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ラストの余韻がスゴい洋画、最高傑作は? 映画史に残る結末(3)脳手術で廃人に…絶望と希望が合わさった名作

  • 2024.9.6
ジャック・ニコルソン。映画『カッコーの巣の上で』のワンシーン【Getty Images】

映画作品は大抵、ハッピーエンドとバッドエンドに大別できる。上映後に爽快な気分になるものもあれば、暗い気持ちになるものもある。しかし、中にはどちらとも言えない作品も存在する。今回は、絶望と希望が合わさった不思議な結末を迎える映画を5本をセレクト。観終わった人の心に、大きな余韻をもたらす作品を5本紹介する。第3回。(文・編集部)
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●『カッコーの巣の上で』(1975)

製作国:アメリカ
上映時間:133分
監督:ミロス・フォアマン
脚本:ローレンス・ホーベン、ボー・ゴールドマン
原作:ケン・キージー『カッコウの巣の上で』
出演者:ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー、マイケル・ベリーマン、ウィリアム・レッドフィールド、ブラッド・ドゥーリフ、クリストファー・ロイド、ダニー・デヴィート、ウィル・サンプソン

●【作品内容】

ランドル・P・マクマーフィ(ジャック・ニコルソン)は、1963年のある日、精神を患ったフリをしてオレゴン州立精神病院にやって来た。本当の目的は、刑務所の強制労働から逃れるため。しかし、その精神病院の抑圧された状況に我慢が限界を超え…。

●【注目ポイント】

1976年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞を制覇した本作。こちらはいわゆるアカデミー賞における「主要5部門」と目されており、そのすべてを制覇した作品は、約95年の歴史上、本作を加え、後にも先にも3作品しかない。

不朽の名作として名高い本作は、精神疾患であると偽って刑務所入りを逃れた男の視点から、異常ともいえる精神病院の内部を、皮肉の効いたタッチで辛辣に描く。

主人公のマクマーフィー(ジャック・ニコルソン)は、同室の仲間たちに正常な世界を見せてやろうと、外に連れ出したり、女性を病院に呼ぶなど、乱痴気騒ぎに興じる。はた目からは非常識な振る舞いにみえるが、なぜか観ていて心が弾む。それは、鳥かごの中で抑圧的な日々を送る仲間たちに「本来の人間のあるべき姿を見せてやる」というマクマーフィーのメッセージがこだましているからだろう。

しかし、乱痴気騒ぎが病院にバレると、事態は急転直下する。血も涙もない看護婦長ラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)に激しく叱責された仲間の1人がショックのあまり自害してしまうのだ。

仲間が自殺したことでマクマーフィーは激高し、婦長(ルイーズ・フレッチャー)の首を絞めようとする。結果、マクマーフィーは、ロボトミー手術(脳の一部を取り除く手術)を受けて、廃人同然の姿になってしまう。

そもそもマクマーフィーは、精神異常者であると偽って刑期を逃れる、倫理観が欠如した人物である。しかし、観客は彼を決して見放さない。それどころか、物語が進むにつれて彼を愛するようになる。それはどんな人間にも分け隔てなく接する、彼の自由で平等な精神によるところが大きい。

そんなマクマーフィーに信頼を寄せる人物の1人が、ネイティブ・アメリカンのチーフ(ウィル・サンプソン)である。ネイティブ・アメリカンであることから、差別と偏見に苦しんできたチーフにとって、自身と同じ視線で接してくれるマクマーフィーの存在は、心の支えになっていたに違いない。

本作のラストでチーフは、ロボトミー手術によって生気を失ったマクマーフィーをみずからの手で窒息死させる。廃人同然の彼を「死」という形で、規律と閉鎖した息苦しい精神病院という空間から、自由にしてやるのだ。そして、チーフ自身も、自由を求めて、窓ガラスをぶち破り、外へと逃走するのだ。

主人公・マクマーフィーの死と、彼の精神性を受け継いだチーフの逃走。絶望と希望が同居するエンディングは、本作が不朽の名作として長きに渡って愛される、根拠の1つになっているだろう。

(文・シモ)

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