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史上初「女性の棋士」誕生なるか!? 棋士と女流棋士はどう違う? 西山朋佳女流三冠が編入試験に挑戦!

  • 2024.9.7
西山朋佳女流三冠が9月10日から「棋士編入試験」を受験します。現在は「女流棋士」であって「棋士」ではない西山女流三冠が、棋士になれるかどうかという試験。棋士と女流棋士の違いや編入試験のしくみを説明します。(写真:毎日新聞社/アフロ)
西山朋佳女流三冠が9月10日から「棋士編入試験」を受験します。現在は「女流棋士」であって「棋士」ではない西山女流三冠が、棋士になれるかどうかという試験。棋士と女流棋士の違いや編入試験のしくみを説明します。(写真:毎日新聞社/アフロ)

将棋を指すプロには「棋士」と女性限定の「女流棋士」がいます。棋士になるほうが高い実力が必要で、男女ともに門戸が開かれています。しかし女性で棋士になった例は今までになく、現役170人ほどの棋士の全員が男性です。

今回、女流棋士としてトップの活躍を続けている西山朋佳女流三冠(29歳)が、2024年9月10日から「棋士編入試験」を受験します。合格すれば史上初の女性の棋士となるため、大きな注目を集めています。

将棋界の「棋士」と「女流棋士」は別の制度

棋士と女流棋士は、戦う棋戦が違います。棋士には「竜王戦」「名人戦」などの棋戦があり、タイトル戦は8つ。女流棋士にも「白玲(はくれい)戦」「清麗(せいれい)戦」などの女流棋戦があり、タイトル戦は同じく8つあります。このほかに棋士、女流棋士ともに「一般棋戦」と呼ばれるタイトル戦以外の棋戦もあります。

棋戦の仕組みは同じようなもので、それぞれ現役の全棋士、全女流棋士がそれぞれのトーナメントに参加して、タイトル挑戦者などを決めていきます。女流棋戦に棋士が参加することはできませんが、棋士の棋戦にはタイトル保持者など一部の女流棋士が参加できるものが複数あります。

「棋士編入試験」は通常の棋士になるルートとは違う

「棋士編入試験」とは、棋士の棋戦に参加した女流棋士やアマチュア(アマも全国大会優勝などの実績で棋戦に参加できる)が、勝率6割5分以上かつ10勝以上という成績をクリアしたときに受験の資格が得られるものです。

西山女流三冠は、棋士の棋戦で13勝7敗という成績をあげて、7月4日に受験資格を獲得。その日のうちに受験したい意向を示し、報道されました。

棋士編入試験を受けたのは過去に4人

この棋士編入試験は、制度化されてからアマチュア3人と女流棋士1人が受験しています。アマチュアは3人とも合格し、現在は棋士として活躍しています。女流棋士で受験したのは、福間香奈女流五冠(当時は旧姓の「里見」で受験)で、結果は不合格でした。

この編入試験は、通常の棋士になるルートとは違うものです。棋士のほとんどは「奨励会」という棋士の養成機関に小学4年生~中学2年生くらいの間に入会します。

一部の例外を除いて6級からのスタートですが、入会試験に全国から集まってくるのは、えりすぐりの将棋が強い子どもたち。6級という数字からイメージされる中級レベルではありません。しかも、合格して入会できるのは3割程度です。

「奨励会」という制度

奨励会では、毎月2回の例会で会員同士が対局し、その成績により級が上がりますが、上がれずに退会していく会員も多くいます。1級の上には初段、二段、三段があるのですが、三段になると半年かけて40人ほどで戦う三段リーグに参加します。これが奨励会の最終関門で、半年のリーグで棋士になれるのは上位2人だけです。

一方、女流棋士は奨励会の下部組織的な意味合いもある「研修会」に入会し、B1クラス(奨励会6級に無試験で編入できるAクラスに近い上位クラス)まで昇級すれば、なることができます。

60~70年前には、将棋を指す女性はアマチュアにもほとんどいませんでした。「女性にもプロになって将棋界を盛り上げてほしい」という願いもあり、50年前に棋士とは違う条件でなることのできる女流棋士制度が発足。最近では将棋を指す女性は少しずつ増え、女流棋士のレベルも上がってきています。

棋士まであと一歩だった西山女流三冠

西山女流三冠は、もともと棋士を目指して奨励会に所属していました。中学2年生の時に6級で入会し20歳で三段に。24歳の時には三段リーグで次点(リーグ3位の成績)と、棋士まであと一歩と迫りました。

しかしその後も三段リーグ上位2名に入ることはできず、25歳の時に奨励会を退会して、女流棋士になりました。女性の奨励会員が退会した場合、申請すれば女流棋士になることができるのです。

これまで奨励会に在籍した女性のうち、三段リーグまで到達したのは3人だけ。そして次点の成績を残したのは、西山女流三冠ただ1人。これまででもっとも棋士に迫る成績を残した女性が、再びチャンスをつかみ、棋士に挑戦するのが今回の編入試験なのです。

福間女流五冠との違い

2022年に女性として初めて棋士編入試験にチャレンジした福間女流五冠も、奨励会三段リーグ経験者ですが、西山女流三冠とは違う点があります。

福間女流五冠は中学1年生で女流棋士になり、女流タイトルを獲るなど活躍してから19歳の時に特例試験を受けて、奨励会1級に編入しました。そして26歳で年齢制限により、奨励会を退会したという経緯があります。

対して西山女流三冠は、奨励会6級で入会した中学2年生から25歳で退会するまで、周りの男子たちとしのぎを削って、厳しい奨励会時代を過ごしてきました。奨励会でのキャリアは、福間女流五冠よりも長いのです。

今回、棋士編入試験の受験資格を得たその日に受験する意向を示したことは、西山女流三冠の「棋士になる」という強い意思を感じさせました。

「剛腕」で新しい時代の扉を開くか

試験は9月10日に第1局が行われ、以降、月に一度のペースで行われます。西山女流三冠がこの試験に合格して棋士となった場合には、女流棋戦と棋士の棋戦の両方に参加することが可能です。

試験対局の相手は「試験官」と呼ばれ、最近新しく棋士になった順から5人が務めると決められています。試験は最大5局で、3勝した時点で合格です。3敗した時点で不合格となり、それ以降の対局は行われません。試験官は全員20代の棋士で、西山女流三冠と同時期に奨励会に在籍していた棋士たちです。

現在、奨励会に在籍する女性は2人だけ。近い将来、女性の棋士が次々に誕生するような状況ではありませんが、今回、西山女流三冠が合格し女性の棋士が誕生すれば、棋士を目指そうという女性が増えるかもしれません。

西山女流三冠の将棋はその華々しさや力強さから「剛腕」と呼ばれます。その剛腕で女性が棋士になる新しい時代の扉を開くことができるのか、注目です。

※段位、タイトル数などは2024年9月5日時点

この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を16年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。

文:宮田 聖子

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