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8月30日公開! 映画『愛に乱暴』主演・江口のりこが「居場所のない孤独な主婦」を演じて思うこと

  • 2024.8.31
芥川賞作家・吉田修一の小説を映画化した『愛に乱暴』。平凡な日常がジワジワと崩れていく様を描いた本作。孤独な主婦を演じた江口のりこさんにインタビュー! ※サムネイル写真:(C)Kaori Saito
芥川賞作家・吉田修一の小説を映画化した『愛に乱暴』。平凡な日常がジワジワと崩れていく様を描いた本作。孤独な主婦を演じた江口のりこさんにインタビュー! ※サムネイル写真:(C)Kaori Saito

映画『愛に乱暴』で江口のりこさんが演じた桃子は、結婚して8年になる主婦。夫(小泉孝太郎)には相手にされず、同じ敷地内に住む姑(風吹ジュン)に対して小さなストレスを感じながらも、ささやかな幸せを一生懸命かみしめて生きている女性。しかしその日常が、夫の不貞から崩れていくのです。

まず映画の脚本についてお話を聞きました。

『愛に乱暴』主演、江口のりこさんにインタビュー

――公式のインタビューで「吉田修一さんの原作小説が面白かった」と語っていますが、脚本は原作の内容をかなり削ぎ落として桃子にフォーカスしていますよね。最初に脚本を読んだとき、どう思いましたか?

江口のりこさん(以下、江口):そうですね。原作にあった描写がかなり削られて、脚本はかなりシンプルになっておりまして……「シンブル過ぎない?」と思うほどだったんです。なので桃子を演じるにあたって、私は原作の面白さをシンプルな脚本の中で見つけて、演じられるだろうかと思いました。

――江口さんの中で、原作を読んで作っていた桃子像は、脚本を読んだあと変わりましたか?

江口:変わることはなかったのですが、演じるキャラクターというのは他者との関わりで見えてくる部分が大きいんです。例えば学生時代の友人とのやりとりなどから見えてくる桃子の姿があります。

でもこの映画の脚本は、そういう他者との関係よりも“桃子の悶々とした思い”という抽象的なものがドンと中心に置かれていたので、芝居をするにも相手がいない状態で演じなければならず、これは難しいと思いました。

結婚生活に不満があっても逃げることはできない

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会
(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会


――桃子は夫の真守に無関心な態度を取られたり、姑とも微妙な関係だったり、頑張っても居場所がない様子はとてもつらいだろうと感じたのですが、江口さんは桃子をどのような人物だと考えましたか?

江口:毎日、手の込んだ料理を作ったり、シャツにアイロンをしっかりかけたり、丁寧な毎日を送ることで自分を保っていると感じていました。

私は自分の暮らしに不満があっても、その不満も含めて日常だと思うんです。日常だから「もうやめた!」と簡単にはいかない、逃れられない。それが桃子の心境に近いのかもしれません。日常はすさまじい力を持っていると思いました。

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会
(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会


――桃子に冷たい真守を演じた小泉孝太郎さんとのお芝居はいかがでしたか? 桃子と真守の間には距離がありますが、撮影現場での江口さんと小泉さんはどうだったのでしょうか?

江口:小泉さんとは撮影合間によく話していました。小泉さんは無邪気な方なんです。ゴルフが好きで好きで仕方がなく、どんどん日焼けしていくんです。これ以上日焼けしたら画がつながらなくなってしまう……と言ってもやっぱりゴルフへ行っちゃう。そういう方でした(笑)。

チェーンソーでモヤモヤした気持ちを吹き飛ばす

――後半、部屋でチェーンソーを手にするシーンはすごくインパクトがありました。桃子はモヤモヤした気持ちをチェーンソーで爆発させていましたが、演者としては、どういう心境でしたか?

江口:チェーンソーのシーンは撮影後半だったんです。撮影の前半は、朝のゴミ出しなど、ひとりのシーンが多く、お姑さん役の風吹ジュンさんとのシーンも一言二言で終わってしまって、寂しさがあったんです。

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会
(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会


でも中盤以降、真守の不倫相手が出てきたり、元上司を訪ねるシーンがあったりしたので、いよいよ物語が動き出すと同時に自分も動き出すという気持ちになっていきました。だから後半のチェーンソーのシーンは楽しくてスッキリしましたね。

ヒューマンサスペンスと聞いてびっくり!

(C)kaori Saito
(C)kaori Saito


――周囲の人が自分に無関心で苦しいのに、必死に平静を保っている桃子の心情が心に刺さるという女性が多いような気がします。江口さんは桃子への共感はありませんでしたか?

江口:この映画の取材をしてくださる女性の記者さんから「桃子の気持ちに共感しすぎて……しんどかったです」という感想をいただくことが結構あり、なんか「すみません」という気持ちです。

私の気持ちとしては共感というか……確かに居場所がどんどん奪われていくわけですから、かわいそうだなと思いました。

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会
(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会


――予告編では“ヒューマンサスペンス”というキャッチコピーなのですが、その面白さはどこにあると思いますか?

江口:撮影しているとき、私はサスペンス映画だと思って演じていませんでした。なので予告編を見て「ヒューマンサスペンスって?」と驚きました。

桃子は、身に起こったことに不安を覚えつつも日記に自分の考えをつづるなど、とても正直に生きている女性だと思うんです。

でも彼女は本音を表に出さないでグッとこらえているので、第三者からは「何を考えているのか分からない」と見えて、それが怖いのではないかと。その怖さがサスペンスにつながるのかもしれません。

(C)Kaori Saito
(C)Kaori Saito


――桃子はだんだん自分の居場所を奪われていきますが、同じ状況になったら江口さんはどうしますか? 桃子のように平静を保って耐えますか?

江口:私は桃子とは正反対で、ここに自分の居場所はないと思ったら、自分から離れていくタイプです。

ただ器用ではないので、すぐに新しい関係性を築けるほどの力はありませんけどね。そもそも私はとても恵まれた環境でお仕事をさせていただいていると思っています。10代の頃からずっと同じ劇団(東京乾電池)と事務所に所属していますから。それはとても幸運なことではないかと思います。

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会
(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会


――共演者とのシーンが増えると楽しさが増していくとおっしゃっていましたが、やはり共演する俳優さんとの芝居のセッションによって、自分の中で役が立ち上がってくるのでしょうか?

江口:そうだと思います。なので他の作品でも、撮影初日はすごく悩みます。まだ共演者とも芝居をこなせていない状態なので、自分と向き合って「この声のトーンで合っているのかな」とかすごく考えます。

「よし、これでいい」という気持ちにはなかなかなれませんね。初日の芝居はとても重要なんです。一度演じたらそれ以降、大きく変えることはできないので。だから毎回、いつも最初は不安です。

映画館のベスポジはいつも“端っこ”

(C)Kaori Saito
(C)Kaori Saito


――All Aboutでは取材した俳優さんに好きな映画や映画館、ベストな席を聞いているのですが、最近、映画館で映画をご覧になりましたか?

江口:Morc阿佐ヶ谷という映画館で『夜明けのすべて』を見ました。ずっと見たかったのですが、ロードショーが終わってしまい「残念だ」と思っていたら、Morc阿佐ヶ谷で上映していたので(※)。小さな映画館ですがとても見やすかったです。

※現在は上映が終了しています

――それはステキな情報ありがとうございます! 江口さんは映画を見るとき、ベストポジション(座席)はありますか?

江口:絶対に“端っこ”です。なぜなら映画が終わったらすぐに劇場から出られるから。終映後の出入り口は混雑するじゃないですか。その混雑している空間が嫌いなので、パッと出て、早く家に帰りたい(笑)。せっかちなのかもしれませんね。

――映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍されていますが、俳優の仕事の面白さはどこにありますか?

江口:自分でもなぜ俳優を続けているのか分かりません。これが面白いという明確なものもないんです。でも他にやりたいことはないし、芝居をやるときはいつも一生懸命やってしまうし……。しんどいことはしんどいんですよ。だから自分でも不思議です。やっぱりいろんな出会いがあるところが魅力なのかな。

――今後の俳優人生はどのように考えていますか?

江口:正直、あっという間に20年経っていた!という感じなので、同じようなスピードで60代に突入するんだろうなと思います。具体的に何をしたいというのもなく、とにかく続けたい。引き続き俳優をやっていきたい。そういう気持ちです。

江口のりこ(えぐち・のりこ)さんのプロフィール

1980年4月28日生まれ。兵庫県出身。

2000年に劇団「東京乾電池」に入団。2002年『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』で映画デビュー。2004年『月とチェリー』で映画初主演。2020年『事故物件 恐い間取り』で、第44回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近作は『あまろっく』『お母さんが一緒』『もしも徳川家康が総理大臣になったら』(いずれも2024年)がある。

『愛に乱暴』2024年8月30日(金)公開

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会
(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024「愛に乱暴」製作委員会


41歳の専業主婦・初瀬桃子は、夫・真守(小泉孝太郎)と結婚して8年。夫の実家の離れに暮らしている。夫は桃子に無関心だが、彼女は料理、インテリアなど好きなものに囲まれ、丁寧な暮らしをすることで自分を保っていた。

しかし、桃子の周辺で不審な火事があったり、かわいがっていた野良猫は現れなくなったり、不安なことが続き、やがてそれは桃子の居場所を奪うことに……。

原作:吉田修一『愛に乱暴』(新潮文庫刊)
監督・脚本:森ガキ侑大
脚本:山崎(※崎はたつさき)佐保子/鈴木史子
出演:江口のりこ、小泉孝太郎、馬場ふみか、水間ロン、青木柚、斉藤陽一郎、梅沢昌代、西本竜樹、堀井新太、岩瀬亮、風吹ジュン

撮影・取材・文:斎藤香

文:斎藤 香(映画ガイド)

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