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体と心を内から解放──英国「デイルズフォード・オーガニック」へ【コンシャス・ラグジュアリーな旅 前編】

  • 2024.9.2

健康で豊かな生活の本質とは

緑が溢れているファームショップの入り口。
緑が溢れているファームショップの入り口。

人間の幸せの本質とは何か。昨今の大きな時代の変化の中で改めて問う人が増え、物質的な豊かさではなく、心も体も健やかに暮らせるような環境と快適性を伴う贅沢さ(コンシャス・ラグジュアリー)を求める人が増えてきた。

そんな流れもあるのか日々の生活だけでなく、非日常を味わう旅でも、肉体的にも精神的にも“より良い自分になれる”ことを目的とした「ウェルネス・ツーリズム」の人気が高まっている。特に欧州ではそうしたマーケットが成熟してきているという。さまざまなことが便利になる一方、なぜか溜まるストレス。生活のスピード感が増していく現代、スピードを緩めて自分を取り戻す時間も必要なのは全世界共通ということだろうか。

ウェルネス・ツーリズムもいろいろあるが、筆者が気になるのはよりシンプルな滞在のなかで本質的な贅沢を感じられる場所。体に良いものを食べ、大自然のリズムで過ごし、目の前の絶景を眺めて体と心を整える。その上で、滞在中のスパの技術、レストランで出される食事、肌に触れるものの“質”が最上級であれば言うことなしだ。

そんな旅ができる場所として思い浮かんだのがイギリスだ。疲れた自分を癒すべく、ロンドンを中心に電車で2時間以内ののどかな田園地帯に佇む、新旧リゾートを訪ねた。

一人の女性の情熱から生まれた場所

キンガム駅に向かう途中の車窓から。なだらかな丘陵が続く。
キンガム駅に向かう途中の車窓から。なだらかな丘陵が続く。

まず初めに訪れたのは、コッツウォルズの「デイルズフォード・オーガニック」。ウエルネス・リゾートという言葉ができるはるか前にすでに誕生していた、“先駆け”的存在だ。

ロンドン・パディントン駅から特急に乗って1時間20分。キンガム駅からタクシーで20分も走ると、コッツウォルズらしいライムストーンの家が並ぶ小さな村が現れてくる。車窓を楽しみながら少し行き、ほどなくして見えてきた可愛らしい三角屋根が目的地だった。

ショップの入り口には、その日畑から届いた色鮮やかな野菜が並べられているのがいかにも“農園”らしい。その奥には自家製チーズや牧場で育てた肉などの売り場があり、どのエリアも多くの人で賑わっている。

「デイルズフォード・オーガニック」は、一言で言えばファーム・リゾート。オーガニック農法で育てた自社の野菜や家畜の肉、生活雑貨などを販売しているショップを中心に、レストラン、スパ、ホテルが点在する小さな村の様な場所だ。この場所に農場ができたのは1988年。その後農場併設のショップができたのが2002年。長い時間をかけてさまざまな施設が作られていき、今は旅人が宿泊して、自然の恵みを享受しながらゆっくりと過ごせるリゾートへと進化している。

ファームショップに並ぶ採れたての野菜。
ファームショップに並ぶ採れたての野菜。
ファームで育てている乳牛のミルクで作るチーズは人気の商品。
ファームで育てている乳牛のミルクで作るチーズは人気の商品。
ほかではなかなか見かけないイギリスの在来種の羊肉。
ほかではなかなか見かけないイギリスの在来種の羊肉。

この場所を作ったレディ・キャロル・バンフォードは英国のウエルネス業界を牽引する人物だ。彼女が農業を始めたのは今から40年以上も前のこと。娘が誕生し、改めて食の安全について考え、農薬や化学肥料を多用している農業に疑問を感じたことがきっかけだった。その後、ソイル・アソシエーションの考え方に出会い、自身で娘に食べさせたい食材を作ろうとコッツウォルズに農場を購入し、オーガニックで野菜や家畜を育て始めたのだ。

実際に訪れてみると、「デイルズフォード・オーガニック」は驚くほど大規模に、そして妥協のない農業をしていることに驚いた。今も年間400種類以上の果物や野菜を作っているし、ショップの裏庭の扉をあければそこはデイリーファームが広がっていて、乳牛たちがのんびりと草を食んでいる。

牧場を見学しようとしたら、ちょうど仕事中だった牛飼いのマット・ゴルマンさんが説明をしてくれた。ミルク用の牛だけれど、ホルスタインではなく、ブリティッシュ・フリージアンという在来種を飼っていること。餌は牧草のみ。毎日120頭の牛の世話をして、1日に2回乳を絞ること。牛たちは一頭ずつに名前をつけられ、名前を呼べばゴルマンさんに近づいてくる。ふかふかの藁が敷き詰められた牛舎は極上のベッドのようで、実に愛情をもって育てられていることがわかる。

ここで絞ったミルクはチーズになってショップで売られているのだが、一口食べて、そのおいしさに思わず唸った。

牛飼いのマット・ゴルマンさん。
牛飼いのマット・ゴルマンさん。

農場としての“本気度”はまだまだあるが、ここでは語り尽くせない。羊や七面鳥、鶏なども育てているし、きのこや野草は近隣の森に採りに行くチームがいるそうだ。もちろん野菜の土も、家畜の餌となる麦なども自社で作っている。レモンやオレンジ、コーヒーなど気候的に育たないものは外から買ってくるが、自社と同じ価値観を持つ生産者から購入しているという。ショップで売られているものや、レストランやカフェで使われている食材の9割は、トレーサビリティが取れる自社ファームのもので賄っている。

レストラン「THE TROUGH」は自然光が入るナチュラルな雰囲気が魅力。
レストラン「THE TROUGH」は自然光が入るナチュラルな雰囲気が魅力。
ファームで育てた鶏肉で作るチキンローストは美味。
ファームで育てた鶏肉で作るチキンローストは美味。

そんな自慢の農産物は、ミシュラングリーンスターに輝くレストラン「THE TROUGH」で味わえる。日帰りで来るゲストも多く、お昼時は行列ができるほどの人気だ。

黒板には採れたての食材を活かした“今日の料理”が書いてあるのだが、一つに絞るのが難しいほど魅力的なメニューが並ぶ。おすすめはやはり採れたての野菜を使ったサラダやスープ。また、フリーレンジのチキンなどもシンプルで美味しい。薪窯の炎がゆらめくオープンキッチンを眺める、ナチュラルな雰囲気の店内も絶妙に居心地がよい。

英国トップのスパがここに

ここまで“食”について熱く語ってきたが、それ以外の「ウエルネス」つまり、体と心の健やかさにフォーカスする体験も忘れては行けない。「デイルズフォード・オーガニック」は、英国のスパを代表するブランド「bamford」のスパやヨガなどの直接的な体へのアプローチも非常に充実した体験が待っている。

ショップには、食品だけでなくガーデニンググッズや日用雑貨、衣料なども並ぶ。
ショップには、食品だけでなくガーデニンググッズや日用雑貨、衣料なども並ぶ。

「bamford」は、「体につけるものは、食べ物を通して体に取り入れるものと同じくらい重要である」という、レディ・バンフォードの信念から生まれたブランドだ。 世界中のラグジュアリーホテルのアメニティやスパでも採用されているほど評判も高い。肌のことを考え、厳選した材料で作られたプロダクトは、自然由来の香りが非常に心地よく、香りを嗅ぐだけで幸せホルモンがパッと出てくる。

敷地内にある「bamford」のショップ。
敷地内にある「bamford」のショップ。

スパでは、精神と体のバランスを整えることを意識した施術が行われる。ボディのメニューは体の自然な機能を促進するオイルを使って、体のエネルギーを活性化し回復を促すトリートメントに加え、マッサージで緊張した筋肉をほぐし、体に知らず知らずのうちに溜め込んでいたストレスレベルを下げてく。

スパエリアのリラックスルーム。
スパエリアのリラックスルーム。

施術の後、リラックスルームで横になり、緑あふれる景色をみながらゆっくりと過ごしていると、本来の自分を取り戻したような気がした。「bamford」のスパはロンドンや東京にもあるが、やはり良い食事をし、この環境で受ける施術は、気持ちの良さも効果も違うと思う。

デイルズフォードファームコテージの部屋。
デイルズフォードファームコテージの部屋。

敷地内のホテルは、キッチン付きのコテージになる。豪華さはないが、シャビーシックな雰囲気がむしろ心地いい。備え付けられているリネンやバスローブ、タオルも肌心地抜群で、思わずローブを購入してしまった(自分史上最高の肌心地)。

翌朝は早起きしてヨガのセッションを受けた。たった1泊2日の滞在でも、なんだか体がいつもより動く実感があった。やはり、根っこがしっかりとある上質なものに触れれば、心も体も素直に喜ぶ。食にしろ、スパにしろ、頭で理解するのではなく良いものは体が自然に反応するのだ。「デイルズフォード・オーガニック」で感じたのは“心地よさ”の大切さとその効果。心地よい食、心地よい衣類、心地よい香り……。ここでの滞在は、そうした“心地よさ”に囲まれて日常を送る大切さを、改めて思い出させてくれる。

【ショップ&レストラン】

デイルズフォード オーガニック (Daylesford Organic)

Daylesford Near, Moreton-in-Marsh GL56 0YG

Tel./+44 1608 692871

www.daylesford.com/

【ホテル】

デイルズフォードファーム コテージ(Daylesford Farm Cottage)

Daylesford Near, Moreton-in-Marsh GL56 0YG

Tel./+44 1608 692871

www.daylesfordstays.com/the-cottages/

宿泊料金/£1600~(定員4名 コテージキッチン付き)※2泊~

Text: Misa Yamaji

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