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125人の手によって作られた2,300着の衣装。「SHOGUN 将軍」でカルロス・ロザリオが描く戦国時代

  • 2024.9.5
「SHOGUN 将軍」はディズニープラスの「スター」にて独占配信中。
「SHOGUN 将軍」はディズニープラスの「スター」にて独占配信中。

FX製作ドラマ「SHOGUN 将軍」の衣装を依頼されたとき、カルロス・ロザリオは躊躇した。物語の構造がより明確な長編映画の衣装を制作する方が、彼はずっと好きだ。しかし、1980年版のドラマ「将軍 SHŌGUN」を懐かしむ両親が後押しとなって、気が変わった。結局ロザリオは、ジェームズ・クラベルの原作小説を再解釈したこの80年代版に立ち返ることはなかった。それどころか日本の映画やテレビを一切見直すつもりはなかった。

「この作品については、ゼロから始める必要があるとわかっていました」と彼は話す。「直接出典に当たることは、私にとっては大事なことでした。なので、当時の絵画を研究し、分析したんです」。ロザリオが主にインスピレーションにしたのは、1600年代の日本の絵画だ。「結局のところ、時代の本質をありのままに描写しているのは絵画なんです。だから、その時代を舞台とした映画には重点を置かなかったのです。そこに描かれているのは(あくまでも)監督のビジョンなので」とロザリオは付け加える。

ドラマの衣装デザインの面接に向けて、ロザリオは125枚ものスライドからなる詳細なリサーチデッキを作成した。パンデミック後にエネルギーを注ぐ何かが必要だったため、ここまでの枚数になってしまったというロザリオだが、最終的に30枚まで削った。それをベースにした一方で、彼は史実に基づいた戦国時代の日本を作り上げるために、専門家にコンタクトを取った。

「なるべく史実に忠実になるように、プロジェクト全体を通して歴史学者や専門家の方たちにご助力いただきました。京都大学で教鞭を執っている歴史学者の方と主に連絡を取っていたんですけれど、彼には本当に最初から最後までお世話になりました」

そこからロザリオは日本、カナダ、アメリカ、タイ、中国の5カ国にまたがる125人以上の制作チームを統括しながら、2,300着以上もの劇中衣装を作り上げた。

衣装制作の鍵を握る、時代背景と「服装の言語」

ロザリオは戦国時代の日本の文化を学ぶだけでなく、彼が「服装の言語」と呼ぶ、服に秘められた意味にも精通しなければならなかった。「例えば、貴婦人は身分や地位が高ければ高いほど着る枚数が増え、男性は袴のひだの本数が増えます」と彼は言う。

どのような素材が支配階級向けだったのかを知るのも重要だった。「綿は当時とても希少な織物でしたから、綿の足袋は太閤、落葉の方、親王のものしか作りませんでした」とロザリオ。「綿は一部の富裕層にしか買えない織物だったということを、私なりの方法で表現したつもりです」。そして本城の中では、靴は身分を示すものだった。「(五大老)の大名たちは、特注の鹿革の足袋を履いていましたが、城内のほかの人たちはみんな素足でした」

かつて町人も、兵士も、官僚も履いていた足袋は、メゾン マルジェラMAISON MARGIELA)の「タビ」シューズのおかげで世界的に認知度が高まった。しかし足袋をはじめとした履き物は、俳優たちの安全を守るためにロザリオが唯一、史実に背いてデザインしなければならなかったピースだ。「ご覧の通り、現代で俳優たちとドラマを制作している身ですので、安全性は確保したかったのです」

パイロット版では、樫木藪重(浅野忠信)がスペイン人の航海士を救出するため、不安定な岩場を必死に降りるゾッとするシーンがあった。容赦ない地形を草鞋で懸命に降りる藪重の姿を見て、多くの視聴者が冷や汗をかいたに違いない。しかし彼が履いている草鞋は、実はゴム製の滑りにくいもの。撮影は冬のバンクーバーで行われたため、ロザリオはカナダの悪天候にも耐えられる丈夫な靴を作る方法を見つけなければならなかったのだ。

衣装はキャラクターの心情をも映し出すべきもの

ロザリオは今回、キャラクターたちを明確化するツールとして衣装を使うことも重要視した。セリフがほとんど日本語の本作は、登場する人物も伝承も多い。そこでロザリオは、視聴者が主従関係を区別しやすくするために、五大老に就任している5人の大名それぞれにカラーパレットを割り当てるのが最善だと考えた。「登場人物があまりにも多いので、親しみやすい衣装にすることで、視聴者がキャラクターに共感できるようにしたかったのです」と語る。例えば、吉井虎永の一派は黄、金、銅系のトーンを、宿敵の石堂和成は銀、木山右近定長は赤を纏う。

だが「SHOGUN 将軍」の衣装は、時代背景を映し出す以上のことをやってのけた。

ロザリオはシーズンを通して、各キャラクターの内なる旅を服で表現することにも同じくらいこだわった。「衣装デザイナーとしての私の仕事は、10冊の台本を読み、それぞれのキャラクターの感情曲線を完全に理解することです。衣装はこの曲線と調和していなければならないので。彼らが体験している心の変化を映し出していないといけないのです」

ロザリオが最も頭を悩ませたキャラクターは、アンナ・サワイ演じる戸田鞠子だった。虎永に命じられ、イギリス人航海士ジョン・ブラックソーンの通訳を務める鞠子は壮絶な過去を持ち、シリーズの冒頭では心を閉ざし、氷のように冷たかったとロザリオは語る。「初めの方の彼女は、精彩に欠けています。それを衣装にも反映したかったので、かなりモノクロのものになりました。彼女の服を通して、『冬』を表現したかったのです」

「雪に覆われた草や葉のない枝といった柄やグラフィックが施されています。目的も意思もなく人生を歩んでいるキャラクターが、徐々に自分の能力に目覚め、目的を見つけるにつれて、衣装に描かれている椿の花が咲いていくのがわかります。私なりに、鞠子の変化を花で表現しました」

Text: Hannah Jackson Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.COM

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