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映画『愛に乱暴』森ガキ侑大監督インタビュー!「世界中に僕の映画のファンがいることが本当にうれしい」

  • 2024.8.29

映画『愛に乱暴』でメガホンを取った森ガキ侑大監督にインタビュー。主人公・桃子に江口のりこさんを起用した理由や、ロケ地探しの秘話などをおうかがいしました。

( Index )

  1. 映画『愛に乱暴』とは?
  2. 社会に取り残されながらも懸命に生きる“桃子”という存在
  3. 江口さんと作り上げた桃子はひょうひょうとしていて、強くてユーモラス
  4. チェコでイギリスの学生から突然抱きしめられた!

原作は『悪人』や『怒り』、『湖の女たち』など、数多くのベストセラー作品が映画化されてきた吉田修一の同名小説。夫の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす桃子は、「丁寧な暮らし」に勤しみ毎日を充実させていました。しかし、その周辺で不穏なことが起こり始め、彼女はいつしか追い詰められていき……。愛がはらむ、いびつな衝動と暴走がリアルに描かれたヒューマンサスペンス。また、この作品は、世界12大国際映画祭に数えられる『カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭』のコンペティション部門に選出されました。

社会に取り残されながらも懸命に生きる“桃子”という存在

原作を読まれたときに「今、映画化する意味がある」と強く感じられたそうですが、なぜでしょうか?

今の日本経済は生産性ばかりを求めていて、余白がなくなってきているなと感じていたんです。資本主義なので効率化を求めるのも大事だけど、余白がなくなると、皆が自分の居場所がわかりにくくなったり、心に余裕がなくなってしまう。

そんな中で、主人公の桃子のように世の中のすみに追いやられて孤立している人がいる気がするんです。生産性ばかりに走る社会ってどうなんだろう? 大丈夫かな? そういうことを考えるきっかけになればいいなと思ったのが始まりです。

静かに狂っていく桃子がリアリティに溢れていて、誰もが一つ間違えれば、桃子のようになるかもしれない、と感じました。

不倫や夫婦を描いた物語なんですけど、それはディテールのひとつなんです。その奥底にある、社会的テーマって何なんだろう? というのがさっきお話したことで、もっとフォーカスしていくと、タイトルである『愛に乱暴』という、行き過ぎた愛の中には乱暴さがあるという、すなわちあらゆる事物は表裏一体なんだということに気づかされて、僕自身もハッとしました。

物語の舞台になる一家の住まい(2階建ての母屋と平屋のはなれ)を探すのに苦労されたのでは?

ロケ地が神奈川県綾瀬市に決まったとき、僕が「こういう条件の家がいいです」と提案しました。それが「L字型の敷地で、母屋とはなれがあること。それに、はなれの床下に入りたいから、床下に穴が掘れる家がいいです」という条件で……。

すごく限定的ですね!

スタッフ全員「そんなの、あるわけないでしょ」ってポカーンとしていました(笑)。正直僕も「さすがに見つからないかな」と思っていたので、その場合、家全体のセットを建てる予算はないし、床下のセットだけでも作って、そこで撮影することになるだろうと思っていたんです。それが、条件がすべてぴったり合う家が見つかったんですよ。

空き家だったんですか?

いえ、取り壊し予定の家で、年配のご夫婦が住んでおられました。だから、生活感がすごい染み込んでいて。はなれの平屋は少し変えましたが、ほとんどそのまま使用させていただきました。とくに畳や台所には、人の生活の匂いみたいなものがまだ残っていて、もともとそこにある感じが出せたと思います。

江口さんと作り上げた桃子はひょうひょうとしていて、強くてユーモラス

主人公・桃子のキャラクターを、どのように作り上げていかれたのですか?

小説もそうなんですが、作品自体はシリアスになりがちですけど、ちょっと笑えるユーモラスな場面もあって、その両方を表現できる演者は江口のりこさんしかいないと思いました。桃子の設定は、僕がバーッと設定を書くんですけど、桃子を演じるうえで、江口さん自身が桃子っていう人を肉体的に作っていくわけで、そうすると江口さん的にも「桃子なら、やっぱりこうだよね」っていうのが出てくるんですよ。それで、2人で話して答え合わせしながら作っていった感じです。

原作にはないラストシーンも、江口さんと話しながら?

「最後は希望の光がある感じで終わりたいですね」という話はしました。撮影中に、ロケ地がある街で盆踊りがあったので、浴衣姿の江口さんが盆踊りの輪の中に入っていく……という台本を書いていたんです。でも諸事情から別案を考えることになってしまって、「どうしよう?」と考えているとき、江口さんから「監督が思っているほど女性は綺麗なもんじゃないですよ。もっとしたたかだから」と言われて、「なるほど、そういう感じか」と。それで、ああいうラストシーンになりました。いろんな事情を抱えているけどひょうひょうとしていて、たしかに強さも感じさせるし、なんかユーモラスでもある。江口さんだからこそ表現できる桃子になりました。

チェコでイギリスの学生から突然抱きしめられた!

関西にはよく来られるんですか?

双子の弟が大阪の企業に務めていたので、おいしい店なんかはよく教えてもらいました。過去に、関西のテーマパークのCMや広告を作ったりもしていたので、結構頻繁に来てますね。通天閣にアメリカ村、有名な場所はだいたい行ったんじゃないかな。串カツ店で「二度付け禁止」と書かれた張り紙を見て「本当に書いてあるんだ!」と思いました(笑)。

ところで、「anna」の由来は「あんなぁ」という関西弁から来ているんですが、最近誰かに「あんなぁ」って話したくなった出来事を教えてください。

チェコで開催された『カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭』に行ったとき、イギリスの映画学校の学生が「グッバイ、グランパ!」って言いながら僕に急に抱きついてきたんです。あまりにも突然だったので、一瞬「刺された!?」と思ったんですけど(笑)、その子が「あなたのファンだ」と言うんです。僕の映画デビュー作が『おじいちゃん、死んじゃったって。』なんですけど、海外では『Goodbye, Grandpa!』というタイトルだったんです。それに気づいて、すごくうれしくなっちゃって。

映画のタイトルを叫んでいたんですね。

そうなんです。だから、「『愛と乱暴』っていう新作があるから観てほしい」って伝えたら、「映画学校の同級生の友だちはもう皆観た」と。『カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭』には全世界から映画学校の生徒たちが来ていて、映画の勉強をしているそうなんです。それで、先に『愛と乱暴』を観た彼の友人たちが、すごくよかったって褒めてたから「僕も絶対に観るよ」と言ってくれました。

森ガキ監督作品のファンが世界中にいるんですね。

一つひとつ丁寧に作ったいい作品は、世界に広がっていくんだ、僕の映画を見てくれる人が世界中にいるんだと実感して、本当にうれしかったです。

今の社会に問いかけるような作品を撮ろうと思ったきっかけや、リアリティを追求した撮影現場、主演の江口のりこさんとのエピソードなど、撮影秘話を気さくに話してくださった森ガキ監督。

写真/YukiNakamura 文/中野純子

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