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【対談】池松壮亮と伊藤さとりが「映画」を熱く語る! 『ぼくのお日さま』9/13(金)公開!【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

  • 2024.9.6

映画パーソナリティ・映画評論家の伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は9/13(金)全国公開の『ぼくのお日さま』から池松壮亮さんが登場し、伊藤さとりさんがインタビュー。大の映画好きのおふたりのトークとなりました!


第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品 『ぼくのお日さま』

奥山大史(ひろし)監督の2作目の長編。ハンバートハンバートの楽曲「ぼくのお日さま」から着想し、田舎町の雪が降り始めてから雪がとけるまでのできごとを描く。吃音のある少年・タクヤを越山敬達さん、フィギュアスケートに打ち込む少女・さくらを中西希亜良さん、さくらのコーチ・荒川を池松壮亮さんが演じる。第77回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で正式出品され、ワールドプレミアでは8分間のスタンディングオベーションで称賛を受けた。


池松壮亮×伊藤さとりTALK

奥山監督、『ぼくのお日さま』について

伊藤 池松さんが思う、奥山監督の魅力を3つ挙げるとしたらなんですか? 池松 ひとつめは、映像センスですね。カメラも自分で回していて、世界を切り取る能力、その感性にはずば抜けたものを感じます。二つ目はいわゆる作家性。美しいもの、聖なるものを捉える力が強いですが、同時に人の痛みや苦しみに寄り添う力があると思います。三つ目は、人柄です。穏やかで、謙虚で、決断力があり、妥協がなく丁寧です。 伊藤 そう、この作品は吃音の子が主人公で同性愛も描かれているけれど、あえてそこの説明をしていないのが、いいなと思って。自然に物語の中に組み込まれているんですよね。 池松 決して特別なこととして描いていませんよね。映画は現実を反映するものですが、まるで現実世界を映画によってカバーするような感性に、とても共感できました。

伊藤 今回の主役の二人、越山くん、中西さんは12歳とか13歳ですよね。若い時、こういう現場を体験したら、貴重な映画体験になりそうですよね。 池松 二人には本当に感動しています。映画を作るということは大変なので、大人に混ざって、楽しいこともいっぱいありますけど、大変なこともいっぱいあります。二人ともガツガツしてなくて、控えめな性格でほんとに頑張り屋さんで。カンヌ映画祭まで行って、あれだけの拍手を、なかなか映画をやっていてもあんなに直接浴びることはないものですし、敬達も希亜良も驚いて泣いていました。そういうのを見るともうなんかこれまで感じたことのない感動がありました。

Ⓒ2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS

刺激的なカンヌ映画祭

伊藤 カンヌ映画祭はやっぱり刺激的な場所だったと思うんですが、世界の映画人たちと、一緒に作品を観たり、語り合う体験はいかがでしたか? 池松 これまで色々な映画祭に参加させてもらいましたが、中でもカンヌはやっぱり特別だと思いました。カンヌという映画の聖地とされるところに、世界中から映画好きな人たちが集まって、映画を産業としている。映画より自分が好きな、欲が強い人たちもたくさんいました(笑)。 伊藤 (笑)。 池松 でも、その欲が渦巻いているエネルギーとか、活気とか、ものすごいものがありました。それは映画の価値を高め、守ってきた人たちのおかげだと思いました。フランスが映画を生んだと自分たちが自覚していて、文化の価値を大切に守り続け、映画そのものが祝福されるような場所でした。映画をやっているだけであれだけ誉められることってあるんだという体験をしました。日本では感じたことのないものでした。

伊藤 カンヌから見た日本、日本映画界はどうでしたか? 池松 カンヌは日本以上に日本の新しい才能を求めていてくれたことを感じました。日本だけでなく、世界中の新たな才能を発掘しフォーカスしている年だったと思います。「ある視点部門」は、ここ数年コンペ漏れだと言われてきましたが、もともとはこれからの監督を発掘するものとして立てられた部門で。そこにもう一度立ち返り、今作が選ばれて。監督週間には山中遥子さんの作品(『ナミビアの砂漠』)が選ばれて、カンヌがこれからの時代に焦点を当て本格的に動いたことを感じましたし、そこに日本映画が2作入っていることは素晴らしいことだと思います。 伊藤 私も奥山監督、山中監督の今回の作品を観て衝撃を受けました。脚本上でものごとを説明しようとしてしまいがちだけど、そんなものはどうでもよくて、自分たちの内面を描きながらも、ちゃんとアートとして魅せていますよね。 池松 世界では、いまなお戦争が続いていて、映画よりも現実の方が苦しいものがありますよね。映画のリアリティが通用しなくなってきていることも感じています。そこで映画の流れも近年変化していることも感じます。『ジョーカー』や『バービー』、『パラサイト』など、いわゆる広い意味での娯楽映画に大きな意味が出てきていると思います。映画というものの価値や存在意義を、もう一度見直していくべき時だと思います。
奥山さんは今作で、社会を描かずして現実を描くことを自然とやってのけていて素晴らしいなと思います。また、今作は言葉にまつわる映画でもあって、3人はそれぞれ、言いたいこと、言ってしまったこと、言えなかったことを抱えています。今作の主題歌は『ぼくは言葉がうまく言えない』という歌詞ではじまり、主人公のタクヤは吃音症を持っています。いま世界はあまりに騒々しく、沈黙は、ないものとされがちです。でもその沈黙にはたくさんの言葉や思いがあると思います。彼らの、この世界の、沈黙に耳を傾けること、そんな映画を目指したいと思ってきましたし、そのことをカンヌが最初に観てくれてあの場所に呼んでくれたのではないかなと思っています。

Ⓒ2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS

独立し、より可能性が広がっていく

伊藤 わかります(笑)。池松くん自身、今さらに自由になったじゃないですか。自分で作品選びもするし、自分が仕事をしたい人と作品創りが出来る状況ですよね。 池松 事務所時代もずっとそうやってやらせてもらってきたんですけど、独立したことで、直接的に気持ちを伝えたり、人や組織を介さないことで、仕事やものづくりにダイレクトに反映できるようになったと思います。その分大変さは増えましたが、より良いものづくりという何よりの自分の目的を考えると、今のやり方が自分に合っていることも感じています。より個で動けるようになった、あるいは動かなければいけなくなったことが大きいかなと思います。 伊藤 私はそれによって海外の人とのボーダーが外れたんじゃないかなとも勝手に思ったんですよね。きっといろんな国の人と仕事をできる選択肢が広がりましたよね。 池松 それはずっと思ってます。これまでも映画は英語よりも世界共通言語だと信じてきたので。全然違う時代の、知らない国の映画を見て、感動したり、共感できたり。映画という言語があると思っているので、海外の作品に携わることはとても好きです。元々最初に経験した映画の現場がアメリカ映画(『ラストサムライ』)だったので、その時感じた感覚は今も残っていますし、ボーダーを軽々と超えていけるようになりたいとは思っています。 伊藤 今後、一緒に作品を創ってみたい方はいるんですか? 池松 いっぱいいますよ(笑)。きりがないくらいです。 伊藤 そうですよね(笑)。今だからこそ!という方はいますか? 池松 今? うわー(笑)、最近あまり想像してなかったかもしれないです。そうだな、今回カンヌで会った中で言うと、グレタ・ガーウィグはものすごく好きです。 伊藤 私も好きです! 池松 あなたがどれだけ映画で世界に貢献しているか、と思っています。 伊藤 わかる! 『バービー』で泣きました。 池松 長年の感謝の気持ちを、念で伝えました。 伊藤 直接伝えなかったの? 池松 コンペの審査委員長で遠いところにいましたから(笑)。 伊藤 委員長ですもんね(笑)。

池松さんとさとりさんはずっと映画漬け

伊藤 そうだ、池松くん、今度テレビドラマもやるじゃないですか。驚きました。※7月スタートの月9ドラマ『海のはじまり』に出演中。フジテレビ系の連続ドラマには初出演 池松 僕も驚きました(笑)。 伊藤 それってやっぱり池松くんの感情の中に何か変化があったわけですよね。

池松 変化とタイミングだと思います。もともと自分と関係ないものとしていたつもりはなくて。ただやっぱり1年間に何本か映画と向き合うことをしていると、他のことにさける時間がなかったんですよね。今はだいぶ和らぎましたが、20代のときとか、映画のことが知りたすぎて、人と会う時間がもったいないと思ってました(笑)。映画のこと考えていたいし、映画を観ていたいし。 伊藤 完全に映画オタクですね。 池松 そうですね。そういう10年を過ごしてきて、今後も俳優を続けていく上で、この国でやるんだったら尚更、ドラマを無視できないとは前々から考えていて。独立して、たまたまご縁を頂いて。自分の次の活動のことを考え始めたというのもあります。それからこの多様な時代に、映画とドラマの境目はどんどんなくなってますよね。それ自体はそうあるべきとは思いませんが、一方でこの変化の時に新しいものが生まれたり、あるべき姿に変化するための気付きを得たりすることがあると思います。いま、映画やドラマそれぞれのメディアがボーダーを超えて多様な可能性を探ることは重要なことだと思っています。 伊藤 私も映画が好きで伝えたいと思うと、映画を見るだけでも時間が足りない、映画だけで時間を過ごしてきました。 池松 去年、『PERFECT DAYS』が革新的でしたよね。日本映画が内側から壊せないことをやってくれたと思います。外から刺激することってとても重要で、普段映画をやっていない人たちが作り手側に入っていくとか、奥山さんのようにCMから続けてきたチームと映画チームを半々のスタッフで撮影するとか。そういうことで壊していけることがあると思っています。 伊藤 そうですよね。だって、是枝さんがNetflixで『舞妓さんちのまかないさん』をやってますもんね。 池松 刺激し合って、より良い形を目指していかなければいけないと思います。

輝いているのはどんな人?

伊藤 GLOWのテーマが「輝き」なのですが、池松くんは輝いている人はどういう人だと思いますか? 池松 光ってみんな本来持っていますよね。いきとしいけるもの。磨くこともきっと重要で、光ろうとする意志も大切だと思いますが。でもその本来持ってる光みたいなことを忘れがちで。ですよね。ピュアじゃないものにやっぱり毒されていくから。またはピュアを勘違いしてしまったり。ピュアな人や物を見るとなんか輝いてるなと思うかもしれません。それが奥のほうにあったとしても。 伊藤 最近だと誰をピュアだと感じましたか? この映画の子たちはピュアな感じがしましたね。 池松 本当にピュアでした。ピュアというかイノセントというか。眩しいほどキラキラしていました。この子たちがこれからの世界の宝物だなと思いました。二人だけでなく、この映画にはピュアなものが沢山映っていると思います。 伊藤 自分自身もピュアでいたいと思いますか? 池松 思います。思うけど、簡単ではなくて。もっと若い頃は、それを守るためにバリアを張っていたし。やり方が違ったかなと思うんですが。これからもピュアでいたいなと思います。 伊藤 池松くん、今もピュアだし、優しいですよ。 池松 ありがとうございます(笑)。

撮影=梶田麻矢 ヘア&メイク=FUJIU JIMI テキスト=杉嶋未來

池松壮亮さんPROFILE

1990年7月9日生まれ、福岡県出身。2003年、『ラスト サムライ』で映画デビュー。以降、映画を中心に多くの作品に出演し、主演男優賞、助演男優賞、多数の映画賞を受賞。海外作品にも出演し、幅広く活躍している。主な近年の映画出演作に『宮本から君へ』『ちょっと思い出しただけ』『シン・仮面ライダー』『白鍵と黒鍵の間に』、ドラマでは「海のはじまり」などがある。2024年は他に『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』が9月27日公開。主演映画『本心』が11月8日公開となる。

『ぼくのお日さま』 9/6(金)〜9/8(日)テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて3日間限定先行公開 9月13日(金)全国公開

【あらすじ】吃音のあるアイスホッケー少年・タクヤ(越山敬達)は、音楽に合わせてフィギュアスケートの練習をしている少女・さくら(中西希亜良)に心を奪われる。ホッケー靴のままフィギュアのステップをまねては何度も転んでいるタクヤを見かねて、さくらのコーチで元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)は、彼にフィギュア用のスケート靴を貸して練習に付き合う。やがて荒川の提案により、タクヤとさくらはアイスダンスでペアを組むことになる。 2024/日本/90分
監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
主題歌:ハンバートハンバート「ぼくのお日さま」
出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩
配給:東京テアトル
Ⓒ2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS

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