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生方脚本ドラマがSNSでバズり続けるワケ。今後の展開で最も気になるのは? ドラマ『海のはじまり』考察レビュー

  • 2024.8.29
©フジテレビ

目黒蓮主演の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)は、名作『silent』の制作チームが再集結し、“親子の愛”をテーマにした完全オリジナル作品だ。今回は、特別編を踏まえたこれまでの物語と今後の展開について考察レビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:菜本かな】
メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。

『海のはじまり』第7話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第7話より ©フジテレビ

今後の『海のはじまり』(フジテレビ系)において、最も気になるのが弥生(有村架純)の選択だ。SNSなどのコメントを見ても、感情移入している視聴者がいちばん多いのが、弥生だと思う。筆者も、弥生目線で物語を捉えているため、夏(目黒蓮)が自分本位に見えたり、水季(古川琴音)をちょっぴり敵視してしまったりする。

弥生のように、結婚を考えていた彼氏に娘がいたことが分かったら…。想像しただけで、胸がギュッと締め付けられる。もしも、その事実を隠されていたのだとしたら、責めることも、別れることも、嫌いになることだってできるだろう。

しかし、当の本人も娘の存在を知らなかったわけだから、嫌いになることはできない。嫌いになれないから、別れることもできない。そして、基春(田中哲治)の言葉を借りるなら、夏も相談なく内緒で子どもを生まれた“被害者”だ。責めるのもなんかおかしいから、平気なふりをして励ますことしかできない。

正直、弥生の心の葛藤に夏がもっと寄り添うべきだと思う瞬間もある。おそらく、夏は察するのが苦手だから「大丈夫だよ」と言われたら、本当に大丈夫なんだと解釈してしまうのだろう。だからこそ、明らかに“何か”を隠していそうなタイミングで別れを切り出した水季の心情も、深読みすることをしなかった。今さら言っても仕方がないのは分かっているが、もしもあのとき、夏が水季に直接会いに行っていたら。ちがう未来があったのではないだろうか…と、どうしても考えてしまう。

『海のはじまり』第7話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第7話より ©フジテレビ

また、弥生は海(泉谷星奈)のお母さんになりたいと言っているのに、認知することを相談なく勝手に決めてしまい、事後報告。夏が「また、ゆっくり話そう。俺たちがどうするかは」と言ったときは、「いやいや、先に話すべきだろ! ゆっくりではなく、早急に!」とさすがに心のなかでツッコミを入れてしまった。

ただ、夏がすべて悪いわけではない。いくら別れて月日が経っているとはいえ、青春時代をともに過ごした元カノ・水季が亡くなったことは、夏の心のなかで大きな傷となっているはずだ。さらに知らない間に、6歳の娘がいたことが分かったら。頭のなかがパンクしてしまうのも無理はないし、自分のことしか考えられなくなる気持ちも分かる。その上、弥生の心のケアまでしてやれという方が、酷なのかもしれない。

弥生は、一度やると決めたことは、やり通すタイプに見える。夏の発言で心が傷ついたとしても、海がうれしそうに水季のことを話すたび、胸が締め付けられたとしても。全然気にしていないふりをして、笑顔を作れてしまうのが弥生なのだ。わがままを言わない…というより、弥生は“我慢できてしまう人”なのだと思う。

『海のはじまり』第4話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第4話より ©フジテレビ

『海のはじまり』特別編で、水季が吐露した「2人きりになりたいなぁ、子ども邪魔だなぁ、この子じゃなくてこの人との子どもほしいなぁってなっちゃうの、怖いんですよ」という本音は、いまの弥生の葛藤に通ずる部分があると思う。

海のお母さんになることを決めても、夏と別れる道を選んだとしても、どちらにせよ辛い感情は残ってしまう。でも、“どちらを選択しても、それはあなたの幸せのため”だから。幸せに続いていると思える方を選択してほしい。

登場人物それぞれ、誰の視点に立つかで“善悪”が変わってくるのが、脚本家・生方美久のマジックだ。たとえば、『silent』(フジテレビ系、2022)で、想(目黒蓮)に恋心を寄せていた奈々(夏帆)が、紬(川口春奈)に手話でひどい言葉を浴びせたとき。

紬の視点に立っている人は、「奈々、言い過ぎ」と言っていて、奈々の視点に立っている人は、「そりゃ、そうなるよな」と納得していたのが面白かった。生方脚本のドラマを観ていると、同じシーンでも人によって捉え方が大きく変わるのだな…ということに気づき、価値観が広がっていく。

『海のはじまり』第7話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第7話より ©フジテレビ

弥生に感情移入をしていた筆者は、『海のはじまり』序盤、津野(池松壮亮)のことが好きではなかった。海に寄り添って頑張ろうとしているときに、「疎外感、すごいですよね。自分は外野なんだって自覚しますよね」と意地悪なことを言ってくるものだから、「いちいち、そんなこと言わんでいいわ!」とムカっとしてしまったり。嫌味な人だなぁ…としか思っていなかった。

しかし、同じシーンを観ていた友人は、「津野くんの気持ち、めちゃくちゃ分かるわ。急に弥生が“お母さんです”みたいな顔をしているのを見たらイラつくと思う」と言っていて、これぞ生方マジックだな…と。

『silent』や『いちばんすきな花』(フジテレビ系、2023)が、SNSでたくさんつぶやかれていたのは、自分の価値観を話したくなるドラマだったからだと思う。『海のはじまり』の投稿を見ていても、人によってまったく意見がちがうから面白い。

さて、終盤戦に突入した『海のはじまり』。本作の登場人物たちも、『silent』や『いちばんすきな花』のように、自分で選んだ道が幸せに続いているはずだと信じて、突き進んでいってほしい。そして、筆者は今から“ロス”になることを恐れている。

(文:菜本かな)

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