろ」「塩分を控えろ」と言っているわけではない。ご家族も高齢者本人に「免許を返しなさい」とか「塩分控えなさい」と言うにしても悪気はないんですよね。悪気なく、高齢者本人から好きなものを取り上げてしまっている。僕自身、今年の正月に母親がバタッとご飯が食べられなくなって入院したんです。結果的には急性胃炎だったんですが、入院期間中と食べられなかった期間のせいで歩けなくなってしまって、介護付きの老人ホームに入ることになりました。そしたら病院からの引き継ぎでご飯がおかゆと刻み食にされちゃった。「食べている気がしない」と母が言うので、「もし母が固形物を食べて死んでもあなた方のことを訴えたりしないから、好きなものを食わしてやってくれ」と話したんです。家族の中には体を気遣っていろいろと考える人もいるし、好きなもん食って死ねたら本望と思う人もいますよね。いずれにせよこの本にあるような事実を知った上で、お年寄りに接して、判断してほしいなと思います。

取材・文=原智香、撮影=川口宗道

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