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ハルノブムラタの2025年春夏ショー、彫刻家ブランクーシを着想源に美の永続性を見出して

  • 2024.8.30

9月2日にスタートするRakuten Fashion Week TOKYOに先駆け、8月27日夜、ハルノブムラタHARUNOBUMURATA)が2025年春夏のショーを行った。会場となった国立新美術館のスケジュールの都合によりファッション・ウィークに参加しなかったというが、そこまでして美術館にこだわったのは、いつものように席に置いてあったリリースに記載されていたように、今季コンスタンティン・ブランクーシの思想と美学が着想源となったから。デザイナーの村田晴信は、どうやら今年の3月から7月まで開催されていた、アフリカ彫刻の要素を取り入れた独自のスタイルで有名な彫刻家の日本初の本格的な個展を観たようだ。ショーの終了後、「彫刻が展示室から出てきてそのまま歩いているような感じになったらすごく素敵だなと思った」と語った。

確かに、ドレープを描く一連のロングドレスは、彫刻を思わせるシルエットだった。

彫刻に惹かれたのは、それが「物事の本質を捉える」アプローチであると思ったから。そこで、「石を削り出して人物像を作るように、例えば歩いた時に人の身体が自然と象られるようなフォルム」を目指した。無地が大半を占めたが、白いリネンの上に白いプリントをして石膏をイメージしたドレスもある。

ジャケットの裾や首もとにあしらわれていた白いプリーツも、「彫刻的な雰囲気」を狙っている。

彫刻に魅了された理由はもう一つある。それは、「造形の中に時間を閉じ込めていて、美の永続性があるような気がする」こと。

「ブランドとしてすごく大事にしているのは、例えばポケットに手を入れたり、横をすれ違ったり、ドレスが風になびいたり、といった一瞬に感じられる美しさです。それを永遠に閉じ込めたい、という思いに最近は一層執着している気がします」

柔らかな布の流れをドレープとして固定する、ということや、無地のルックが続く中で一際目を引いたグラデーションのアイテムもそれに関連する。金糸を織り込んだ西陣織「引箔」で名高い西村商店の工房の協力を得て、銀が硫化して変色する性質を利用した「焼箔」の技術を用いているが、それは「雨にさらされて色が変化していく彫刻のように、時間の流れをドレスの中に閉じ込めることができないか」と考えたから。

単純なユニットを連ねたラッフルのドレスは、「永続性」を表していたようだ。

また、ランウェイの中央にはグランドピアノが置いてあり、先シーズンも音楽を手がけたフランスを拠点とする現代音楽家、キリル・リヒターが生演奏を披露したが、彼にも「時間を閉じ込める」ことについて相談したという。

「彼も時間の流れみたいなものを音楽で表現するということにすごく興味がある人なんです。“ショーの短い時間の中に、それ以上の時間を感じられるようになったらすごく素敵だと思う”と伝えて、対話を重ねながら曲を作り上げてもらいました」

こうして村田の話を聞くと、コレクションとストーリーの整合性になるほどと納得させられる。しかし、会場に駆けつけたセレブリティをはじめ、ブランド設立5年目にして獲得した多くのファンたちを除けば、背景にあるストーリーにまで目を通す観客は少ない。まずはプロダクトで魅了する必要があるだろう。明確なコンセプトも武器にしながら、たとえば今回のように日本の伝統技術を用いるなど、より独自性を打ち出してさらに存在感を示していってほしい。

Photos: Courtesy of Brand Text: Itoi Kuriyama

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