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「イム・シワンは素晴らしい演技で応えてくれた」実話ベースの映画『ボストン1947』カン・ ジェギュ監督インタビュー

  • 2024.8.30
カン・ジェギュ監督
© 2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CONTENT ZIO Inc. & B.A. ENTERTAINMENT & BIG PICTURE All Rights Reserved

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―――キャスト陣が素晴らしかったのですが、とりわけソ・ユンボク役のイム・シワンさんに魅了されました。監督がイム・シワンという俳優に抱いていた印象と、初めて現場を共にされてどのような俳優だと思われたのか、教えてください。

「シワンさんは以前『ミセン-未生』(2014)というドラマに出ています。また、映画『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』(2017)でも存在感を発揮しています。それぞれの作品を観た時に、最も輝いていると思ったのがシワンさんでした。『凄く良い若者が出てきた』と思ったのです。そして機会があればぜひ一緒に映画を撮ってみたいなと。

今回のシナリオを受け取って読んだ時に、ユンボクという人物の身体的な条件がシワンさんとすごくマッチするなと思い、ピッタリの配役だと思いました。結果的に、シワンさんに出ていただけて本当に良かったと思っています。

私は監督ですので、モニターを通して彼の演技を見るわけですが、本当に鳥肌が立つことが何度もありました。私が望んでいた演技を、彼は適切に演じて見せてくれました。本当に大満足です」

―――序盤にコースを間違えたことが仇となり、試合で芳しい結果を残せなかったユンボクが、罰としてグランドを何周も走らされるシーンがあります。ユンボクの体が鉛のように重くなっていく過程がとてもリアルでした。このシーンはどのように演出されましたか?

「おっしゃったシーンは、ユンボクとその師匠であるソン・ギジョン先生との対立がピークを迎える場面です。最初は小さな対立だったのが次第に大きくなっていき、このシーンでついにユンボクが『もう自分は走りません。マラソン辞めます』と宣言する。2人の関係性においてとても重要なシーンです。

どうすれば2人の感情をうまく表現できるのか考えました。昼間にハーフマラソンをやった後に、罰としてグラウンドを100周走る。本当に極限状態で、体は苦痛で悲鳴を上げる。そして力もどんどん抜けていく。ユンボクを演じたシワンさんにはそれを上手く表現しなくてはいけないと伝えました。そしてシワンさんは、素晴らしい演技で応えてくれました」

© 2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CONTENT ZIO Inc. & B.A. ENTERTAINMENT & BIG PICTURE All Rights Reserved

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―――今回の作品は、監督の代表作である『シュリ』や『ブラザーフッド』とは題材が異なることもあってか、画面構成にも違いが見られます。短くテンポのいいカット割りではなく、長い持続で芝居を見つめようとする意識が見られたのですが、いかがでしょうか?

「以前作った作品、例えば『シュリ』とか『ブラザーフット』の場合、アクションや戦争を描く作品だったので、観客があたかもその場にいるような感覚、臨場感や躍動性が求められます。それもあって、カメラを被写体に接近させて撮る、わざと荒々しくカメラを振動させて撮るといった撮影方法を採用しました。

一方で本作では、手持ち撮影をほぼ使っていません。本作では、実際にマラソンを走っている選手の表情の細かい部分、ディテールを逃さずしっかり画面に収めることが重要だったからです。今回は、カメラを安定的なポジションに据えて、しっかり演者の表情を捉えることに集中しました」

―――本作は見応えのあるスポーツ映画に仕上がっていますが、それと同時に、韓国の歴史を学ぶ上でも非常に有意義な作品だと思いました。個人的に、カン・ジェギュ監督の作品を見るたびに、社会性とエンターテイメント性のバランスが絶妙に保たれていると感じます。両者を両立させる上でどのようなことを意識をされていますか?

「バランスが取れているとおっしゃっていただきましたが、私自身、作品を企画する、シナリオを書く、現場で演出をする…と映画監督としてのあらゆる局面で重要視していることがまさにその均衡、バランスを取るということなんですね。

例えば、戦争映画の場合は、激しい戦闘シーン、存在している人間の内面、そして、登場人物を取り巻く政治的な状況、と描くべき要素は多岐にわたります。様々な要素の中のどれか1つに作品の焦点が偏ってしまうことを私は警戒をしているんです。

ポリティカルコレクトネス。全てのトピックに対して冷静かつ客観的な視線をキープする。それは、演出をする者が必ず意識しなくてはいけないことだと思っています」

―――本作はロンドンの映画祭で好評を博したとのことですね。それは本作の物語が普遍的な魅力を持っているからだと思います。自国に根ざして普遍的な映画を撮る上で意識されていることはありますか?

「私が映画づくりにおいて常に大事にしているのは本質を考えるということです。本作を見る人々は、“この映画の本質は何なのか”、“本当に伝えたいことは何なのか”を考えるはずです。

加えて、先ほど申し上げた、作品の均衡を取るということ。それらを念頭に置いて作品を作れば、どの国のどの時代の観客にも通じる普遍的な作品になるのではないか。私はそれを信じて映画づくりをしています」

(取材・文:山田剛志)

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