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“捨てられた子犬”のよう…目黒蓮が見せる“彼氏”として2つの表情とは? ドラマ『海のはじまり』第9話考察レビュー

  • 2024.9.4
『海のはじまり』第9話より ©フジテレビ

目黒蓮主演の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)は、名作『silent』の制作チームが再集結し、“親子の愛”をテーマにした完全オリジナル作品だ。人と人との間に生まれる愛と、そして家族の物語を丁寧に描く本作の第9話の考察レビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:菜本かな】
メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。

『海のはじまり』第9話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第9話より ©フジテレビ

好き同士なのに別れる選択をすることって、本当にあるのだろうか? と思っていた。遠距離で寂しくさせるからとか、まわりに反対されるとか、家族の問題とか。

そういった理由で別れた場合、大抵の人は「相手の幸せを思って…」と言う。でも、わたしはどこか綺麗事のように感じてしまっていた。厳しい言葉になってしまうかもしれないが、「好き同士なのに別れることが、相手の幸せにはならなくない?」「結局、自分がしんどいだけなんじゃないの?」と。

だから、弥生(有村架純)が、別れ話をするときに、“夏のために”、“海のために”と他人に責任転嫁をしていたら、ここまで泣けなかったかもしれない。

「3人でいるの、だんだん辛くなった」「2人のことは好きだけど、2人でいると自分が嫌いになる」とすべてを自分視点で話していたからこそ、胸にグッときたのだと思う。

夏(目黒蓮)も、「月岡くんのために」「海ちゃんのために」と言われていたら、引き止めることもできたはずだ。というか、その方が弥生も“相手の幸せを思って身を引いた優しい人”として去れたかもしれない。

でも、“自分の幸せのために”別れを決意したことをしっかり伝えたのは、最後の優しさだったのではないだろうか。

弥生はこれまで、恋人の夏にさえも本音を言えずに我慢をしてきたタイプの人間だ。そんな彼女が、「好きな人と離れても、自分が納得できる人生と、辛い気持ちのまま2人のために生きる人生。どっちにするか考えて、自分を選んだ。2人のこと、選ばなかった」とまで言い、最後の最後に「わたしは、月岡くんと2人でいたかった」と本音を漏らした。

夏が、未練を残さないように。自分のことを忘れて、前に進めるように。引き止める隙を与えなかったことにも、弥生の思いやりが透けて見えて、涙が止まらなかった。

『海のはじまり』第9話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第9話より ©フジテレビ

水季(古川琴音)が、“夏くんの恋人”に宛てた手紙には、「他人に優しくなりすぎず、物分かりのいい人間を演じず、ちょっとずるをしてでも自分で決めてください。どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです」と書いてあった。これは、弥生がかつて中絶手術を受けたあと、産婦人科のノートに綴った言葉だ。

この手紙を読むまで、弥生は海のお母さんになろうとしていたと思う。そうじゃなければ、海に「わたしが本当にママになったらうれしい?」なんて、期待を持たせるようなことを聞かないはず。

夏に「(海のお母さんに)なってほしいよ」と言われたときも、「じゃあ、いいんだよ。それで」と返していたし、“2人の幸せ”のために我慢する道を選ぼうとしていたのだろう。

しかし、水季の言葉を受けて、弥生は“自分の幸せ”と向き合い始めた。同じ言葉でも、水季は海のお母さんになることを選び、弥生は海のお母さんにならないことを選んだ…と考えると、胸にくるものがある。

正直、“リアル”に弥生と同じような状況の人がいたら、大抵の人は弥生と同じ選択をするのではないだろうか。どれだけ夏のことが好きでも、亡くなった元カノに嫉妬しながら生きていかなければならないって、あまりにもしんどい。

それに、ふつうなら「元カノの話、しないでよ」と言うこともできるが、水季は海のお母さんなわけで。海と近しい関係になればなるほど、弥生は水季の影を感じることになる。もちろん、話題に出すのを禁ずることなんてできない。

でも、『海のはじまり』は“ドラマ”だから。なんだかんだで、弥生は海のお母さんを始めるものだと思っていた。その方が、物語としても美しいし、夏と弥生のラブストーリーも盛り上がる。

それなのに、“リアル”を追求してヒロインにこの決断をさせた生方美久脚本には、唸らされるばかりである。

『海のはじまり』第9話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第9話より ©フジテレビ

“今日まで”は恋人と言い、終電が来るまで駅のベンチに座り、何でもない話を楽しんだ夏と弥生。別れる直前、「俺、やっぱり弥生さんのこと…」と言い出した夏の言葉を遮って、「頑張れ」と突き放したところに、弥生の強さを感じた。

夏を演じている目黒蓮は、“彼氏”として2つの表情を見せている。同級生の水季と付き合っていたときは、どこか大人っぽい雰囲気を纏っていた。水季が無邪気にはしゃいでいるのを、「もう、危ないよ」と言いながら見守っている感じ。

しかし、弥生の前ではあどけない年下彼氏の表情になる。別れ際、弥生に見せたすがるような涙は、水季の前では見せたことがないはずだ。

それにしても、弥生が電車に乗って去っていったあと、“捨てられた子犬”のようになっていた目黒蓮の演技がリアルすぎた。魂が抜けたように立ち上がり、よろよろと歩き出すその背中が、とても小さく感じて胸が締め付けられた。

長年付き合っていた恋人と別れるときって、こうなるよな…と、失恋した経験がある人ならば、誰もが感情移入したであろう目黒蓮の姿。しかし、そのあと、南雲家に行ったときには覚悟を決めた“パパの顔”になっていて。

「2人で暮らしたいと思ってます。いちばん大切にします。ほかの何よりも、絶対に大切にします」と宣言したとき、ようやく“夏くんのパパ”が始まった気がした。

(文:菜本かな)

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