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この夏、日本の宇宙開発の歩みを振り返る(1)

  • 2024.9.5

「報道部畑中デスクの独り言」(第381回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は日本の宇宙開発の歩みについて。

ガッツボーズの諏訪さんと米田さん
ガッツボーズの諏訪さんと米田さん

9月に入りました。猛暑に台風……特異な天候に見舞われた今年の夏でしたが、お住まいの地域はご無事だったでしょうか。一方でこの期間、日本の宇宙開発分野では様々な動きがありました。今回はシリーズで振り返っていきます。

訓練が行われたANAのトレーニング施設
訓練が行われたANAのトレーニング施設

8月5日、JAXA宇宙飛行士候補者、諏訪理さんと米田あゆさんの訓練風景が公開されました。東京の羽田空港近くにあるANAホールディングスの施設「Blue Base」。ここで2人はフライトシミュレータを使った訓練に臨みました。JAXAが基礎訓練を日本国内メインで行うのは25年ぶりということで、貴重な取材機会でもありました。

諏訪さんと米田さんが訓練したフライトシミュレータ
諏訪さんと米田さんが訓練したフライトシミュレータ

ブルースーツがすっかり板についた感じの諏訪さんと米田さんは、緊張の中にもリラックスした表情で、シミュレータに入っていきました。報道陣はガラス越しにその様子を見守りましたが、見られるのはシミュレータの出入りの場面のみ。内部は非公開でした。

今回の訓練は基礎訓練の一環で、航空機操縦による安全運航訓練も含まれます。東京と大阪、往復のフライトを行うという設定で、諏訪さんと米田さんが連携して訓練に臨みました。ただ、これは操縦そのものが主眼ではなく、訓練で生じるトラブルへの対応や、コミュニケーション能力の強化を図ったものです。

操縦訓練風景(JAXA・ANA提供)
操縦訓練風景(JAXA・ANA提供)

訓練が終わり、シミュレータから出た諏訪さんと米田さんは別室で教官と訓練の振り返りを行いました。今回のフライトは天候が悪い設定で、訓練とは言え、着陸時に滑走路が見えない状況は不安だったようです。2人は真剣な表情で教官の話を聞き入っていました。

訓練を終え、シミュレータから出てきた諏訪さんと米田さん
訓練を終え、シミュレータから出てきた諏訪さんと米田さん

JAXAが民間企業に訓練のパッケージを任せるというのは初めてだそうです。昨年11月にANAは日本人宇宙飛行士候補者を対象にした基礎訓練の実施企業に認定されました。ANAでは安全運航のために培ってきた訓練のノウハウを宇宙飛行士候補者の訓練に活かすことができないか……新たなビジネス拡大の意向がありました。

一方、宇宙産業活性化という昨今の情勢の中、JAXAでも民間企業のノウハウを取り入れて、より効率的な訓練をしたいという要望が内外からありました。ANAで行われる訓練が宇宙飛行士の作業に近いこともあり、お互いの意向が一致したというわけです。

ANA(全日本空輸)フライトオペレーションセンター訓練業務部の鈴木直也部長は、訓練の意義を強調しました。

「人間の行動特性であるとか、行動や振る舞い、考え方を強化するための訓練。JAXAが求めている訓練にかなっていると考えている」

また、各教官が諏訪さんと米田さんについて口を揃えるのは吸収力の高さです。

「自分のものとするとして適切にアウトプットしていく能力が高い。通常はパイロット、候補生、訓練生に提供している訓練だが。圧倒的に宇宙飛行士候補者の進捗が素晴らしい」

訓練を終えて、諏訪さんと米田さんも報道陣の取材に応じました。宇宙飛行士候補者決定からおよそ1年半。夢への階段を上っているという実感をかみしめているようです。

「ただ漠然とあこがれだったものから、より具体的に一個一個の科目を学んでいくことで、その道筋がより明確に見えてきた」(米田さん)

「だんだんと自分の中で具体的なイメージ、宇宙飛行士というのはこうなんだということや、こういうことをやっていかなくてはいけないということがわかってきて、現実味がどんどんわいてきている」(諏訪さん)

訓練後、別室で教官と振り返りを行う
訓練後、別室で教官と振り返りを行う

2人のコメントには個性が感じられます。諏訪さんからはまじめさと堅実さが感じられました。

「コクピットの中がこんなに忙しいものだとはほんとに知らなくて、出発してから到着するまで、ほぼ休みなく何かしているという状況だった。最初のうちはスイッチの場所とか、プロシージャ(操作手順)の意味もわからず、それをこなすのに精いっぱい。

そうするといろんなことを忘れてしまう。例えばお互いいろんなことを確認し合いながらミスがないようにしなくてはいけない。その確認も若干おろそかになったりしたが、何回か飛行を繰り返すうちに慣れてきた。何か繰り返し反復してやるということは、重要と改めて感じた」

一方、米田さんはまさに好奇心の塊のようでした。それも宇宙飛行士の必要な資質だと思います。

「スイッチがこういう仕組みになっているんだというのとか、ここがこう動くのかというのがわかっていく楽しさが最初あった。ある種、コクピットに入っていく時に初め何も知らない状態だと、ピントがぼやけたような、ただただ、何か広がっているなというだけだが、一つ一つ知っていくと、ピントがあったような感じがしていく。

そうすると、解像度がより深くわかるようになっていく。教えていただいたこと、訓練で培ってきたことによって、私自身がピントの合うようなレンズをたくさん持って、色鮮やかに……そういう中で感じたものをいろんな方々に伝えていって、私自身も成長していけたらというふうに思っている」

ピントが合う――なかなかの表現です。「フォトグラフィックメモリ」という言葉があります。映像記憶とも呼ばれ、見たものをその場で瞬時に、かつ鮮明に記憶できる能力のことを言いますが、米田さんにはそうした能力が備わっているのかもしれません。

諏訪さんと米田さん、2人は順調にいけば、来月には基礎訓練を終え、その後、晴れて宇宙飛行士として認定される見通しです。候補者決定の記者会見から約1年半、訓練施設では着実に成長している諏訪さん、米田さんの姿がありました。

(了)

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