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少女と軍人。18歳の年の差を超えて育む濃厚で芳醇な愛の物語。穏やかに優しく、互いを想い合うふたりが尊い!『煙と蜜』

  • 2024.9.4

恋愛や結婚をする・しないという選択肢がある。加えていうなら、相手も自分の意思で自由に選ぶことができる。それが当たり前となったのは、実は意外と最近だったりもする。

事実、明治・大正は、親やしきたりが決めた相手と結婚することもまだまだ多かった時代だ。時は第一次世界大戦中、激動の時代を生きた1組の許婚がいた。12歳の少女と30歳の軍人という年の差を、それでも確かな信頼と穏やかな日常で埋めていく――そんなふたりの日々を描いた作品が『煙と蜜』(長蔵ヒロコ/KADOKAWA)である。

物語の主人公は花塚姫子・12歳。身体の弱い母と共に名古屋へ移住してきたが、今は年相応の少女らしい無邪気さと大人への憧れを持ち、時に背伸びした一面も見せる。そんな彼女の成長を、屋敷の女中たちや母、そして祖父は日々温かく見守っていた。

加えて、健やかな彼女の様子を微笑ましく見守る人物がもうひとり。それが時折この屋敷を訪れる軍人、土屋文治である。落ち着きがありながらもやや強面の彼は、なんと彼女の許婚であるという。

年の差は18歳。下手すれば親子と呼んで差し支えない年齢差だが、それぞれの暮らしの中でゆっくりと、それでも確かにふたりは親愛の情を以て関係性を育んでいく。

姫子が15歳を迎える時、3年後にふたりは正式に夫婦となる。それまでに彼らは、どのような形で互いを想い合うようになるのか、その歩みや日常を描いた物語だ。

作品の見どころは、やはり少しずつ、そして着実に自分たちのペースで関係を縮めていく姫子と文治の心の交流だろう。無邪気で素直がゆえに、どこか無自覚で人を魅了する一面もある姫子。そんな彼女に時々ペースを乱されながらも、文治もまた幼い彼女を立派なひとりのレディとして見なす事も多く、決して子ども扱いをすることはない。

恋愛と呼ぶには純で、しかし親愛と呼ぶにはあまりにも親密な、互いへの想い。既存のラベルに上手く当てはめる事のできない、けれど確かに相手を大事に思う感情。それが読者にもひしひしと伝わって来て、思わずふたりの関係に“尊み”を見出す人もきっと少なくないはずだ。

婚姻関係を結ぶまであと3年。子どもから少しずつ大人へと、姫子は着実に成長していく。一方の文治もまた、大勢の部下を率いる上司、軍人という立場で激動の毎日を生きている。穏やかな暮らしの中に、徐々に見え隠れする時代の潮流や荒波。その先にふたりは晴れて仲睦まじい夫婦となれるのか、その人生の先を今後もぜひチェックして欲しい。

文=ネゴト/ 曽我美なつめ

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