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【白金台】松岡美術館 企画展「レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ」

  • 2024.9.1

20世紀初頭のパリ、芸術の都を彩った美のレガシーが一堂に

松岡美術館で開催中の企画展「レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ」[2024年6月18日(火)~10月13日(日)]を見て来ました。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、パリは、フランスだけでなく世界各地から芸術家が集う芸術の都でした。 多種多様な文化交流が起きたパリは、新しい表現が生まれた美の中心地でした。

本展は同館所蔵の絵画コレクションから、鮮やかでエネルギッシュな色彩表現が特徴のフォーヴィスムを起点として、20世紀初頭の芸術の中心地パリで生まれた美のレガシーが一堂に会する展覧会です

西洋の伝統的規範から印象派、新印象派へ、フォーヴィスムへ

17世紀半ばの王政下にある西洋絵画は、伝統的なアカデミスムの厳格な規範による歴史画や宗教画が主流でした。

18世紀の市民革命、フランス革命と、産業革命以降は、当時台頭してきた富裕な市民層・ブルジョワジーの美意識に応える作品や作家が活躍をはじめます。 近代都市生活と、郊外への鉄道網の発達、チューブ入り油絵具の発明などで、やがて戸外へ出て自然光の中で風景画を描く作家たちが登場します。

彼らは、絵具を混ぜずに原色のまま1つ1つ筆の跡を残して描く筆触分割法で、風景の中の光を色彩で捉えようとしました。 印象派と言われたモネや、初期のルノワール。キュビスムに影響を与えたセザンヌ。点描画の色彩による画面で後のフォーヴィスムに影響を与えた新印象派の作家たち。 西洋絵画の厳格な規範から脱した彼らは、新しい造形表現を探求して行きます。

色彩の可能性、点描画《遊ぶ母と子》

アンリ=エドモン・クロッスの《遊ぶ母と子》。色とりどりの点描が集まり表された母と子の明るい穏やかな風景。 色彩の持つエネルギーの可能性を感じさせる新印象派の作家の1人です。

 

出典:リビング東京Web

アンリ=エドモン・クロッス 《遊ぶ母と子》 1897-98年 油彩・カンヴァス 松岡美術館蔵

1905年のサロン・ドートンヌ、フォーヴィスム、原色の衝撃

19世紀末から20世紀初頭のパリでは、国や地域を超えた多種多様な文化交流が起き、多彩な表現が生まれます。

1905年、サロン・ドートンヌの一室に集められた鮮烈で激しい色彩表現の作品群がその始まりを告げます。

原色を中心とした鮮やかなエネルギーに満ちた色彩表現は、観衆たちに驚きと動揺をもって受け止められたとされ、フォーヴ(野獣)と評された彼らの作品と動向は後にフォーヴィスムと呼ばれました。

ルイ・ヴァルタ《黄色い背景と大きな花瓶》

ポスト印象派の画家・ゴッホをイメージさせる絵具の筆跡と鮮やかで明るい色彩のルイ・ヴァルタの《黄色い背景と大きな花瓶》。

明るい暖色系の原色が持つ色彩のエネルギーは、温かさがあり見る者を元気にさせてくれる感じがします。 フォーヴィスムの激しく鮮やかな色彩表現をよく感じさせる作品です。

 

出典:リビング東京Web

右から、ルイ・ヴァルタ 《黄色い背景と大きな花瓶》 油彩・カンヴァス、《海と岩壁と松》 1906年 油彩・カンヴァス、他、展示風景 松岡美術館蔵

オリエンタリズムへの憧憬、エドゥアール・ヴュイヤール《ウジェーヌ・フレシネ夫人の肖像(習作)》

フォーヴィスムと称された作家たちは、理念を共有し、組織的な運動を展開していたわけではなく、その動向はすぐになくなったそうです。 20世紀以降、作家たちはそれぞれの表現を探求して行きました。

エドゥアール・ヴュイヤールの《ウジェーヌ・フレシネ夫人の肖像(習作)》。

赤いショールの夫人の背景に飛翔する群鶴図屛風。夫人の背後には仏像が描かれています。 あいまいな境界線でモチーフ同士が混ざり合うような画面。お気に入りの東洋美術コレクションに囲まれた夫人の人となりを感じさせます。

エドゥアール・ヴュイヤールは、モーリス・ドニらとともにナビ派の画家の一員でした。 晩年は富裕層からの肖像画の注文を数多く描いているそうで、本作もそうした肖像画の習作です。

 

出典:リビング東京Web

エドゥアール・ヴュイヤール 《ウジェーヌ・フレシネ夫人の肖像(習作)》 1933-34年 泥絵具・紙・油彩・カンヴァス 松岡美術館蔵

エコールド・パリ、異邦人の芸術家たち

ポーランド出身のモイーズ・キスリングは、パリで絵画を学び、やがてフォーヴの画家やキュビスムの影響を受けたとされます。

目の覚めるような赤いドレスに大きな薄い色の瞳の女性。モイーズ・キスリングの《シルヴィー嬢》(左)。

緑の庭園に咲く花々と泉。《グレシー城の庭園》(右)。

庭園の透明な泉の水は、キスリングの描く女性の大きくてどこかうつろな瞳にも似ているような気がします。 心の窓は開いていても目には見えない神秘的な心の世界があるような…そんな印象を受ける作品です。

母国を離れパリに集った芸術家の一群は「エコールド・パリ」と称されたそうです。 異邦人の画家自身の心の目にはパリはどう映っていたのでしょうか。

 

出典:リビング東京Web

モイーズ・キスリング 左から、《シルヴィー嬢》 1927年 油彩・カンヴァス、《グレシー城の庭園》 1949年 油彩・カンヴァス 松岡美術館蔵

二度の世界大戦、パリを離れた芸術家たち

20世紀のパリは、二度の世界大戦を経験するという激動の時代でした。 2つの戦争は、パリに集った芸術家たちにも影響を与え巻き込んで行きます。

第一次世界大戦は、西洋文明を支えた理性の柱に揺らぎを生じさせ、西洋の外にあるもの、東洋美術やアフリカの造形表現への関心が高まったそうです。

モディリアーニ《若い女の胸像(マーサ嬢)》、ユトリロ《モンマルトルのジュノ通り》《モンマルトルのキュスティーヌ通り》

アフリカ彫刻の影響を受けたモディリアーニの《若い女の胸像(マーサ嬢)》(左)。

パリの街並を哀愁をもって描いたユトリロの《モンマルトルのジュノ通り》(中央)と《モンマルトルのキュスティーヌ通り》(左)。

第二次大戦中は、パリを離れた芸術家たちもいました。 2度の戦争を引き起こした文明への信頼の失墜は、第二次大戦後、シュルレアリスムなどの新しい表現が生まれる契機となったそうです。

 

出典:リビング東京Web

モーリス・ユトリロ 《モンマルトルのジュノ通り》 1926年頃 油彩・カンヴァス、《モンマルトルのキュスティーヌ通り》 1938年頃 油彩・カンヴァス 松岡美術館蔵

女流作家の活躍、マリー・ローランサン、シュザンヌ・ヴァラドン

西洋の伝統的なアカデミックの美術教育では、女性が美術を学ぶことは難しかったそうです。

20世紀以降、新しい表現とともに女流作家も自身の表現を探求し作品を制作するようになります。

マリー・ローランサンのパステルカラーのどこか夢見るような淡い色の《帽子をかぶった少女》(中央)。 同じく《若い女》(右)は、はっきりとした意思を感じる眼差し。

自己の存在感を主張するかのようなカラフルな衣装が、薄紅かかった女性の白い肌を美しく際立たせています。

私は、私よ!と前向きで涼し気な心地よい眼差しです。

左は、シュザンヌ・ヴァラドンの《コンピェーニュ近くの古びた製粉所(オワーズ県)》です。

 

出典:リビング東京Web

右から、マリー・ローランサン 《若い女》 1937年 油彩・カンヴァス、《帽子をかぶった少女》 1924年頃 油彩・カンヴァス、シュザンヌ・ヴァラドン 《コンピェーニュ近くの古びた製粉所(オワーズ県)》 1914年10月 油彩・カンヴァス 松岡美術館蔵

同時開催「唐三彩(とうさんさい) ―古代中国のフィギュア―」

中国・唐時代(7世紀~8世紀)にかけて焼成された唐三彩は、緑、褐色、藍色など独特の鮮やかな色彩に彩られた陶器です。 透明な鉛釉を掛けた上に、酸化銅や酸化鉄、酸化コバルトなどを掛け分けた鉛釉陶で、明器(副葬品)として作られたやきものです。

甲冑を付け、厳めしい仏法守護の仁王像のような姿の《三彩神王(さんさいしんのう)》(左)は邪鬼を払うためのものでしょうか。 精悍な張りのある体躯の《三彩馬(さんさいうま)》は、墓の主の愛馬だったのでしょうか、堂々とした姿です。

 

出典:リビング東京Web

左から、《三彩神王》 唐 8世紀、《加彩官人》 唐 7–8世紀、《加彩武人》 唐 8世紀、他、「唐三彩 ―古代中国のフィギュア―」展示風景 松岡美術館蔵

 

出典:リビング東京Web

手前、《三彩馬》 唐 7–8世紀 松岡美術館蔵通年企画「古代エジプトの美術 平穏と幸せへの願い」

ナイル川の恵みとともに発展した古代エジプト文明は、多神教の文明でした。 人々は今世での安寧な暮らしを願い、来世での再生・復活を信じて、様々な神々に祈りを捧げていました。

冥界の神《オシリス》(左から2つ目)。死後の世界と来世の再生と復活を司る神です。オシリス神は、ギリシャ語の読み方で、オフェアリス神と称されることも。

死後の再生・復活が王だけの特権だった古王国時代、やがてエジプト全土にオシリス神の再生と復活の信仰が広まります。 冥界の王オシリス神の前で行われる死後の魂の善悪を判定する最後の審判で、無罪と認められれば、誰もがあの世で永遠の生命を得られるとされました。

この世とあの世を貫いて平穏に幸福に生きたいという人々の願いと信仰を集めた神様です。

 

出典:リビング東京Web

左から、《ホルス》 ブロンズ エジプト末期王国時代第26王朝、《オシリス》 エジプト ブロンズ・金箔 末期王朝時代 紀元前664~332年頃、他、展示風景 松岡美術館蔵

モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ...受け継がれる美、レガシーに出会う

20世紀初頭のパリで、鮮やかな色彩の輝きを放ったフォーヴィスムを起点として、多彩で多様な表現を生み出して来た20世紀の美のレガシーに出会える展覧会です。 会場には、ピカソやシャガール、フジタの作品も並びます。

松岡美術館、企画展「レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ」は10月13日(日)までです。 是非お出かけください。

ミュージアムグッズ

ミュージアムグッズは、唐三彩アクスタ 三彩駱駝(800円)、一筆箋 五彩花龍図瓶(450円)、古代エジプトポストカードセット(500円)を購入。 一筆箋の図柄の五彩花龍図瓶は、松岡美術館入口のガラス扉の模様になっています。

 

出典:リビング東京Web

ミュージアムグッズ 松岡美術館

〇松岡美術館
URL:https://www.matsuoka-museum.jp/
住所:〒108-0071 東京都港区白金台5-12-6
TEL:03-5449-0251
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
第1金曜日のみ10:00~19:00(入館は18:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)、展示替え期間、年末年始
観覧料:一般 1,200円、25歳以下 500円、高校生以下 無料、障がい者手帳をお持ちの方 無料

交通:東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線「白金台駅」1番出口から徒歩7分
JR「目黒駅」東口から徒歩15分
JR「目黒駅」東口バスターミナル2番のりばより黒77・橋86のバスに乗車2つ目の「東大医科研病院西門」にて下車徒歩1分

〇企画展「レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ」
会期:2024年6月18日(火)~10月13日(日)
〇同時開催「唐三彩(とうさんさい) ―古代中国のフィギュア―」
会期:2024年6月18日(火)~10月13日(日)
〇通年企画「古代エジプトの美術 平穏と幸せへの願い」
〇常設展示 古代オリエント美術、古代ギリシャ・ローマ美術、古代ガンダーラ・インド彫刻、ヨーロッパ近代彫刻(ブールデル、ヘンリー・ムア、エミリオ・グレコ)

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