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「このミス」大賞受賞の降田天、新作は学園ミステリー。「神」と呼ばれた少女の死因、魔女の正体ーー数々の秘密が交錯する『少女マクベス』

  • 2024.9.3
ダ・ヴィンチWeb
『少女マクベス』(降田天/双葉社)

演劇や映画など、クリエイティブな作品を享受することが日々の活力になっている人は大勢いる。だが、その裏側はあまり知られておらず、閉じられた世界で起きる出来事の大半は表に出ることがない。降田天氏による新著『少女マクベス』(双葉社)は、演劇の舞台裏とあわせて、人間の裏側をも詳らかにするミステリー小説である。

主人公は、百花演劇学校に通う結城さやか。脚本家・演出家を志す彼女は、新入生の歓迎公演の脚本・演出を務めた。舞台袖から観客の反応をうかがうさやかは、ある新入生の発言に身を固くする。長身で声量豊かな1年生、藤代貴水は、入学式の晴れの日に、校内に不穏な空気をもたらした。

“わたしは、設楽了の死の真相を調べに来ました。”ダ・ヴィンチWeb

設楽了は、百花演劇学校に入学した1年の頃から頭角を現し、「神」と呼ばれる脚本・演出家だった。だが、2年時の定期公演で、舞台から奈落(舞台の床下に広がる地下空間)へ転落して亡くなった。彼女の死は、明確に事故死と結論づけられていた。だが、貴水は設楽の死に疑問を抱き、真相を探るべく入学してきたのである。貴水は、事件を調べるにあたり真っ先にさやかに接触した。

“「定期公演の日のその電話で、最後に了が言ったんです。あなたが〈魔女〉だ、って」”ダ・ヴィンチWeb

貴水と設楽は、地元で開催された演劇ワークショップで出会い、その後頻繁に連絡を取り合う仲であった。設楽が最後に残した言葉により疑いをかけられたさやかだったが、やり取りを重ねるうちに貴水はさやかを信頼できる人物だと思うようになる。やがて、貴水のペースに巻き込まれる形で、さやかも事件の真相を共に調べはじめる。

設楽が死の直前に言った「魔女」というワードには、さやかのほかに3人の人物が該当した。設楽が脚本・演出を担当した最後の定期公演の演目は『マクベス』。この舞台には、3人の魔女が登場する。〈恐れ〉の魔女・綾乃。〈野望〉の魔女・綺羅。〈愛〉の魔女・氷菜。貴水とさやかは魔女を演じた3人に接触し、最終的に彼女たちの秘密を暴く。それは、一種暴力にも近しいものであった。綺羅の言葉が、それを如実に表している。

“「知ったところで了は帰ってこないのに?そのために生きてるわたしを傷つけるとしても?その覚悟ある?」”ダ・ヴィンチWeb

いかなる理由があろうとも、人の秘密を無理やり暴くことは大いなる痛みを伴う。傷を公にすることで癒される場合もあるが、逆もまた然りだ。誰にも明かしたくない、墓場まで持っていきたい傷もある。ミステリー作品の大半は、秘密を暴くことに爽快感を覚えるつくりになっている。しかし、本書はその暴力性から目を背けず、他者のプライバシーに踏み込む危険性をも説いている。

3人の魔女それぞれに振り当てられた感情の意味、設楽が残した言葉の真相、たどり着いた事件の結末。何重にも張り巡らされた伏線が回収される後半、物語の奈落が開く。底を見つめるのは、勇気がいるだろう。だが、私はこの結末から目を逸らしたくない。どんな舞台にも奈落はある。もっといえば、人間の中にも。本書に隠された深い穴から何を感じ、何を見るのか。人によって変わるであろうその答えを、私たちは死ぬまで抱えて生きていくのだろう。

文=碧月はる

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