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コロナ渦を必死に走り抜けた! 日常からあぶり出される社会への問題提起。ブレイディみかこさんのド根性エッセイが発売/新刊『転がる珠玉のように』インタビュー

  • 2024.9.2

社会のことに一番興味がありながら、同時に人間のことも書いていきたい

「濃ゆい、本当に濃密な3年間だったんじゃないのかな」そう語るのは、イギリス在住の作家、ブレイディみかこさん。コロナ禍から始まり、パートナーの病気、親の看取り……さまざまな出来事がふりかかる2021年から24年まで、『婦人公論』にて連載していたエッセイをまとめたのが、新刊『転がる珠玉のように』。紡がれるのはイギリスで起きるリアルな日常、だけでなく。そこを入り口にあぶり出される、政治や社会への問題提起。

「最初は日常のことを書くつもりだったんです。ただどうしても自分自身の関心があるのが、おいしいごはんの作り方よりも『今イギリスはこんなふうになっちゃってるけど、どうなんだろう?』という、政治や社会時評ですよね。やっぱりそれも入れないと書く意味もないし、もしも耳障りのいいやさしい文章だけ書きなさいって言われたら、私はすっぱりやめると思います」

もはや日常と社会の問題は地続きにあり、私たちもとくに考えざるを得なくなった昨今。本書は、それをどう「自分ごと」としてひもづけて考えていくのかのヒントを与えてくれます。とりわけ印象的なのは、インフレの問題。

「イギリスでは2〜3年前から『生活費危機』という言葉がニュースサイトのトップになっていて。家庭の半数が食事の回数を減らしたとか、近所の集まりに行っても、おばあちゃんの知恵袋みたいな節約をみんなやってるとか。多分当時、連載を読んでた人はピンと来なかったかもしれないですけど、今の日本でも物価高は大きな問題ですよね。だから、自分たちも将来もしかしたら起こるかもしれないことに、人々がどう立ち向かって、どうやり過ごして暮らしているのか、知ることができるんじゃないかと思います」

またベストセラー『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』に登場する息子さん(現在は思春期)や、不器用で愛すべきイギリス人パートナーをはじめ、周囲にいる市井の人たちの胸アツなエピソードもたっぷり。

「自分が社会のことに一番興味があると言いながら、実は人間にも興味があって、書いていきたいっていう気持ちもすごくあるんですよね。どっちかに振り切っちゃうと自分が飽きるというか、欲張りなのかもしれない。ただ社会を作ってるのは、ひとりひとりの人間であることを忘れちゃいけない。その両義的なものを書いていきたいと思っています」

新著『転がる珠玉のように』

ブレイディみかこ/¥1,650(中央公論新社)

コロナ禍の実態から、医療システム、介護や保育、物価高など。イギリスで起きる社会問題を、市井の人たちのエピソードから拾い上げたり。またエサをあげていた野良猫が旅から戻るとぱったり来なくなったことを、本気で悲しむイギリス人パートナーのほっこり話だったり。短い一編ごとに示唆と感動が詰まった、珠玉のエッセイ集。

お話を伺ったのは……ブレイディみかこさん

ぶれいでぃ・みかこ/1965 年福岡市生まれ。ライター・コラムニスト。96年から英国ブライトン在住。2019 年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で第73回毎日出版文化賞特別賞など受賞。その他著書に『ワイルドサイドをほっつき歩け―ハマータウンのおっさんたち』『他者の靴を履く―アナーキック・エンパシーのすすめ』など多数。

photograph:Shu Tomioka text:BOOKLUCK

リンネル2024年10月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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