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橋本愛が醸し出す都会感と闇を伴う魅力とは? ラストの展開に戦慄したワケ。ドラマ『新宿野戦病院』第9話考察&評価

  • 2024.8.31
『新宿野線病院』第9話 ©フジテレビ

小池栄子と仲野太賀がW主演のドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)が現在放送中。宮藤官九郎の最新作である本作は、新宿歌舞伎町にたたずむ「聖まごころ病院」を舞台に、様々な”ワケあり”の患者が訪れる。今回は、第9話を多角的な視点で振り返るレビューをお届けする。(文・田中稲)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。

『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ

岡本(濱田岳)と南舞(橋本愛のカップル誕生の瞬間!? ラブホテルのシーンからの、フランス語のナレーションで始まった第9話。今回は、橋本愛演じる南舞のツンデレのふり幅を存分に堪能できる回であった。

岡本が、ラブホテルに置き忘れた舞の「NOT ALONE」の赤いユニフォームを渡した時の「…ありがと」という、一線を超えた人にだけ見せるような含みのある笑顔。そのあとの、突き放すような「もういいよ帰って」の氷の真顔!

観ているこちらも、振り回されたくなってしまうではないか。宮藤官九郎は、橋本愛の魅力を120%活用している!

アメリカから来て、誰にでもオープンマインドに接するヨウコ(小池栄子)と真逆、歌舞伎町に咲く、ミステリアスな裏ヒロイン。自分のバックボーンは細かく話さない。

享(仲野太賀)が「歌舞伎町のジャンヌ・ダルク」と命名していたが、ナイスネーミングだ。彼女が醸し出す都会感と漆黒の闇と迫力を伴う美は、物語を動かす秘密の暗号のようである。

『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ

宮藤官九郎の作品では、朝ドラ『あまちゃん』(NHK総合、2013)でヒロインの親友、ユイを演じたが、彼女が東京に行こうとすると、なにか事件が起き、なかなか故郷から出られない、そんな役だった。

今回も、歌舞伎町から彼女は動けない。そのなかでちょっとシラケつつ役割を見つけ動き、結果、周りにやる気を与えるのである。

うまくいかない状況にもがき苦しみ、それを表に出さず、ふつふつとエネルギーを溜め込む。それが周りに伝染し、変化を起こす――。そんな役をさせると、右に並ぶ者はいない。

ただ、美しいからこそ鼻につく、あのオシャレ映画トーク。第6話で、「少なくとも役者で決めるのはありえない」と言うセリフがあったが、ブラピとディカプリオが出たら、ストーリーを選ばず必ず観る私は、「すいませんね!」とテレビに向かって突っ込んでしまった。

舞&岡本カップルが一番軽蔑するタイプの映画好きだろう。いいじゃないかそれでも!

それに、享が自分を慕っているのを知っているのに、岡本に享の悪口を言うのも気の毒だ。享は自慢話ばかりで話していても面白くないと舞は言うが、かわいいじゃないか。わかりやすいじゃないか。

「だっせーっすわ! ポルシェ、パトカーに負けましたわ!」

今回の享の名言である。JKの前で己の失恋をあけすけに語り、泣きわめくことができる、あの素直さは魅力だ。

『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ

さて、今回の描かれたテーマの一つに「カスハラ」があった。小児科の横山先生(岡部たかし)が、救急車で運ばれてきた腹痛の小学生の男子を診ることになるのだが、母親が泥酔、しかも態度が威嚇的であり、虐待を疑う。

ここからすったもんだがあり、誤審疑いからあわや裁判沙汰…になるのだが、聖まごころ病院スタッフが総出で阻止する。

そのなかで、ヨウコ(小池栄子)が、横山先生も母親も「アンカリング」の状態にあったと説明するシーンがある。出た…!ヨウコ先生の豆知識。

アンカリング効果とは、最初に与えられた情報により、最終的な意思決定が左右される現象のことだそう。アンカリングとは「錨(Anchor、アンカー)を打ち込まれた、船は限られた範囲内でしか動けない」という意味からつけられた言葉だ。

横山先生は、虐待を疑うことで意思決定が揺らぎ、母親(佐津川愛美)は、横山の態度(顔?)に最初から不信感を持っていた。

最悪の第一印象により、ギクシャクしてしまったというわけか…。

『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第9話より ©フジテレビ

さて、私が一番応援しているはずき(平岩紙)さんに、ハッピーな展開が! 三重県在住の医療関係者とマッチングが成功したようだ。

しかも、はずきさんは婿養子ではなく、嫁ぐ方向で考えていた。家を出ようとする彼女に「俺の面倒は誰が見るんだよ!」と狼狽する高峰院長(柄本明)、なかなかえげつない。病院はヨウコに継いでもらうが、身の回りの世話は、慣れているはずきさんにさせるって調子良すぎだろう、爺さん!

短いシーンだっだが、親と同居している私は他人事ではなく、かなり腹が立ってしまった。自由になってはずきさん~! …とか叫びながら観ているうちに、ドラマはまさかの展開、2025年へ。

はずきさんは、半月ごとに三重と歌舞伎町を行き来するという、ナイスな条件で交際が続いていた。他にも、聖まごころ病院の借金の期限は無期延期となり病院は存続、マユ(伊東蒼)は高校を無事卒業し、母親との関係もとりあえず良い方に向かっている。ヨウコは医師免許を所得。

これまで抱えていた問題がどんどん解決していっているが、それを待つようにやってきたのが「コロナとはまったく違う未知のウイルス」――。

ラスト、もう一度、南舞による日本語のナレーションが入るが、「ここは新宿歌舞伎町、健全かつ衛生的な若者の街…ではありません」

否定形である。

「大丈夫だよ、俺たち、コロナも克服したんだから」
「マスク買い占めとか、あの時は大人げなかったよね」
「そうだね、今度は正しく怖がらないと」

ニュースを見る啓三(生瀬勝久)たちの、この不穏なセリフの先にある景色とは。

次回、忘れかけていたコロナ禍のあの騒ぎを思い出し、「あれ以上の脅威が来たら」という絶望的な未来を脳内シミュレーションすることになりそうだ。聖まごころ病院から、私たちはどんな「ロックダウン」を見せられるのだろう。

(文・田中稲)

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