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アンジェリーナ・ジョリーが受け継ぐ、マリア・カラスのカルティエ愛──「ピースに隠された小さな仕掛けが、彼女を笑顔にしていたんだと思います」

  • 2024.8.30

今年のヴェネチア国際映画祭ですでに多くの注目を集めている作品、パブロ・ラライン監督によるマリア・カラスの伝記映画『Maria(原題)』。そのプレミアの前夜、主演のアンジェリーナ・ジョリーは感慨に耽っていた。「初めてパブロに会ったのはもう何年も前で、映像作家としてどれだけリスペクトしているか、いつか一緒に仕事をしたいと思っていることを伝えたんです」とジョリーはこの一生に一度の大役を引き受けることにした経緯を『VOGUE』に語った。

「マリア役を依頼されて光栄でした。アーティストとして、そして一人の女性として、マリアには強い思い入れがあります。それがあり、彼女のことをうまく演じられるか心配で、これまで引き受けた役で最も難しかったです」

その心配は杞憂に終わった。すでに著しいキャリアを歩んできたジョリーだが、1970年代のパリを舞台に、伝説のギリシャ人ソプラノ歌手マリア・カラスの晩年を描く本作で、彼女はこれまでで最高の演技を披露した。目を縁取る濃いキャットライン、衰えていく声、気性の激しい性格。カラスを象徴するすべてをジョリーは完璧に体現するどころかカラスに完全になりきり、スクリーンでその姿を蘇らせた。しかし、そこに行き着くまでには過酷なトレーニングがあった。

「パブロは私に徹底した役作りを、(彼女のような)歌唱力を求めました。本物の歌を、イタリア語を、オペラを理解し学ぶために6、7カ月間レッスンを受け、完全に没頭して準備をしました。『Maria』をやり遂げるためには、それ以外の方法はなかったのです」。どんなに過酷な道のりであったとしても、それは確かに創造性を刺激する、充実感のあるプロセスだった。「私を信じてくれたパブロには、深く感謝しています」

歌やイタリア語やオペラと並んで、カラスの人生にはもうひとつ重要なものがあった。それはファッションだ。ジョリーはそんな彼女のスタイルをスクリーンで再現することに身を粉にした。

カラスにとって、ファッションは単に毎日着る服ではなく、悪意にさらされることもある世界で自身を守ってくれる鎧だった。結果的にカラスはイタリアのクチュリエのビキ、クリスチャン・ディオールイヴ・サンローランなど、当時の偉大なデザイナーたちの顧客となり、そして今でもデザイナーたちにインスピレーションを与え続けている。例えばアーデムERDEM)は2024-25年秋冬コレクションで、1953年にスカラ座で上演されたカラスの出演作『王女メディア』のセットにインスパイアされたペイントアートのフローラルガウンを発表。ショーでは彼女がギリシャ語で話している、現存する唯一の録音を流した。

カルティエのジュエリーなくしてはなりきれなかった大役

Celebrity Sightings - Day 2 - The 81st Venice International Film Festival

ジョリーは今回、『Maria』のコスチューム・デザイナーのマッシモ・カンティーニ・パリーニと密接に連携しながら劇中の衣装を作り上げた。しかし、カラスを体現するために必要だった最後の仕上げは、カルティエCARTIER)のジュエリーに託された。生涯を通じて、カラスは膨大な数の宝石をコレクションしたが、カルティエのピースほど大切にしているものはなかった。そのひとつが、1971年に作られたブローチで、ホワイトカルセドニーの上に、メゾンのシグネチャーであるエメラルドの瞳をしたゴールドのパンテールが鎮座するデザインだ。

ブローチの実物は現在カルティエ コレクションに所蔵されており、ジョリーは劇中でもヴェネチアで行われた記者会見でも、カラスの形見であるピースを身につけた。「彼女のジュエリーを身につけられることがどれほど特別なことか、言うまでもないです」。記者会見で纏っていたアトリエ・ジョリーATELIER JOLIE)の黒いコラムドレスにも、それはよく合っていた。

映画ではほかにも、ダイヤモンド、エメラルド、サファイア、ルビーがあしらわれた「Rose Ouvrante 1972」のフラワーブローチがジョリーの胸もとを飾っている。花びらを開閉するための特別な機構を備えたピースを、彼女は8月29日(現地時間)に行われた『Maria』のプレミアでも身につけていた。「つぼみが開いて、花が咲く様子を表現したデザインに魅了されました」とジョリーは言う。「ピースに隠されたこの小さな仕掛けが、マリアを笑顔にしていたんだと思いたいです」

"Maria" Red Carpet - The 81st Venice International Film Festival

カルティエにとっても、原点に立ち戻ったような瞬間となった。「あの時代を生きた影響力ある女性の多くと同様に、マリア・カラスは自分の個性を映し出してくれるジュエリーであるという理由から、カルティエを好んで身につけてくれていました」とカルティエのイメージ、スタイル、ヘリテージ部門のディレクター、ピエール・ライネロは言う。続けて彼は、メキシコの大女優マリア・フェリックスが残した言葉を引用した。「カルティエは昔からずっと、高貴なる血筋を引く貴族たちだけでなく、才能あるものの宝石商として知られています」

"Maria" Red Carpet - The 81st Venice International Film Festival

パラッツォ・デル・シネマでのプレミアには、タマラ・ラルフ(TAMARA RALPH)によるシフォンガウンとフェイクファーのストール姿で登場したジョリー。現地で着用しているほかのルックと同様、それは予め宣言していた通り、世間がイメージする“マリア・カラスらしい”スタイルとは異なる。

「マリアが纏ったルックはマリアだけのものなので、真似しないことにしたんです。ヴェネチアのレッドカーペットで披露したルックは本当に素敵でしたし。ですから、違う形で彼女に敬意を表すことにしました」とジョリーは話す。「でも、彼女へのオマージュとして、しとやかなものを着るようにはしました」と付け加えた。

81th Mostra del Cinema di Venezia 2024

2年近く取り組んできたプロジェクトがようやく日の目を見た今。ジョリーはどういった心持ちなのか。そして、本作を通して伝えたいこととは。「この映画によって、人々のマリアに対する理解と尊敬の念を深められるといいです」。ジョリーの演技を見る限り、この作品はそれ以上のことをやってのけるだろう。

Text: Liam Hess Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.COM

アンジェリーナ・ジョリー ヴェネチア国際映画祭
アンジェリーナ・ジョリールック/タマラ・ラルフ(TAMARA RALPH)
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