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東野圭吾『クスノキの番人』シリーズ待望の続編!一日しか記憶が保たない少年と、秘密を抱える少女が織りなす感涙必至の物語

  • 2024.9.5
ダ・ヴィンチWeb
『クスノキの女神』(東野圭吾/実業之日本社)

もし、これから先の未来が知れるとして、あなたは何年後の未来を知りたいだろうか。ふと考えてみると、どの未来を見るのも怖いと感じる自分に気づき、愕然とする。未来に何の希望も抱けない。これからの人生は、今まで得たものを失っていくばかりの日々なのではないだろうか。そんな悲観的な考えが拭えないのに、毎日を何となく無気力に消化試合のように過ごしているという人は決して少なくないだろう。

そんな未来に希望を抱けない人たちを包み込むような本がある。それは、東野圭吾の『クスノキの女神』(実業之日本社)。不思議な力を持つクスノキと、その番人のもとを訪れる人々が織りなす物語だ。これほど温かく優しい物語は他にあるまい。本作はシリーズ累計100万部突破、『クスノキの番人』に続く、待望のシリーズ第2弾ではあるが、前作を未読という人も、この本から読んだとしても、きっと心揺さぶられるだろう。

この物語は、月郷神社のクスノキの番人となった玲斗のところへ、女子高生の佑紀奈が訪ねてきたことから始まる。何でも神社に自作の詩集を置かせてほしいのだそうで、一冊200円で売り、生活費を稼ぎたいらしい。一方、軽度認知症を患う伯母・千舟に付き添って訪れた認知症カフェで、玲斗は、脳腫瘍のせいで一日しか記憶が保たない中学生・元哉と出会う。ふとしたことから、玲斗が元哉と佑紀奈をひき会わせたところ、二人は瞬く間に意気投合。思いがけない計画がスタートした。

前作では新芽が出始めたような、まだクスノキの番人としては頼りなかった玲斗は、今作では大木のように堂々と構え、周囲の人たちの日常をいかによくするかということばかりを考え続けている。特に、彼は、記憶障害を持つ元哉のために、何かできることはないかとあれこれと考え、そのためにはクスノキの力を使うことも惜しまない。眠るとその日の記憶を失ってしまう元哉は、どうにか記憶をとどめようと、その日に起きた出来事を「明日の僕へ」という書き出しで毎日日記に書き連ねている。そんな状況で、どうやって、明日に希望を抱くことができるだろうか。だが、玲斗は、そんな元哉の日常を変えていく。玲斗の優しさがこの物語の世界の中を循環し、数々の奇跡を生み出していくのだ。

さらに、この物語では、認知症の症状が進んでいく伯母・千舟の姿も描かれている。これまで玲斗を救い、クスノキの番人としての仕事は何であるかを教え続けてきた聡明な彼女が、こんなにも弱々しい姿になっていくだなんて。認知症にしろ、記憶障害にしろ、記憶が失われていくことは、どれほど恐ろしいことか。その姿はあまりにも切なく、胸がつまる。彼らがこれから先の未来に絶望するのは当然のこと。ああ、その姿は、どうしても他人事とは思えなくて苦しい。そんな状況で、どうやって生きていけばいいのか。この物語は彼らに、そして、私たちに、ひとつの答えをくれる。

胸がジーンとする。クライマックスが近づくにつれて、目の前が涙で霞んだ。今までのこと、これからのこと、そして、今、この時間のことを考えて、読み終えた後も、しばらくその場から動けなくなった。クスノキの力とその番人に、登場人物だけではなく、私たちも確かに救われるのだ。現実はどこまでも残酷だが、だけれども、心の中はいくらでも変えられる。誰もが感じる不安に寄り添ってくれる物語は、きっとあなたにとってもかけがえのない1冊になるだろう。

文=アサトーミナミ

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