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日本は平均寿命、健康寿命ともに世界1位! 高齢者の体力が改善している2つの理由/100歳は世界をどう見ているのか③

  • 2024.9.6

『100歳は世界をどう見ているのか データで読み解く「老年的超越」の謎』(権藤恭之/ポプラ社)第3回【全4回】 2050年には50万人以上が100歳を超えるといわれる日本。敬老精神が高く長寿をめでる日本だが、介護や認知症のイメージにより、自分ごととしての「長生き」はネガティブにとらえられがちだ。本書は500人以上の百寿者と実際に会い、調査を続けてきた著者が加齢をめぐるさまざまなデータ、研究結果を紹介。高齢期に高まるとされる「老年的超越」の謎に迫る。多くを失いつつも幸せを感じられる老いとは何か。『100歳は世界をどう見ているのか データで読み解く「老年的超越」の謎』は、100歳を超える超高齢者の心と体を理解し、確実に訪れる人生への向き合い方を考える1冊です。

ダ・ヴィンチWeb
『100歳は世界をどう見ているのか データで読み解く「老年的超越」の謎』(権藤恭之/ポプラ社)

健康寿命とは

これまで元気な100歳を何人か紹介しました。では100歳全体ではどうなのか、どれくらいの人が健康に元気に過ごしているか、ということを見ていきたいと思います。

まず何をもって「健康」とするかという問題があります。「元気だ」「健康だ」と本人が思っていても、認知症を発症していたり生活に支援が必要だったり、ということがあるかもしれません。

「健康寿命」という言葉を最近はよく耳にすることも多いでしょう。WHO(世界保健機構)はこれを「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義しています。つまり、病気などで介護の支援を受けることなく、自立して生活できる期間を指しています。これに対して「平均寿命」は0歳での余命の平均で、健康か不健康かは問われません。

日本の健康寿命は、厚生労働省の調査で男性72.68歳、女性75.38歳です(2019年)。これを全平均で見ると世界一です(図8)。

ということは、平均寿命、健康寿命ともに日本は世界一ということになります。

最近、「ブルーゾーン」という言葉がはやっています。これは世界の長寿地域を指す言葉で、日本では沖縄県が入っています。私は、近年の日本そのものを「ブルーカントリー」と呼んでよいのではないかと考えています。

高齢者の体力は改善している

日本老年学会は2017年、新しい世代の高齢者ほどさまざまな機能が改善している傾向を見ると、65歳以上を高齢者と呼ぶのではなく75 歳以上とすることがふさわしいのではないかと提案しています。

このようなことを書くと私の年齢がばれるかもしれませんが、私が子どもの頃には、近所に着物、襦袢を着て、草履をはいて歩いている高齢の人がいました。その方が何歳だったのかはわかりませんが、だいたい65歳から70歳くらいだったと思います。また私の祖父の還暦には、赤いちゃんちゃんこを着てお祝いをしていた様子が頭に残っています。これは1970年代半ばのことですが、中学生の私から見ても、この年代の人には「お年寄り」という言葉がちょうどぴったりしていたように思います。これがわたしの抱く高齢者のイメージでした。

それが覆されたのが、加山雄三さんが還暦祝いのコンサートでギターを弾きながら歌っているのを見た時です。調べてみると、これは1997年のことでした。当時、私はすでに高齢者研究を始めていましたが、ちゃんちゃんこならぬ赤いジャケットを着て力強く歌う加山さんの姿を見て、「高齢者」とは誰のことを指すのかを考えはじめる契機となりました。

健康寿命が長いことで示されているように、高齢者の健康状態が以前よりよくなっていることは間違いありません。スポーツ庁の「体力・運動能力調査」によると、65〜69歳、70〜74歳、75〜79歳の各男女に実施した「新体力テスト」では、2002年から2020年の間で全年齢層ともに数値が向上しています。

このテストは、握力、上体起こし、長座体前屈、開眼片足立ち、10メートル障害物歩行、6分間歩行の6つの種目を行うもので、その平均を数値化したものです。2002年と2020年の数値を比べると、65〜69歳の男性で2.2、同女性で3.0、70〜74歳の男性で3.0、同女性で3.7、75〜79歳の男性で3.0、同女性で4.8と、すべての種目で数値が上昇しています。

背景にはふたつの理由があります。

ひとつ目に挙げられるのは、平均寿命が延びるにしたがって、不健康期間の圧縮が起こる現象が生じていることです。先にニューイングランドのスーパーセンテナリアン調査の結果を紹介しましたが、若い高齢者(変な表現ですが)では、不健康期間が短くなり、健康寿命が延びている。すなわち若返りが起こっているといえるのです。

もうひとつは、運動習慣のある人が増えていることがあります。2019年には、75歳以上の男性46.9%、同女性で37.8%が運動習慣を持っているという調査結果が出ています。この数値はかなり高く、65〜74歳の男性38.0%、同女性31.1%、20〜64歳の男性23.5%、同女性の16.9%を上回っているのです(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)。

ここでいう「運動習慣のある人」とは「1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人」のことで、若い高齢期には仕事があったり家事で忙しかったりと運動する機会は少なくなりがちでも、そこから解放されて運動への意欲が高まる人が多いようです。前述したように、年齢別区分で記録が登録されるマスターズ競技の最高年齢区分は105歳で、これは多くの人の目標になるのではないでしょうか。

また、昔に比べると、手軽に運動をすることができる場所が増えました。以前は公立の体育館に行かなければならなかったのが、あちこちに民間のスポーツジムが設置されています。お散歩した人が一休みできるベンチなども増えてきました。これまで家を出るのを控えていた人が出かけるきっかけにもなるでしょう。

長生きと虚弱のパラドックス

長生きできることの負の側面もあることは確かです。デンマークと日本を比較したデータを見てみましょう(図11)。

デンマークでは、1995年に100歳になった人と2015年に100歳になった人という、20年離れた年齢コホート(調査のための集団)について障害の程度を比べています。男女ともに1995年と比べると2015年には「障害がない」という人が増えています。ということは20年の間に100歳がどんどん元気になっているといえます。

一方、日本については、1973年から2000年に行われた全国100歳研究のデータを利用して「寝たきり」の人がどの程度いたのか比較しました。73年に日本で初めて100歳の全国調査が行われ、その後何回か調査がありましたが、最後に行われたのは2000年です。2000年は100歳の人口が多くなりすぎたため、全員の調査をするのは無理ということで、その半数を調査しています。その結果を見ると、だんだんと寝たきりの人が増えているという傾向があります。特に女性では顕著です。

つまりこのふたつのデータから、「日本は長生きをすることができるけれど、元気で長生きできない国である」ということが推論できるわけです。

このような傾向は、長寿で知られる沖縄や私が関わっている調査などでも観察されます。日本では、若い高齢者の元気の度合いは高まっているのに、100歳の元気の度合いが低くなっている。これは、有病状態の圧縮と有病状態の拡大が同時に生じているように見えます。

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