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シャチがボートを襲う理由「マグロ狩りの練習」だった

  • 2024.9.6
シャチは狩りの練習としてボートを襲っていた!? / Credit:Canva

イヌやネコはおもちゃで遊ぶのが大好きであり、これによってストレスを発散させるだけでなく、狩りのテクニックを学んでいます。

スペインでイルカの研究や保護を行う団体「Bottlenose Dolphin Research Institute(BDRI)」に所属するブルーノ・ディアス・ロペス氏ら研究チームによると、海洋生態系の頂点に立つ海の王者「シャチ」にも、同様の傾向があるようです。

新しい研究によると、シャチがボートを襲うのは、マグロを狩るための練習である可能性が高いというのです。

むやみに反撃しない人間たちのボートは、シャチたちが遊びながら狩りを学ぶのに都合の良い存在なのかもしれません。

研究の詳細は、2024年6月18日付の学術誌『Ocean and Coastal Management』に掲載されました。

目次

  • シャチがボートを襲う事件が相次ぐ
  • シャチは好物のマグロを追って移動し、チームプレーで狩りを行う
  • シャチたちはマグロ狩りの練習としてボートを襲っていた

シャチがボートを襲う事件が相次ぐ

シャチは高い知能と社会性、そして驚異的な攻撃力を持つ「海の王者」です。

イベリア半島とアフリカ大陸を隔てる「ジブラルタル海峡」周辺では、2020年ごろから、シャチの一団がヨットやボートを襲撃する事件が相次いでいます。

最近の2024年5月でも、ジブラルタル海峡を帆走していた約15mのヨットがシャチの一団に襲われ、沈没させられました。

専門家らによると、高度な社会性を持つシャチたちの間では、一匹の始めた特定の行動が仲間たちの間で流行することがあり、ボートへの体当たりが続出する理由も、彼らの間でそれが流行っているための可能性があるという。

では、多くのシャチたちにとって、襲撃は単なる真似事であり、その行為自体には意味がないのでしょうか。

最近、ロペス氏ら研究チームは、その答えを見つけるため、イベリア半島やビスケー湾(イベリア半島の北義肢からフランス西岸に面する湾)における2020~2023年のシャチの発生記録を調査し、シャチたちの行動の理由を分析しました。

シャチの目撃記録は、上記の期間で、合計597件も集まりました。

そして、その記録のうち47%で、シャチがボートやヨットに接触していたことが分かりました。

シャチは好物のマグロを追って移動し、チームプレーで狩りを行う

研究チームは、シャチの発生記録を元に、シャチの移動に関するコンピュータモデルを作成。

これにより、「シャチ」とシャチの獲物である「タイセイヨウクロマグロ(学名:Thunnus thynnus)」の季節ごとの居場所が同じだと分かりました。

つまり、シャチとマグロの移動は一致しており、マグロの居場所が分かればシャチの居場所も分かることになります。

ロペス氏によると、シャチは様々な獲物を食べることができますが、群れごとに異なる獲物を好むのだとか。

シャチたちはチームプレイでマグロの群れから1匹だけを引き離す / Credit:Canva

そしてイベリア半島付近のシャチたちは、このタイセイヨウクロマグロが大好きで、彼らを好んで狩るようです。

ただし、海の王者であるシャチでも、マグロを狩るのは簡単ではありません。

タイセイヨウクロマグロの成魚は、数メートル・数百キロの巨体であり、大きな群れを成して泳いでいます。

しかも彼らは海で最も速い魚の1つであるため、シャチたちはマグロを狩るために互いに協力しなければいけません。

シャチたちは狙いを定めた1匹のマグロに襲い掛かって体当たりし、まず群れから引き離します。

ロペス氏によると、1頭のシャチがマグロに襲い掛かった後、さらにもう1頭のシャチが追撃の形で襲い掛かることもある」そうです。

そのようにして何とかマグロを孤立させると、マグロを疲れさせてから、捕まえやすい浅瀬へと追いやります。

シャチたちは大好物のマグロを狩るために、チームプレイを駆使しているのです。

シャチたちはマグロ狩りの練習としてボートを襲っていた

ロペス氏研究チームは、シャチのマグロ狩りと、シャチのボート襲撃事件に類似点を見出しています。

つまり、シャチたちは、マグロを狩るための練習として、ボートのラダー(ボート下部に伸びる板。ボートの向きを変えるために使用される)に体当たりしたり、噛みついたりしているというのです。

シャチが練習で狙うボートのラダー / Credit:Canva

イヌはおもちゃで遊びながら狩りの練習をするものですが、シャチたちも人間の動くボートをおもちゃにして狩りの練習をしていたのです。

マグロは非常に速く泳ぐため、狩りをするには正確な体当たりや噛みつきが必要です。

そのため適度な速度で進む人間のボートは、練習にはちょうど良いのかもしれません。

イギリスを拠点とするクジラやイルカの保護団体「Whale and Dolphin Conservation (WDC)」の一員であるエリック・ホイト氏は、今回の研究には関わっていないものの、シャチが遊びながら狩りの練習をしている説に同意しています。

彼は、「捕食動物が持つ好奇心が、遊び行動に繋がった可能性が高い」と述べています。

シャチはボートを練習台にすることで、狩りのテクニックや認知能力・身体能力を向上させている!? / Credit:Canva

そして、「この遊びは、マグロを狩るための技術を高めるだけでなく、シャチたちの認知能力や身体能力を養うのに役立っているかもしれない」と続けています。

シャチのことを考えてむやみに反撃しない人間たちのボートは、今後も、シャチたちにとって「都合の良いおもちゃ」なのかもしれません。

参考文献

Boat-ramming orcas may be using yachts as target practice toys, scientists suggest
https://www.livescience.com/animals/orcas/orcas-may-be-ramming-boats-as-target-practice-toys-scientists-suggest

元論文

Killer whales habitat suitability in the Iberian Peninsula and the Gulf of Biscay: Implications for conservation
https://doi.org/10.1016/j.ocecoaman.2024.107245

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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