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NASAが100年持続する「人工流星群」を生んだ!?惑星防衛ミッションの副産物

  • 2024.9.2
Credit: canva

アメリカ航空宇宙局(NASA)が2022年9月26日に成功を収めた「DART」実験。

これは小惑星に無人探査機をハイスピードでぶつけて軌道を変えることができるかを検証すべく実施された惑星防衛ミッションの一環でした。

試験は無事に成功したのですが、その後のモニタリング調査の結果、思わぬ副産物が生み出されていたようです。

伊ミラノ工科大学(Politecnico di Milano)、スペイン・バルセロナ自治大学(UAB)の最新研究によると、衝突の影響で発生した大量の破片が今後十数年内に地球や火星に到達する可能性があると判明。

特に火星の大気圏では、史上初となる”人為的に生み出された流星群”が生じる確率が高いとのことです。

研究の詳細は2024年9月2日付でプレプリントサーバー『arXiv』(PDF)に公開されました。

本論文はすでに科学雑誌『Planetary Science Journal』に掲載されることが受理されています。

目次

  • DARTミッションの目的とは?
  • 100年続く「人工流星群」となるかも⁈

DARTミッションの目的とは?

DART(ダート)とは「二重小惑星進路変更実験(Double Asteroid Redirection Test)」の略称です。

DARTミッションは、地球に衝突する危険がある小惑星に、探査機をぶつけて軌道を変えることを目的とした実験で、惑星防衛ミッションの一環として実施されました。

もし小惑星の軌道をズラすことができれば、完全に破壊はできなくても、地球に衝突するコースは避けられるでしょう。

そうすれば、人類が約6600万年前の隕石衝突で絶滅した恐竜の二の舞になることは防げるかもしれません。

DARTミッションのイメージ図 / Credit: canva/ナゾロジー編集部

そこでNASAを中心とする国際研究チームは2022年に、地球から約1100万キロの距離にある小惑星「ディモルフォス」をターゲットにDART実験を行いました。

ディモルフォスは直径約160メートルほどのサイズで、より大きなディディモスという小惑星の周囲を公転していました。

ちなみにディモルフォスが地球に衝突する可能性は元からなく、ただDARTミッションの標的として最良だったから選ばれただけです。

そしてチームはディモルフォスに向けて冷蔵庫サイズの無人探査機を放ち、時速約2万2000キロのハイスピードで正面衝突させました。

その結果、DARTミッションは見事に成功。

探査機の衝突前、ディモルフォスはディディモスの周囲を約11時間55分かけて公転していましたが、衝突後は軌道周期が32分縮まり、約11時間23分になっていることが確かめられました。

これはディモルフォスがディディモスに数十メートル単位で近づき、”軌道のずらし”に成功したことを意味します。

こちらは探査機目線から衝突直前まで撮影されたディモルフォスの映像です。

(※ 音声はありません)

衝突の余波は?

衝突後の様子を観測するため、イタリアの小型人工衛星「LICIACube」が直前で探査機から切り離され、衝突の全貌とその余波をモニタリングしました。

2年近くの追跡観測の結果、衝突の衝撃によりディモルフォスからは100万キロ以上に及ぶ大量の塵や岩石が発生したことが判明しています。

ただこれらの破片が宇宙空間のどこに拡散するかは今日まで未解明でした。

そこでミラノ工科大らが破片の動きをシミュレーションしたところ、史上初の人工流星群となるシナリオが浮かび上がったのです。

100年続く「人工流星群」となるかも⁈

チームは今回、ディモルフォスから発生した塵や岩石の破片が太陽系内にどう拡散されるかをシミュレーションしました。

LICIACubeの観測データに基づき、計300万個の破片の大きさを直径30マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)、0.5センチ、10センチの3つにグループ分けし、それぞれが毎秒500メートルまでの速度で拡散したときの様子を分析。

この試算にはNASA所有のスーパーコンピューターが使用されています。

その結果、ディモルフォスの破片は今後7〜13年以内に火星に到達する可能性が非常に高いことが判明したのです。

さらにこれらの破片が火星の大気圏に突入すると、大気中の原子や分子と衝突することで光るプラズマが発生し、流れ星として見えると推定されました。

つまり、DARTミッションで発生した破片は、史上初となる”人為的に生み出された流星群”となるかもしれないのです。

しかもチームの試算によると、これらの破片は軌道周回しながらは断続的かつ周期的に火星にやって来て、100年続く流星群となる可能性もあるといいます。

ディディモスとディモルフォスに接近する探査機のイメージ図 / Credit: ja.wikipedia

流星群とは彗星が軌道上に残した塵の中に、地球が突入することで発生しています。

彗星は氷を多く含むため、太陽の熱によって少しずつ崩壊しながら宇宙を飛んでいます。そのため多くの塵を残すのですが、そこに惑星軌道が重なると、惑星に飛び込んだ塵が次々大気中で燃え尽き流星になるのです。

そのため、DRATミッションが生んだ塵が惑星の軌道上に来れば流星群になるのは不思議なことではありません。

その一方で、最も高速で移動する粒子の一部は今後10年以内に地球にも到達するのではないかと推測されましたが、火星ほど確かではなく、目に見える流星群が発生する確率は低いかもしれません。

もしかしたらこの破片が地球に被害を及ぼすのでは? と心配する人もいるかもしれませんが、上記の通りのためディモルフォスから発生した破片が地球に影響を与える可能性はないでしょう。

むしろ史上初の人工の流星群を肉眼では確認できないのが寂しいですね。

とはいえ今回の研究結果は、小惑星の衝突を避けるためには、単純に衝突体をぶつけて軌道をズラせば済む話ではないことを指し示してくれました。

今回の欠片は非常に小さいものでしたが、小惑星から発生した塵や岩石の副産物が地球に飛来して、少なからぬ被害を与える恐れはあるからです。

綺麗な流れ星が見えるくらいならいいですが、かなり大きな小惑星の断片が直撃すると、地上の一都市を壊滅させるほどの被害が出てもおかしくありません。

DARTミッションを安全に遂行するには、小惑星の破片についても考慮しなければならないようです。

参考文献

No, NASA’s DART asteroid impact probably won’t spark meteor showers on Earth — but maybe on Mars
https://www.space.com/dart-asteroid-impact-meteor-showers-mars

NASA spacecraft collision may have created a meteor shower that will last for 100 years
https://abc7.com/nasas-dart-spacecraft-collision-dimorphos-may-have-created-meteor-shower-will-last-100-years/15255206/

元論文

Delivery of DART Impact Ejecta to Mars and Earth: Opportunity for Meteor Observations
https://doi.org/10.48550/arXiv.2408.02836

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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