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中盤の“ビックサプライズ”に胸アツ…米津玄師「がらくた」の評価は? 映画『ラストマイル』考察&評価レビュー

  • 2024.9.3
©2024 映画『ラストマイル』製作委員会

監督・塚原あゆ子×脚本・野木亜紀子×プロデューサー・新井順子の黄金トリオが手掛ける映画『ラストマイル』が現在公開中。『アンナチュラル』(TBS系、2018)『MIU404』(同局、2020)と同じ世界線で起こる連続爆破事件を描く本作のレビューをお届けする。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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※この記事では映画のネタバレに関する記述がございますため、ご注意ください。

【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

映画『ラストマイル』
©2024 映画『ラストマイル』製作委員会

TBSドラマ『アンナチュラル』『MIU404』と世界線が交差するシェアード・ユニバース・ムービー『ラストマイル』が、公開3日で興行収入9.7億円を突破するロケットスタートを切った。

はじめに、この映画では中盤に“ビックサプライズ”が待ち受けている。その内容に関しては言及しないが、ネタバレ一切なしで本作を論ずることは難しいため、未視聴の方は注意しながら以下のレビューを読み進めてほしい。

物語は、主人公の舟渡エレナ(満島ひかり)が世界最大規模のECサイト「DAILY FAST(通称:デリファス)」の関東センター長として赴任してくるところから始まる。直近の目標は、米サンクスギビングデーの翌日に行われる大安売り「ブラックフライデー」を成功させること。流通業界最大のイベントに合わせて派遣社員を大量雇用し、エレナもチームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と忙しなく業務に当たる。

しかし、ブラックフライデー前日、センターから配送された荷物が次々と爆発する事件。残りの爆弾がいくつあって、どこにあるのかわからず、日本中を恐怖に貶めていく。

俳優の満島ひかり
満島ひかりGetty Images

センターには警察の捜査が入り、エレナは物流を止めないためにも孔と連続爆破事件の犯人を突き止めようとするのだが、本作は単純なミステリーではない。本作と同じく監督・塚原あゆ子×脚本家・野木亜紀子×プロデューサー・新井順子の黄金トリオが手がけた『アンナチュラル』『MIU404』と変わらず、犯人の正体やトリックの内容よりも、事件を起こした動機やその背景に重きを置いている。

集団自殺に見せかけた殺人、不当な労働の末に起きた事故死、いじめを苦にした自殺、外国人技能実習の窮状に一矢報いるための強盗など、『アンナチュラル』『MIU404』で扱われる事件・事故には、現実社会の問題と地続きにある、やるせない真実が隠されていた。

そのどれもが他人事ではいられなくなるエピソードだったが、制作チームは今回の映画において鑑賞者の誰もが絶対に無関係ではないテーマを設定している。サイトから欲しい商品を注文すれば、数日のうち、早ければ翌日には指定した場所まで商品を届けてくれる。

おそらく誰もが一度は利用したことがあり、普段はまさか届いた荷物が爆発するなど露にも思わず、「便利な世の中になったなあ」なんて思いながら日頃サービスを享受しているだろう。

けれど、一度でもその裏側にいる人々に思いを馳せたことはあるだろうか。

岡田将生【Getty Images】
岡田将生Getty Images

本作では、ECサイトで注文された商品がユーザーのもとに届くまでの流れが非常にわかりやすく説明されている。例えば、デリファスが注文を受けた商品はエレナのいる関東センター(自社倉庫)から、八木竜平(阿部サダヲ)がいる運送会社・羊急便の関東局へ。そこからさらに各地の配送センターに送られ、佐野昭(火野正平)・亘(宇野祥平)親子をはじめとする委託ドライバーがそこで受け取った荷物を注文者のもとへ届ける。

この最後の区間を「ラストマイル」といい、ここでは時間外労働の上限規制がドライバーにも適用される一方で、慢性的な人手不足により荷物がスムーズに届かなくなる「2024年問題」が今、懸念視されている。

では、なぜ運送業界に人手が足らないかといえば、その理由の一つが賃金の安さだ。デリファスは送料無料を実現するために、運送会社である羊急便を叩いて運送単価を抑えていた。結果、委託ドライバーたちに払われる賃金も安くなる。それは表面的にはお客様のためとされているが、結局は大元にある会社の利益のためだ。

「Customer centric(全てはお客様のために)」

そんなマジックワードで末端の人間が搾取される資本主義を推し進めた結果、起きた悲劇がこの映画では描かれている。

『アンナチュラル』『MIU404』目当ての人には物足りない?

石原さとみGetty Images

また本作は『アンナチュラル』『MIU404』とのシェアード・ユニバース作品であり、三澄ミコト(石原さとみ)、中堂系(井浦新)ら「不自然死究明研究所(UDIラボ)」のメンバーや、伊吹藍(綾野剛)&志摩一未(星野源)をはじめとする警視庁刑事部・第4機動捜査隊の面々も登場している。ただあくまでも自然な形での登場であり、中には物足りなく感じる人がいるかもしれない。

だが、彼らもまた本作には欠かせない存在であり、嬉しく思う。中でも、胸が熱くなるのが、勝俣奏太(前田旺志郎)が4機捜の新たな隊員に加わった。また、白井一馬(望月歩)も登場し、元気な姿を見せている。

ライブ配信でクラスのいじめを告発し、自ら命を絶とうとしていた白井と、先輩たちの不祥事のせいで所属していた部活が廃部となり、仲間とともにやり場のない怒りを警察への虚偽通報によって解消していた勝俣。白井はUDIラボ、勝俣は4機捜の面々によって、考え得る最悪の事態を免れたからこそ、今がある。

『MIU404』第3話で、4機捜の隊長・桔梗ゆづる(麻生久美子)が少年犯罪について「私はそれを、彼らが教育を受ける機会を損失した結果だと考えてる。社会全体でそういう子どもたちをどれだけ掬いあげられるか。5年後、10年後の治安は、そこにかかってる」と語っていたのが心に残っている。

誰と出会うか、出会わないか。誰が何をしてくれたか、何をしてくれなかったか。ピタゴラ装置のように、たったそれだけでその人のその後の人生は大きく変わる。出会わなかった、してもらえなかったことによって起きた悲劇を、この制作チームが届ける作品は決して「自己責任」の一言で終わらせない。

今回の連続爆破事件に関しても、分岐点はたくさんあった。だけど、本人がヘルプ信号を送っているにも関わらず、誰も手を差し伸べず、見て見ぬふりをした。結果、最悪の事態が起きたのだ。

綾野剛(2016年)
綾野剛Getty Images

その反省をもとに多くの人が動いた結果、事態は一旦収束を見せるが、これで一件落着というわけではない。パンドラの箱を開けたら最後、一度味をしめた人間の欲望は留まるところを知らないし、その欲望によって動くベルトコンベアはもはや一人の犠牲では止まることなく動き続ける。

では、どうすればいいのか。大事なのは、時折でも思い出すことなのだと思う。この映画のことを、あの“2人”のことを、身の回りの人に優しくありたいと思ったことを。そして、世間にとっては使い捨てのがらくただったとしても、誰かにとっては<壊れていても 二度と戻りはしなくても構わないから 僕のそばで生きていてよ>と願う大切なものだということを。

この制作チームの作品は脚本・演出・キャストの演技はもちろん素晴らしいけれど、「記憶に残す」という点でいつも多大な貢献を果たしているのが、米津玄師が手がける主題歌だ。

筆者は『アンナチュラル』の主題歌「Lemon」を聴くたびに、バイク事故の後にアスファルトに寝そべって花火を見上げていた佐野祐斗(坪倉由幸)のことを、『MIU404』の主題歌「感電」を聴くたびに、銃で撃たれて重傷を負いながらも最後の目的を果たして満足そうな笑みを浮かべていた青池透子(美村里江)のことを思い出す。

きっと今回の主題歌「がらくた」も聴くたびに、あの2人のことを思い出すのだろう。そして思い出したら、自分の言動を少しだけ省みてみたい。社会を変えるほどの力は持ち合わせていないけれど、“ラストマイル”のように世界の片隅で交わされる私たちのやりとりが少しでも温かなものになるようにと願いながら。

(文・苫とり子)

【作品情報】
『ラストマイル』
全国東宝系にて公開中
出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、火野正平、阿部サダヲ
『アンナチュラル』:石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、竜星涼、飯尾和樹(ずん)、吉田ウーロン太、薬師丸ひろ子、松重豊
『MIU404』:綾野剛、星野源、橋本じゅん、前田旺志郎、麻生久美子
監督:塚原あゆ子
脚本:野木亜紀子
主題歌:米津玄師「がらくた」
制作プロダクション:TBSスパークル
配給:東宝
©2024「ラストマイル」製作委員会

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