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中島健人が名言連発…独特なセリフ回しの裏にある説得力とは?ドラマ『しょせん他人事ですから 』第5話レビュー

  • 2024.8.30
©「しょせん他人事ですから」製作委員会

中島健人主演のドラマ8『しょせん他人事ですから 〜とある弁護士の本音の仕事〜』(テレビ東京系)が放送中。本作は、原作・左藤真通、作画・富士屋カツヒトによる同名コミックを原作とした新時代のリーガルドラマ。今回は、第5話のレビューをお届けする。(文・柚月裕実)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:柚月裕実】
エンタメ分野の編集/ライター。音楽メディア、エンタメ誌等で執筆中。コラムやレビュー、インタビュー取材をメインにライターと編集を行ったり来たり。SMAPをきっかけにアイドルを応援すること四半世紀超。コンサートをはじめ舞台、ドラマ、映画、バラエティ、ラジオ、YouTube…365日ウォッチしています。

『しょせん他人事ですから』第5話©「しょせん他人事ですから」製作委員会
『しょせん他人事ですから』第5話©「しょせん他人事ですから」製作委員会

【写真】中島健人が放つ圧倒的存在感…思わず引き込まれる劇中カット。ドラマ『しょせん他人事ですから』劇中カット一覧

今回の依頼者は、酔った勢いで同僚にケガを負わせてしまい逮捕され、それから10年間デジタルタトゥーに悩んでいるドーナツ店・店長の黒川大樹(浅利陽介)だ。

黒川は10年前、飲みの席で口論になった会社の同僚・鏑木香織(入山法子)を突き飛ばしてケガを負わせてしまった。傷害事件として執行猶予付きの判決が下され、会社は退職。ニュースになったことで噂が広がり、家族からも見放され、ネットでは誹謗中傷の投稿が相次いだ。

就職が困難などの支障はあったものの、それでも現在はドーナツ店を開き、妻・黒川知代(佐津川愛美)と娘がいる。しかし、黒川は「この先娘が自分の名前を検索したら…」と将来を案じて、ネット上の記事を消せないかと相談にやってきた。ところが保田は「無理というか難しいので止めましょう」とバッサリ、そしてドーナツをパクリ…。相変わらずの保田ペースだ。

ネットの海に無数に放たれた該当記事。表現の自由など、法律との戦いでもある。保田は一通り説明したものの、それでも黒川は戦うと覚悟を決め、保田もすんなりと依頼を受け入れた。第1話からどんな相談であろうと、まずは依頼者に決心や覚悟があるかどうかを見極めてきた保田。腹を括った依頼者の味方なのだ。

一部のサイトが記事の削除に応じるなど順調に思えたが、今度は鏑木が事件を起こしてしまい、実名報道によって黒川の過去の事件も掘り起こされてしまう。一度でもネットに出た情報はそう簡単には回収できないのだと、その恐ろしさを思い知らされる。保田がところどころで話していた「前科は消せないからね~」の言葉がどんどん重みを増していく。

『しょせん他人事ですから』第5話©「しょせん他人事ですから」製作委員会
『しょせん他人事ですから』第5話©「しょせん他人事ですから」製作委員会

そんな中、情報番組にコメンテーターとして出演した保田。初のメディア出演にも関わらず、普段と変わらないテンションで、“保田節”を発揮。テーマはデジタルタトゥーについて。実名報道の基準についてコメントを求められると、オレンジジュースをストローで吸う保田。「出た、マイペース!」そんなツッコミを入れたくなったものの、ここから保田が本領発揮。

「それはよくわかりません。罪状が重い場合や一定の社会地位がある人は実名報道されやすい傾向があります。けど、警察官が逮捕されても実名報道されないことが多いようです」かなりの角度から斬り込んだが、これも忖度せずに傾向を述べたまで。この絶妙な塩梅が保田らしい。

また、「知る権利」について意見を求められると、「それは…その通りですね。ただ、本人がいくら謝って反省して心を入れ替えようとしても、ネットでは関係ない人たちから叩かれる。事情をろくに知ろうともしないで、顔も知らない人間が謝れ、謝れと頭を踏みつけてくる感じ?とでもいいましょうか」と例えを独特の抑揚をつけながら語り、最後に「僕からしたらうるさい、やめろ、だるいーって感じですけどね」と飾らない個人の意見を添えた。

法律や状況などの情報を淡々と語り、最後に人間らしい感想を添える。「こうした知識に基づいて線引きができるコメンテーターの意見ならば聞きたい!」と思ったのと同時に、はっきりと忖度のない意見を述べるのは難しいとも思わされる一幕だ。誰だって見知らぬ人から叩かれるのは怖い…。だから当たり障りのない意見だったり、正論を言ってしまったりもする。

『しょせん他人事ですから』第5話©「しょせん他人事ですから」製作委員会
『しょせん他人事ですから』第5話©「しょせん他人事ですから」製作委員会

後に、黒川と鏑木が久しぶりの対面を果たし、謝るのは難しいと語っていたが、誰しも言葉や文字で伝えることはできるはずなのに、必要な人と向き合い、正直な気持ちを伝えるのはなぜだか難しい。匿名で他人についてあれこれ言うのは驚くほど簡単にできてしまうのに…。

画面の中の保田は「人が不幸なのって楽しいでしょ」「要するに人の不幸は蜜の味」と、誹謗中傷の根源はしょせん他人事だと語り、一貫している。そしてカメラに向かって「誰でも心当たりはあるはずです」と語り掛けた。保田らしい口調で語る中でもこの言葉にハッとさせられた。

黒川にかけた言葉も刺さるものがあった。「自分に非があったとしてもデマや誹謗中傷に怒る権利はあります。償い、反省したなら前を向く権利だってある」。

現実でもこうした気づきを与えてもらえる機会は思いのほか少ない。保田は知識武装ではなく、フラットなスタンスでありながら自分や相手のことを考え、物事の本質を見極める。“他人事”と謳い、一見冷徹にも見えるが、彼の言葉には妙な説得力がある。

そして思いやりもある。放送を通じて黒川をはじめ、多くの人にメッセージを発信した保田。コメンテーターの役割を立派に果たした。もちろん相談できる相手=弁護士としても。

誹謗中傷をする人も、その被害を受けた人も、目線や心の持ち方が変わるような、保田の名言がたくさん飛び出した第5話。インパクトのあるキャラクターを演じ、独特なセリフ回しでも、説得力を持たせられる中島の演技にも唸った回だった。

(文・柚月裕実)

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