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未確認生命体によるパンデミックで人類は虐殺マシーンに…。滅びゆく世界を描いた台湾発のSFコミック『ベイビー』

  • 2024.9.4
ダ・ヴィンチWeb
『ベイビー』(CHANG SHENG)

新型コロナウイルス感染症を機に「パンデミック」という言葉が一般化した。これは「感染爆発」と訳されるが、物語世界でもこうしたパンデミックがしばしば描かれる。わかりやすい例をあげるならばゾンビものだろうか。平和な日常が恐怖に侵食され、やがて真っ黒に塗りつぶされてしまうさまは、読み手に圧倒的な絶望をもたらす。だけど、物語として触れるのはとても面白いジャンルだ。

本稿で紹介する『ベイビー』(CHANG SHENG)もまさにそんなパンデミックを描いており、2011年の台湾ゴールデンコミック賞(金漫獎)最優秀少年漫画賞、年度最優秀漫画大賞を受賞した台湾で人気の漫画である。

本作で世界中に蔓延するのは、「ベイビー」と呼ばれる未確認生命体。それに寄生された人間は死んでしまう……ならまだマシで、なんと、虐殺マシーンへと変容してしまう。人類は滅亡へと向かいつつある世界を舞台に、そんな“異変者”との闘いを繰り広げている。

主人公はイー・レイサー。銃を操り、華麗な身のこなしで異変者と対峙する。しかし力量差は明らか。生身の人間でしかないイー・レイサーに対し、異変者たちはまるで未知の機械と肉体が融合したような、異形の姿となる。スピードもパワーも人間を遥かに上回る彼らを前に、彼女はそれでも闘いから退かないのだが、あるとき一瞬の隙をつかれ、ベイビーに寄生されてしまうのだった……。

異形の怪物と闘う主人公自身が、異形へと取り込まれてしまう。そこで描かれるのは、「いつまで自我を保っていられるのか」「自分は人類の味方でいられるのか」といった主人公の葛藤だろう。もしかしたらタイムリミットがあるのかもしれないし、もう救われることはないのかもしれない。読み手はそんな焦燥感とともに、主人公であるイー・レイサーを応援することになる。その読書体験はきっと、読み手の心を右に左に揺さぶってくるはずだ。

ベイビーの正体はなんなのか。世界は滅亡を防げるのか。そしてなにより、主人公は助かるのか。多くの謎が鏤められた本作をラストまで追いかけていきたいので、ぜひ日本にも広く展開していただきたい作品だ。

文=イガラシダイ

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