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英国の最先端のリゾートホテル「ザ・ニュート イン サマセット」で、本当の豊かさを探求【コンシャス・ラグジュアリー旅 後編】

  • 2024.9.5

サマセットに誕生した、世界が注目するホテル

英国「ウェルネス・ツーリズム」のパイオニアが前編でご紹介した「デイルズフォード オーガニック」だとしたら、「ザ・ニュート イン サマセット」は最先端のコンシャス・ラグジュアリーな旅を堪能できる場所だ。

サマセットはイギリスの南西部に位置するカントリーサイド。古代ローマ浴場で有名なバース、ウエルズの大聖堂など古い歴史が息づき、英国らしい田園風景を今に残している。なかでも「ザ・ニュート」がある村は、何百年前から採石されてきたオレンジ色の砂岩の家が並ぶ古い集落の一つ。観光地らしい場所はない静けさに満ちている場所だ。

ロンドン・パディントン駅から2時間半。キャッスリキャリー駅からタクシーで20分ほど走れば「ザ・ニュート」に到着する。
ロンドン・パディントン駅から2時間半。キャッスリキャリー駅からタクシーで20分ほど走れば「ザ・ニュート」に到着する。

そんな小さな村の、17世紀に建てられた瀟洒な邸宅「ハドスペン ハウス」を含む広大な敷地を、南アフリカにホテル&ワイナリーを所有するカレン・ルース氏が購入。2019年に「ザ・ニュート」としてオープンした。その後わずか4年の2023年には「世界のベストホテル50」にランクインし、瞬く間に旅慣れた世界の富裕層たちの間で話題になった。それもそのはず。このホテル、さまざまなことが規格外。実際訪れてみれば、すべてにおいて今までの“ホテル”という枠組みでは収まらないスケールの壮大さに心底驚くだろう。

イングリッシュガーデン。写真は敷地内のごく一部。ホテルの本館、別館はここには映っていない。
イングリッシュガーデン。写真は敷地内のごく一部。ホテルの本館、別館はここには映っていない。

まず、物理的に度肝を抜かれるのは敷地の広さ。総面積は約400ヘクタールにも及び、東京ドームに換算すれば約87個分! しかも、本館、別館合わせて40の客室、3つのレストランにバー、スパにプールといった従来のホテルのファシリティだけでなく、知的好奇心を満たすさまざまなユニークな施設がたくさんある。昔からある英国の歴史が辿れるイングリッシュガーデンに、3000本に及ぶりんごの果樹園。400種類近く育てている野菜畑、羊や牛、鹿がのんびりと過ごすファーム、パン屋にアイスクリーム屋、シードル工場に博物館、古代ローマの歴史的遺構……数え出したらキリがない。

しかもその一つ一つが、“昔からそこにある”かのように周囲と馴染みつつ、研ぎ澄まされた美しさでゲストを楽しませる。かつてハドスペントと呼ばれていたこの土地の、古き良き時代と現代の快適さが見事に融合した異空間で、自然と学び、優雅な時間を過ごすことができるのだ。

17世紀に建てられた頃とほぼ変わらない「ハドスペン ハウス」のエントランス
17世紀に建てられた頃とほぼ変わらない「ハドスペン ハウス」のエントランス

古き良きサマセットの暮らしがここにある

「ザ・ニュート」が特別なのは、ここにあるすべてが“本物”であり、“洗練されていて”かつ土地の背後にある“物語”を自然に感じられることにつきるだろう。オーナーのカレンさんは実業家であるが、かつて『Elle Decoration South Africa』の編集長を務めた人物。ホテルを構成する一つ一つに、サマセットという土地の要素を“編集”し、物語を染み込ませていく手腕と美的センスはさすがとしか言いようがない。

「ハドスペン・ハウス」のドローイングルーム。
「ハドスペン・ハウス」のドローイングルーム。

例えば、ホテルの客室。本館「ハドスペン・ハウス」は、ジョージアン王朝時代の歴史の雰囲気を感じさせるインテリアに統一されている。家具もパトリシア・ウルキオラやシャルロット・ペリアンなど新旧がほどよくミックスして備え付けられ、過去と現在がゆるやかに融合しているようでしっくり合う。

「ハドスペン・ハウス」からカートで10分ほど離れている別館の「ファームヤード」は、酪農場や馬小屋などの建物群だった場所。ここは、農場が建設された当時の様子と、その時代の歴史を描写した文学作品・トーマス・ハーディ著の「遥か群衆を離れて(原題:Far From the Madding Crowd)」からデザインのインスピレーションを受けて改装したのだそうだ。

ファームヤードエリア。
ファームヤードエリア。
縦に長い奥行きのある部屋。暖炉の手前にはリビングルーム、その奥にバスルーム、トイレと続く。バスルームやトイレには扉がないが、エリアごとのパーティションでうまく目隠しされている。
縦に長い奥行きのある部屋。暖炉の手前にはリビングルーム、その奥にバスルーム、トイレと続く。バスルームやトイレには扉がないが、エリアごとのパーティションでうまく目隠しされている。

今回、宿泊したのは、「ファームヤード」の部屋。馬小屋の梁をそのまま生かした細長い空間は、剥き出しの砂岩の壁など、かつての姿を感じられるラスティックな雰囲気が心地よい。ベッドに寝転がりながら、暖炉の火を見つめていると、過去と現在を行ったり来たりするような不思議な感覚に陥った。

敷地内にあるシードルの醸造所「サイダー・プレス&セラー」。
敷地内にあるシードルの醸造所「サイダー・プレス&セラー」。

こうした土地の物語を紡ぐのはホテル棟に限ったことではない。敷地内にシードルの醸造所を作ったのも、サマセットの食文化を継承したいからだという。 サマセットは、古くから続くリンゴ栽培と上質なシードルの名産地で知られている。今でも古い果樹園が点在し、古い納屋にシードル絞り機をみかけることも珍しくない。しかし、現在リンゴの生産もシードル造りも減少しているのだという。サマセットの象徴でもあるシードルを自家生産することで、訪れたゲストに地元の名産について知ってもらい、未来に繋げられたらという思いがあるのだ。

滞在中、無料のシードル醸造所見学ツアーに参加して、試飲するのも楽しい。
滞在中、無料のシードル醸造所見学ツアーに参加して、試飲するのも楽しい。

さらに、シードルを自分たちがつくったリンゴで醸造しようと、敷地内には70種、3000本のリンゴの木を植えているという。今はまだ若くて実がならないため、外から買ってきたリンゴで醸造している。しかし、2〜3年もすればかなりの割合を自社畑のものでまかなえる計画だ。

「ファームヤード」から「ハドスペン・ハウス」へは、カートでリンゴ畑と羊の群れの中を進む。
「ファームヤード」から「ハドスペン・ハウス」へは、カートでリンゴ畑と羊の群れの中を進む。

安心安全な食は、自ら作る

「ザ・ニュート」では、“人を健やかにする“食材に対する情熱の掛け方も半端ではない。できる限り食材は”自給自足“がポリシーだ。実は先に書いた東京ドーム87個分の敷地の多くを占めるのが、畑や牧場なのだ。

「ファームヤード」に泊まると「ハドスペン・ハウス」へ行く時に、羊たちが草を食むリンゴ林や、牛が木陰でのんびりと寝そべっている側をカートで走る。サファリパークさながらの風景だが、この羊や牛は景観のためであると同時に、食肉用の家畜でもある。

「ハドスペン・ハウス」前で草を食む牛。
「ハドスペン・ハウス」前で草を食む牛。

フードビバレッジマネージャーのアラン・スチュワートさんによると、牛はこの地の在来種、ブリティッシュ・ホワイト。羊も地元品種のドーセット・ダウンだ。ホテルの敷地内に放たれている牛や羊はごく一部で、多くはホテルからカートで5分ほどの場所に「アバロン」とよばれる場所にいるという。「アバロン」には野菜畑や牧場、肉の加工場があり、20人の専属ファームチームが働いている。家畜には夏場はオーガニックの牧草、そして冬は畑で育てた豆や大麦を与え、育てた牛は屠殺場で解体し、自社に戻して加工場で熟成する。

俄然興味が出て、スチュワートさんと「アバロン」に伺ったのだが、ホテルのイメージとはガラリと違う現代的な設備に驚いた。熟成中の枝肉が並ぶ食肉加工場はまるで美術館のようにスタイリッシュで、温室では、温度から肥料の濃さ、水量などをすべて微妙に調整できる最新のハイドロポニックス(水耕栽培)のシステムが導入されている。

食肉加工場もモダンでスタイリッシュな建築。熟成は個体によって職人が見極める。
食肉加工場もモダンでスタイリッシュな建築。熟成は個体によって職人が見極める。
取材時は、6種類のトマトと2種類の唐辛子がハイドロポニックスで栽培されていた。
取材時は、6種類のトマトと2種類の唐辛子がハイドロポニックスで栽培されていた。

野菜は、オーガニックで季節のものを400種近く栽培。露路ものもつくっているが、気候変動の影響を受け、生産性が低くなってしまうトマトや唐辛子は、ハイドロポニックスなのだそうだ。通年安定して収穫できるので、ホテルのトマトや唐辛子は100%自社農園のものでまかなえているという。

「ザ・ボタニカル・ルーム」。英国らしいクラシックな内装にトム・ディクソンの照明がモダンに調和。
「ザ・ボタニカル・ルーム」。英国らしいクラシックな内装にトム・ディクソンの照明がモダンに調和。

農の現場を見せてもらったら、次は実食だ。ディナーを楽しむなら「ハドスペン・ハウス」にあるメインダイニング「ザ・ボタニカル・ルーム」、または、「ファームヤード」にあるに薪火料理の「ファームヤード・キッチン」の2択。

初日はドレスアップして食事を楽しみたい「ハドスペン・ハウス」へ行ってみた。牛肉のブリティッシュ・ホワイトにするかラムにするか悩んだ末、ラムをチョイス。のびのびと育ったラムは柔らかく香りがよく、軽やかなソースとよく合う。「ファームヤード・キッチン」は、シンプルに薪焼きの料理がメイン。2日目はこちらでまたラムを食べたが、同じ食材でもアプローチの仕方で、違う魅力が引き出されていた。

「ザ・ボタニカル・ルーム」で注文したラム肉の料理。
「ザ・ボタニカル・ルーム」で注文したラム肉の料理。

英国ガーデンの歴史を歩く

「ザ・ニュート」にはさまざまなアクティビティがあるが、ぜひ参加してほしいのがガーデンツアーだ。ガイドは、ホテル開業時からガーデナーとして働く日本人の石田麻衣子さんが担当している。石田さんによると、ここのガーデンはホテルが開業する前から、イングリッシュガーデン好きには知られていた名庭だという。

ガーデナーの石田麻衣子氏
ガーデナーの石田麻衣子氏

1980 年代半ばに有名な庭園デザイナーのノリ&サンドラ・ポープによって初めて一般公開され、その後さまざまなガーデナーたちが守り続けてきた。現在の庭園デザインは、景観デザイナーのパトリス・タラベラが手がけたものだという。

面白いのは、イングリッシュガーデンの変遷を歩きながら見られること。中世から現代まで、エリアごとにそのときのトレンドががらりと変わるのが見てわかる。実際に歩きながら説明を聞くと、普通に散歩するよりも数十倍面白いだろう。

ほかにも、リンゴの受粉のための養蜂について学ぶ(ハチミツは自家採取していない)“ビーツアー”や、敷地内にあったというローマンヴィラ巡り、バースを彷彿とさせる、ハマムでのスパプログラムなど、おすすめしたいアクティビティは書ききれないほどある。

四季のガーデン。
四季のガーデン。

今回の滞在をして感じたのは、「ザ・ニュート」はかつてサマセットに息づいていた理想の暮らしを、現代における最上級のものでアップデートした壮大な楽園だということ。自然のなかで研ぎ澄まされた美に身を浸し、丁寧に作ったものを食べ、土地に染み込む物語に触れ、知的好奇心を満たしゆっくりと過ごす時間は、忙しない現代において、究極の贅沢だ。

ザ・ニュート イン サマセット(The Newt in Somerset)

Bruton, Somerset, BA7 7NG United Kingdom

Tel./03-3403-5355(日本の連絡先:ケントスネットワーク)

宿泊料金/ハドスペン ハウス £625〜 ファームヤード £785〜

*宿泊は時期によって2泊、3泊、4泊以上から。宿泊料金には1年間のガーデンメンバーシップが含まれる。

thenewtinsomerset.com

Text and Photos: Misa Yamaji

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