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【能登半島地震応援企画】 能登へ、絵本を携えて 南 果歩さんが届ける笑顔の魔法

  • 2024.9.4

2024年のはじまりに見舞われた、能登半島地震。
あれから半年以上が経ってもなお、その爪痕は深く残ったまま。
ライフワークとして、絵本の読み聞かせを行っている俳優・南果歩さんが現地を訪ねました。

南 果歩さん
1964年、兵庫県生まれ。7月12・13日は東京文化会館小ホールにて舞台『木のこと The TREE』に出演。近著にエッセイと撮りおろしフォトをまとめた『乙女オバさん』(小学館)、絵本『一生ぶんのだっこ』(講談社)がある。

東京から来ました!絵本を読んでもいいですか?

能登半島の中ほどにある石川県七尾市。穏やかな内海に面した街へ、電車を乗り継ぎ、大きなスーツケースを引いてやってきた南果歩さん。その中はお気に入りの絵本でいっぱいです。

「子どもって、お客さんがやって来るとちょっと嬉しいでしょ? 誰かが来て、絵本を読んでくれた〜なんてはしゃいでくれるから、私も一緒に楽しむ気持ちで訪ねて行っています」

東日本大震災のあと、果歩さんは東北や熊本など被災地での絵本の読み聞かせを続けています。今回、七尾市には知人を通して縁がつながり、訪問が叶いました。

最初に向かったのは、田鶴浜こども園。

果歩さんが、子どもたちの顔を見ながら「何歳〜?」と尋ねると、いっせいに「4さ〜い!」「5さ〜い!」という声や、指3本をかかげる反応が返ってきました。

元気な子どもたちに、果歩さんが選んだ一冊目の絵本は『みんなうんち』。タイトルを聞いただけでキャハハーッと笑うかわいい声が響き渡ります。

「もっと近くにきて〜」という果歩さんの手招きに、子どもたちがいそいそと前へ出てきて、ぎゅっと距離が縮まりました。「みんなのお顔がよ〜く見えるよ」と、うれしそうな果歩さん。

つぎの七尾幼稚園では、最後の一冊になると子どもたちから「え〜」と残念がる声があがり、多数決をとってもう一冊読むことに。
果歩さんが「おしまいがよかった人は寝ててもいいからね。自由だよ〜」と声をかけると、楽しそうに寝転ぶ子の姿も。

最後の能登島小学校では、1年生から6年生までの全校生徒が迎えてくれたので、果歩さんは絵本のほか、詩『生きる』を朗読。
その澄んだ声に、大人も子どもも耳を傾けていました。

子どもたちの反応に場がゆるんで大人もにっこり

どの場所でも、果歩さんは子どもたちに語りかけ、キャッチボールを楽しんでいました。

「ちょうちょはどうして、ここにとまったの?」「うれしいから!」「この子は誰に会いたいのかなあ?」「おばあちゃん〜」「だんごむし!」子どもたちの言葉はのびのびと素直で、一緒に聞いていた先生方やお母さんたちも思わず笑顔に。

そんな様子が見られると、果歩さんは少しホッとします。

「震災後は大人のほうが、いっぱいガマンしていたり、疲れが溜まっていたりしますよね。私が絵本を読みに行くことで、少しでも気分転換になったり、辛い日常から離れられる時間になればいいなと思っています」

時を重ねることの確かさと物語の力を信じて

そもそも果歩さんが被災地に通い続けているのは、東日本大震災のときに、避難所にいた人たちとの交流からたくさんのものを受け取ったから。

「体育館の冷たい床にお布団を敷いている皆さんから『もうニュースは見たくないの。ドラマに出てね』という言葉をたくさんいただきました。どんな状況に置かれていても、人は物語の世界を欲するんだと驚きました。役者の仕事が、人の心とつながっていたことに気付かされました」

ドラマに出たり活動を続けたりする自分を、その人たちがきっと見てくれている。
避難所で一対一のつながりを持てたことが、震災後に「私の仕事なんて人の役に立たない」と無気力になっていた果歩さんの意識を変えてくれました。

そうして同じ避難所を繰り返し訪れるようになった果歩さんに、ひとりの若い女性が5歳の息子さんを亡くした……と打ち明けてくれたことも。
「一緒に泣くしかできなかったけれど、大事な息子さんのお話をしてくださるまでには時間の積み重ねが必要ですし、私が外部の人間だから話せたのかもしれません」

絵本の読み聞かせは、果歩さん自身が好きでやっていること。だから子どもたちに、決して押しつけたくはないと話します。

「何も決めごとはなく、読む絵本もライブ感覚でその場で選びます。子どもたちとのキャッチボールを楽しみたいんです。聞きたい気分じゃない子がいたら、無理をしなくてもいい、自由にしていてほしい。ただ、私自身が映画や演劇の世界に身を置きながら、それを栄養にして自分の人生を歩んでいると思っているので、やはり物語の力を信じているんです。
実人生の中では収まらない感情を、想像の中で自由に解放してあげることが、実人生を豊かにすると思っています。辛い震災を経験した幼少期にふれた物語が、この先の人生のどこかで支えになる瞬間があるかもしれない。そう思って続けています」

街を車で走らせていると、倒壊している建物を幾度となく目にした。

能登の内海に浮かぶ能登島で、七尾湾をイルカがゆうゆうと泳ぐ姿に遭遇。

〈果歩さんが携えた絵本たち〉 たくさん持ってきた中から、読んだのはこちら

① 『あさいち』(福音館書店)
輪島朝市がテーマの絵本。被災地応援で復刊

② 『しろとくろ』(講談社)
猫のしろの「なんで?」がのびやかに描かれる

③ 『ぼく、お月さまとはなしたよ』(評論社)
くまとお月さまの、会話の相手の正体がたのしい

④ 『にじいろの さかな』(講談社)
世界一美しい魚のにじうおが、幸せをもとめて

⑤ 『一生ぶんのだっこ』(講談社)
小ぐまのすべてを包みこむ、肯定の物語

⑥ 『おおきくなるっていうことは』(童心社)
成長すると、心はどんなことになるの?

撮影/枦木 功[nomadica] 文/石川理恵 協力/有永史歩

大人のおしゃれ手帖2024年8月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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