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俳優陣が続編に意欲…!「ふてほど」流行語大賞のいま、改めて見たい宮藤官九郎“22年前の名作”

  • 2024.12.4
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(C)SANKEI

クドカンこと宮藤官九郎は、日本のテレビドラマきっての個性派脚本家としての地位を確立し、熱狂的なファンも多い。NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』、2024年の流行語大賞にもえらばれた「ふてほど」こと『不適切にもほどがある!』など、数多くの代表作を持つそんなクドカンだが、その名前と作家性を世間に知らしめた作品といえば、やはり2002年の『木更津キャッツアイ』だ。

90年代からテレビドラマの脚本家としてのキャリアをスタートしていたクドカンは、2000年の『池袋ウエストゲートパーク』でブレイクを果たす。だが、この作品は小説が原作であり、演出の堤幸彦のセンスも大きかった。クドカンがどんな作家なのか、はっきりとそのセンスが示されたのは、やはり『木更津キャッツアイ』だろう。

本作は、これまでのどのドラマとも違っていた。無軌道でハチャメチャ、サブカルチャーネタもたくさん飛び交いつつ、現代社会を見抜く鋭い眼差しがあり、当時の若者の心を熱狂的に捉えたのだ。

東京から近くて遠い木更津という舞台

木更津の高校で野球部員だったぶっさん(岡田准一)、バンビ(櫻井翔)、うっちー(岡田義徳)、マスター(佐藤隆太)、アニ(塚本高史)の5人。高校時代はそれなりに強豪で甲子園県予選もいいところまでいったが、ぶっさんのミスのせい(実際には監督のサインミスだが監督は認めていない)で甲子園を逃した苦い過去を持っていた。それ以来、うだつが上がらない彼らは将来の夢も目標もなく、ダラダラした毎日を過ごしていた。

そんなある日、ぶっさんがガンで余命半年と告げられる。それでも毎日を地元の仲間と楽しく過ごそうとするぶっさんは、5人で怪盗団「木更津キャッツアイ」を結成。何かを盗み出しては、ちょっと世のため人のためになるようなことにお金を使うという毎日を過ごすようになる。

本作の舞台はタイトル通り、千葉県の木更津市。東京から遠いわけではないが、地理的に近いわけでもない、微妙な距離感のある場所が設定されていることに大きな意味がある。彼らは東京に行こうと思えばいつでも行ける、しかし、その一歩を踏み出すことができず地元で悶々としているのだ。上京することが一念発起というわけでもないような距離感なので、なんとなく地元に居続けてしまう、でも、地元の狭い人間関係にもうんざりしている。そんなどこにもいけない鬱屈した感情を、ハチャメチャなギャグを織り込んで描く作品だ。

将来の展望を特に持たない若者たちが描かれるのが本作の特徴だ。本作以前の従来の青春ドラマなら、夢に向けて頑張る若者が描かれただろう、しかし、平成の不況期に突入していた当時の日本は、いわゆる就職氷河期の真っ只中で、東京に出ても豊かな暮らしが保証されたわけではなかった。このドラマで描かれた、地元から出ようとしない若者たちの姿は、「どうせどこに行っても同じだ」という当時の世間の感覚とリンクしていた。このドラマは、当時の若者のそんな気持ちを掬い上げたから共感を呼んだのだ。

しかし、いつまでもダラダラしているわけにはいかない、ぶっさんは余命半年で、人生の終わりが示されてしまっている。終わりがある人生をどう生きるべきかを問いかける構成となっていて、そんな焦燥感のようなものもまた、当時の若者にはリアルに感じられた。

そんな本作は熱狂的なファンを生み出した。放送時の視聴率はそれほど高くなかったが、DVDが大きなセールスを記録し、2本の劇場版も制作された。現実にも影響を与え、作中に登場する木更津名物「やっさいもっさい踊り」が全国的な知名度を獲得し、毎年8月14日には全国からファンが集まることもあったという。

岡田准一に櫻井翔…豪華キャストの共演も見どころ

物語は5人の怪盗団が、何かを盗み出したり、草野球に興じたり、事件に巻き込まれたりするのを野球になぞられて「表」と「裏」の構成で描いていく。「表」で進行していた事件の「裏」には、誰かが偶然起こしていた行動があり、最後にその2つの流れが合わさってゆく。その中で、5人の男たちの濃い友情が描かれていく。この友情を体現する役者たちの貢献も見逃せない。

岡田准一演じるぶっさんは、櫻井翔演じるバンビと高校時代からの因縁があった。バンビだけは5人の中で唯一都内の大学に通っている。旧ジャニーズ事務所でそれぞれ別のグループである2人の共演作としても本作は貴重で、特に岡田准一の荒々しい魅力が素晴らしく、本作を支えている。対する櫻井翔は5人の中で唯一の大学生という役どころでややスマートな印象のキャラクターを演じて、作品にアクセントを加えている。

マスター役の佐藤隆太は、5人の中で唯一の既婚者だ。地元の先輩と結婚し「野球狂の詩」という飲食店を経営しており、5人のたまり場となっている。佐藤の実直な存在感と絶妙に地元にいそうな感じが本作にリアリティを支えていたと言えるだろう。アニ役の塚本高史は、優秀な弟と比較されて劣等感を抱える存在だ。トラブルメーカーでもあって勢いばかりで失敗することが多いがどこか憎めない。岡田義徳が演じるうっちーは、心の障害を持っているような言動があるが、誰よりも仲間想いだ。ぶっさんが薬の時間になるといつも教えてくれる。非常に難しい役どころだと思われるが、岡田義徳が巧みな演じ方で憎めないキャラクターとして確立している。

脇を固めるキャストも阿部サダヲ、古田新太、山口智充、妻夫木聡、酒井若菜、薬師丸ひろ子などがコミカルな芝居を披露する。どのキャラクターも癖の強い連中ばかりで、クドカンの世界観を支えている。今、見返してみると、『虎に翼』で梅子役を演じていた平岩紙がデートクラブの従業員ミー子役で出演しているのも感慨深い。

主要キャストにとって『木更津キャッツアイ』は忘れがたい作品のようで、バラエティ番組などで出演者が共演した際にはこの作品の話題になることが度々ある。今年に入っても、フジテレビ系『ぽかぽか』の5月放送回で、佐藤、塚本、岡田義徳が「また(木更津キャッツアイ)をやりたい」と語っている。

現代では不適切とも思える描写もあるが、それも含めて時代の空気を捉えた作品と言える。サブカルチャーネタを全編にちりばめ、オフビートでテンション高いコミカル描写を前面に押し出しつつも、社会の空気を的確に描く。リアルな描写ではないのに現実社会と絶妙にリンクする、クドカンの独特のセンスを世に知らしめた一本だ。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi