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映画化しても衰えない奇才/鬼才な主人公たち【TheBookNook #29】

  • 2024.9.6

映画化された3つの小説を紹介する「TheBookNook #29」。SF、ミステリー、サスペンスの名作を取り上げ、原作と映画の魅力を八木さんが比較します。映像化で新たに引き立つ面白さと、原作の良さが失われていない点を探るレビュー。奇才/鬼才な作家の世界観を堪能できる内容です。

文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹

みなさんは、原作がある作品の“映像化”について、どう思いますか?

原作といっても、『半沢直樹』のように小説が原作となっているもの、『ドラゴン桜』のように漫画が原作となっているもの、なかには『バイオハザード』や『ストリートファイター』のように、ゲームが原作になっているものなど、さまざま。

そしてそのどれもが、もれなく賛否両論わかれています。

ですが、仮に原作とあまりにかけ離れていても、好きだった描写が無くなっていても、やはり面白い物語というのは面白いまま。少なくとも映像化される作品にはそれだけの“魅力”があり、原作と違う部分は、それなりの“理由”があるのです。別物として割り切って、作品を味わってみることで、今まで以上にその物語を楽しむことができるかもしれません。

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今回は、過去に映画化されていて、かつ原作の良いところが大きく衰えることなく反映されていると私が感じた、大好きな作品たちを紹介させていただきます。

原作と映画、どちらか一方だけでは気づけなかった物語のさらなる魅力に心躍らせることができるでしょう。

1. 東野圭吾『プラチナデータ』

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2013年に映画化されたこの作品。これまで私が読んできた東野圭吾作品とはいい意味でまた違った世界観をもっていて、読後の印象が今も強く心に沁みついています。

物語はDNAからプロファイリングをするシステムと、それを巡った事件を描いたSF推理サスペンス。登場人物のキャラクターが強いなとは感じていましたが、読後、映画化を前提に書き始められた物語だと知って腑に落ちました。

ただ、原作と映画、かなり違うのです。決定的に違うのは、原作ではメインの事件が「連続婦女暴行事件」なのに対し、映画では「連続幼児誘拐事件」だということ。他にも教授の性別が変わっているなど、いくつかありますが……そう、とにかく本作品は、原作と映画でかなり違います。

でも、それでもなお、主人公の放つ力は偉大で、本を読むように映画を楽しむことができました。これは10年以上も前の作品。時が経った現代はDNA鑑定が当たり前となっているからこそ、あと少し、もう少し先の未来では、本当に国民全員がDNAで管理される時代が来るのかもしれない……と、急に空恐ろしくなりました。

ひと言で言うと、SFを感じさせないSF作品とでもいいましょうか。すべてを知り得ないから惹かれる……知ってしまえば愛は終わる。東野圭吾、さすがです。余談ですが、原作のエピローグの最後が個人的には大好きです。

2. 貴志祐介『青の炎』

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「問題は、自分に、そのリスクを取れるかどうか……」。2003 年に映画化された本作品。この作品は、ホラー小説家としてデビューした著者が4作目にして挑んだホラーテイストのない倒叙ミステリー作品。主人公は家族の平穏を守るために完全犯罪に手を染める17歳の青年。なぜ殺さなければならないのか、他の選択肢はなかったのか、そんな疑問をこちら側に一切もたせないほど感情移入しやすい状況を作り、私たち読者を平気で物語の奥深くに引き込んでいきます。

その面白さから映画化されるのが透けて見えるような作品で、期待していただけに残念……とはまったくならず、個人
的には映画もかなり期待以上。主人公の彼女の性格が大きく変わっていたり、原作にない場面が映画に追加されたりもしていますが許容範囲ですし、その他はほぼ原作に忠実に描かれています。

完全犯罪と謳うくらいですから、戦略を練る場面や実行に移す場面がもちろんあるのですが、そこでの心情の描き方が原作でも映画でもお見事。読者の文字を追う、もしくは映像から受け取るスピードが、まるで主人公の鼓動の高鳴りと連動するかのように速くなっていきます。20年以上経っても凄まじい臨場感があり、ここまで心を揺さぶる倒叙ミステリーはそうありません。

ただ、決して古臭さを感じるような作品ではないので、原作も映画も、まだ見ていない幅広い世代の方にぜひ触れていただきたいです。青の炎……来年の夏、きっとまた必ず読みます。

3. 首藤瓜於『脳男』

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2013 年に映画化された本作品。脳男……このタイトルに魅了されてあっという間に読了したのが映画化される約2年前。“驚異的な知能と肉体を持ちながらも感情だけが欠如された男と連続爆弾犯”……これだけで当時の私には十分すぎるほど魅力がありました。物語序盤の“まだ分からない”状態はとてもギクシャクした感触で、脳男が誰なのか、あるいは何なのか、何者でもないのか、ほとんど何も見えないまま物語は進んでいきます。

その後に明かされる真相を知ってもなお残る違和感に何度、苛立ち、震え、ワクワクさせられたか。映画では、大筋は原作に添いながらも人物設定や途中の展開、そして結末には大きな改変も見られます。ただ……その全てが悔しいほどに面白い。

物語の重要人物でもある爆破犯が原作では男性の単独犯だったのに対し、映画では若い女性に変わっていたり。居なかったはずの仲間が増えていたり。原作ファンとしては若干引っかかるところもありましたが、そんなこと気にならなくなるほどに見応えのある映像作品でした。

映画ではカットされた名場面を原作で楽しむこともできますし、映像だから魅せられる息が止まるようなアクションシーンや泣きたくなるようなグロシーンを堪能する事もできます。

そして何度も言いますが、そのどちらもが、もれなく面白い。そしてもれなく、狂ってる。ダークヒーローに会いたくなったら、また戻ってきます。

■ハマらなくても全力で楽しんで

もちろん楽しみ方は人それぞれですが、私は映画を観てから原作を読むと、どうしても登場人物が映画のキャストとイコールになってしまうことが多いので、“原作を先に読む”ことにしています。

一生のうちに読める、観れる作品は限られているのですから、自分にハマってもハマらなくても、全力で楽しみに行くのが吉。固い頭を柔らかくして丸ごと楽しんじゃいましょう。

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