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恐ろしい病/絶望ライン工 独身獄中記㉖

  • 2024.9.4

40歳を超えた男性が患う病をご存知だろうか。 糖尿病や高血圧、痛風などの生活習慣病。 長時間のデスクワークや運動不足に起因する腰痛、肩こり、筋肉痛。 色々とあるが罹患率100%の悪魔の病気がある。 「おじさんて気持ち悪いよなぁ笑 自分は違うけど」病、略して、、、いやいい略が思いつかねぇ。 おじさん病とでもしておくか。

私ももちろん現在進行形で患っている。 その証拠に「おじさんは気持ち悪いけど、まぁ自分は大丈夫だろう。よく年齢より若く見えるって言われるし」という確固たる執念と確証と自信を持ってこのような原稿を書いている。 そして今この瞬間もそれは揺るがず、自己肯定感を満たすそよ風となって心の草原を優しく撫でている始末だ。 つまりこの病気には自覚症状もなければ、有効な治療薬もない。 まったく恐ろしい病である。でも自分は大丈夫、東京FMのスクールオブロックとか聴くし。

そんな自分でも渋谷とか原宿とか若者の街を歩くのは怖い。 道行くキッズに嫌悪の眼差しを向けられているようで、大変に息苦しい。 そんな時は「オレ、TikTokやってるんだぜ」と心の中で唱えながら歩くのが効果的である。 すれ違う若者は誰も彼もがTikTokをやる、しかしフォロワー3万人はなかなかいまい。 キミたちはこんな気持ち悪いおじさんにコンテンツ力で負けているのだ。 これはとても心強い支えである。 Youtubeやってるんだぜ、ダ・ヴィンチwebに連載持ってるんだぜ、ではまったく効果がない。 令和の若者は生まれてから進学して成人し、就職して家庭を持つまでTikTokだけを眺めて育つ。 便利な世の中である。

休日は若者を避けるように柴犬を伴い、お出掛けをする。 遠出をして大きな公園に行くこともある。 カップルや老夫婦、家族連れ、愛犬家で賑わう庭園。 犬を連れているとは言え独身中年が1人で歩くには勇気がいるが、さらに異様な光景を目にすることがある。 露出の高い服装をした若い女性と談笑しながら歩くカメラを持った中年男性、通称個撮おじさん。 今や個撮は写真愛好家のみならず、寂しい中年男性のオアシスとして存在しているわけだが、その数があまりに増えすぎた。 公園や観光地を歩けば個撮がいる。毎週アイドルグループの個撮イベントがあるのだ。 個撮おじは女性に搾取されるだけではなく、周りから奇異の目で見られる二重の苦しみを味わい、女性は金銭の見返りとしておじさんとの苦痛な時間を過ごす。

園内を男女が列をなして練り歩く婚活パーティーと個撮イベントが同時に視界に入る休日の日比谷公園は、家族連れがほのぼのとピクニックを許されるような場所ではない。 男女の利害が交錯する修羅の園である。 そしてかくいう私も、お散歩婚活パーティ―参加者の1人である。とてもつらい。

夜の恵比寿を歩けばやはり若い女性とおじさんを見かけるが、これはパパ活である。 おじさんが金銭で女性の時間を買うといった点は個撮とあまり変わらないが、決定的な違いがある。 個撮おじは弱者男性が多く、パパ活おじは強者が大半を占める。 弱者も強者も本質は同じ。愛しくて愚かな我が同胞、おじさんなのだ。 皆、オレ(顔文字)は本気(炎の絵文字)ダヨ!!(赤い感嘆符)という類のメッセージを女性に送っているし、おじさん病の致命的な症状である「オレは他のおじさんと違うし笑」という強烈な幻想と幻覚に一生囚われ続ける。

個撮と婚活とパパ活が混在する現代社会で、おじさんが真実の愛に辿り着くのは困難に思えてくる。 年齢を重ねた分根拠のない驕りが生まれ、同時に若者への侮りから自分の価値を正確に把握できない。 この状態に陥っても尚自覚症状がないのが、この病気の恐ろしさであり、優しさってわけ。

でも私は大丈夫です。 他のおじさんと違ってイケてるし笑

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