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『ラストマイル』が動員ランキングV2達成!“シェアード・ユニバース”だけじゃない、TBSドラマと映画の斬新な関係性を振り返る

  • 2024.9.3

夏休み最終週となった8月30日から9月1日までの全国映画動員ランキングが発表。先週、初日から3日間で興収10億円に迫るロケットスタートを飾った『ラストマイル』(公開中)が、2度目の週末3日間も動員46万8000人、興収6億3900万円と、2位以下を大きく突き放して2週連続Vを達成。はやくも累計成績では動員152万人、興収21億5000万円を突破している。

【写真を見る】“色”へのこだわりと、青春×音楽!山田尚子作品の醍醐味がぎっしり詰まった『きみの色』がついに公開

“シェアード・ユニバース”はテレビドラマの劇場版を変える一手となるのか?

2018年放送の「アンナチュラル」の“UDIラボ”の面々も劇中に登場! [c]2024 映画『ラストマイル』製作委員会
2018年放送の「アンナチュラル」の“UDIラボ”の面々も劇中に登場! [c]2024 映画『ラストマイル』製作委員会

「アンナチュラル」と「MIU404」、主要な登場人物もストーリーも別々のテレビドラマと世界観を共有する“シェアード・ユニバース”という、日本映画ではあまり例のなかった手法で話題をさらっている『ラストマイル』。今回はこうした、ごくごく一般的な“テレビドラマの劇場版”とは異なる手法を取り入れたTBSのチャレンジングな作品にフォーカスを当てていくことにしよう。まず大前提として、『ラストマイル』はそもそも“テレビドラマの劇場版”ではないということは強調しておく必要があるのだが。

2000年代前半ごろの“劇場版”ブーム初期から、TBSでは「ケイゾク」や「木更津キャッツアイ」などの人気作の劇場版が作られヒットを記録。その後もメガヒットを記録し“キラキラ映画”という新たな潮流の火付け役にもなった『花より男子ファイナル』(08)や、複数の劇場版が製作された「SPEC」シリーズなどが成功を収め、“ドラマのTBS”という呼び名に恥じないだけのクオリティと、映画館で観るにふさわしい劇場版作品を連発。昨年大ヒットを記録した『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(23)も然りだ。

ドラマを観ていなくても、映画単体で楽しめるのが“シェアード・ユニバース”の強み [c]2024 映画『ラストマイル』製作委員会
ドラマを観ていなくても、映画単体で楽しめるのが“シェアード・ユニバース”の強み [c]2024 映画『ラストマイル』製作委員会

もっぱらそうした“劇場版”が作られる作品というのは、それなりに視聴率が高い人気作であったり、少なくともプライム帯に放送されるような知名度の高い作品が中心であった。また劇場版も2本作られている「新参者」のように原作があるものを除けば、テレビドラマよりもスケールが大きく、かつテレビドラマでひとつ区切りのついた物語のさらに先を描く“集大成”的なパターンがいまでも常套である。

そうしたなかで、斬新な試みが行われた作品のひとつが『赤い糸』(08)。テレビドラマの放送期間中に劇場版を公開させ、両方の物語が併行し、最終的にはテレビドラマの終盤のエピソードで物語が帰結する。興行的には興収11億5000万円とまずまずのヒットを記録したとはいえ、爆発的な反響は得られず、もちろん同様の手法を取り入れる作品もほとんど出てきてはいない。それでも同作の主題歌からインスパイアされた新たな物語が(別作品ではあるがこちらもドラマと映画の両方で)作られたことで、再び注目を浴びようとしている点は興味深い。

公開から10日間で興収21.5億円を突破した『ラストマイル』 [c]2024 映画『ラストマイル』製作委員会
公開から10日間で興収21.5億円を突破した『ラストマイル』 [c]2024 映画『ラストマイル』製作委員会

またTBS系列のMBSで2016年にスタートした「ドラマイズム」枠も、「咲 -Saki-」や「賭ケグルイ」「映像研には手を出すな!」、最近も「マイホームヒーロー」と、原作ものを中心にテレビドラマと映画が一体となった作品を次々と登場させてきた。それは同時に、余程の人気作しか実現しづらかった深夜ドラマの劇場版をより一般的にさせるきっかけを作ったといってもよいだろう。さらに『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』(21)では、テレビドラマと同じスタイルのエンドクレジットを採用。劇場版スケールの物語を見せつつも、“テレビドラマの安心感”をそのまま映画館に持ち込むという不思議な感覚を生みだした。

このようにテレビドラマと映画の関係性ひとつ取っても従来の劇場版の手法・構造を変える斬新な試みを繰りだしてきたTBS作品。今回新たに取り入れられた“シェアード・ユニバース”という手法も、こうして大ヒットという結果を生んだとなれば、そろそろマンネリ化しつつある現在の劇場版ブームを刷新する重要な一手になるはず。そして同時に、『ラストマイル』でメガホンをとった塚原あゆ子監督が次作『グランメゾン・パリ』(冬公開)で王道の劇場版をどう料理しているのか期待が高まるいっぽうだ。

夏休みのビッグタイトルは今週も快調!『きみの色』は7位スタートに

さて、ランキングに戻ろう。2位から6位にかけての5作品は、順位に微妙な入れ替わりはあったものの前週と同じ顔ぶれが並んでいる。公開5週目を迎えたディズニー&ピクサーの『インサイド・ヘッド2』(公開中)は、この週末3日間も動員22万7000人、興収2億8300万円を記録し2位をキープした。

『インサイド・ヘッド2』は前作超えを達成 [c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
『インサイド・ヘッド2』は前作超えを達成 [c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

累計成績では動員340万人、興収43億円を突破した『インサイド・ヘッド2』。すでに前作『インサイド・ヘッド』(15)の最終興収40億4000万円を上回っており、公開28日目での興収40億円到達は今年公開された洋画作品で最速。また近年のピクサー作品との比較では、最終興収49億円を記録した『インクレディブル・ファミリー』(18)より2日遅い達成となる。

同じく前週に引き続き3位を守り抜いた『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』(公開中)は、週末3日間で動員14万8000人、興収1億7300万円を記録。累計成績では動員177万人&興収21億円にのぼり、シリーズ8作品目かつ3年連続の興収20億円突破を達成。9月に入ってからどこまで数字を伸ばしていけるのか注目だ。

『キングダム 大将軍の帰還』はついに日本歴代興収ランキングトップ100入り! [c]原泰久/集英社 [c]2024映画「キングダム」製作委員会
『キングダム 大将軍の帰還』はついに日本歴代興収ランキングトップ100入り! [c]原泰久/集英社 [c]2024映画「キングダム」製作委員会

前週6位だった『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』(公開中)は2ランクアップで4位となり、前週4位の『怪盗グルーのミニオン超変身』(公開中)は5位に。そして公開8週目を迎え6位となった『キングダム 大将軍の帰還』(公開中)は累計動員502万人&興収74億円を突破。ついに日本歴代興収ランキングの100位以内に入り、現在はまだ97位。こちらもまだまだ目が離せない。

新作では、「けいおん!」シリーズや『映画 聲の形』(16)、『リズと青い鳥』(18)の山田尚子監督と脚本家の吉田玲子による完全オリジナル長編アニメーション『きみの色』(公開中)が7位に初登場。人が“色”で見える高校生のトツ子(声:鈴川紗由)が、同じ学校に通う美しい色を放つ少女きみ(声:高石あかり)と音楽好きの少年ルイ(声:木戸大聖)と出会い、それぞれ誰にも言えない悩みを抱えながらも音楽で心を通わせていく姿を描いた同作。

【写真を見る】“色”へのこだわりと、青春×音楽!山田尚子作品の醍醐味がぎっしり詰まった『きみの色』がついに公開 [c]2023「きみの色」製作委員会
【写真を見る】“色”へのこだわりと、青春×音楽!山田尚子作品の醍醐味がぎっしり詰まった『きみの色』がついに公開 [c]2023「きみの色」製作委員会

SNSなどに寄せられている感想では、タイトルにもなっている“色”への並々ならぬこだわりと、山田監督作品の代名詞ともいえる青春を彩る音楽を存分に堪能できる劇場環境、とりわけIMAXでの鑑賞を推す声が多数。劇場公開に先立って出品された上海国際映画祭では金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞するなど、海外からも高い評価を獲得しており、日本での興行も含めて今後の動向に注目しておきたい一本だ。

以下は、1~10位までのランキング(8月30日〜9月1日)

1位『ラストマイル』

2位『インサイド・ヘッド2』

3位『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』

4位『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』

5位『怪盗グルーのミニオン超変身』

6位『キングダム 大将軍の帰還』

7位『きみの色』

8位『サユリ』

9位『THE FIRST SLAM DUNK』

10位『SEVENTEEN TOUR ‘FOLLOW' AGAIN TO CINEMAS』

今週末はリドリー・スコットが製作を務め、名作『エイリアン』(79)の“その後”を描く『エイリアン:ロムルス』(9月6日公開)、乃木坂太郎の同名コミックを柳楽優弥と黒島結菜、堤幸彦監督のタッグで映画化した『夏目アラタの結婚』(9月6日公開)などが公開を控えている。

文/久保田 和馬

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